第十二話
「……う~ん」
夕食後、家の玄関にあるポーチに置いてあるベンチに座って伸びをする。
空を見ると、四つの月と満天の星空が見える。
「竜機士か……」
俺は今日の事を色々考えてみる。
竜機兵に乗るのは正直楽しかった。
仕事は欲しいよなぁ。ただ、軍隊に入るってのは何か違う気がする。
……ガチャっと玄関が開いて、夕食後の片付けが終わったのか、サクラが出てくる。
「…………」
「ん?こっちにおいで」
サクラが何か言いたそうにしていたので、横に座らせる。
サクラは口調は結構固いし、大人しい感じがするけど、実は結構表情表情豊かだ……耳が。
「……トール様は竜機士になるのでしょうか?」
サクラは俺の横に座ると。
「うーん……仕事が出来るなら、竜機士は良いかもしれない」
竜機士として実績のあるヴォルトさん夫婦が太鼓判を押してくれた訳だし。
俺がそう言うと、サクラが「ビクッ」とした。
「俺はこれからサクラと一緒に暮らして行くのに、何か仕事を持ちたいんだよね。他に何か仕事が出来るなら、それに越した事無いんだけど、この世界の事もまだよく分からないし……」
「今のままでも良いんじゃありませんか……」
そう言うとサクラは俺の右手に自分の手を重ねてきた。
「今のままかぁ……それはそれで魅力的だけどね」
サクラとこのまま結婚して、サクラはコクヨウさんを手伝いながら先生をして、俺はブラブラしてる……ダメだな。
「……やっぱり自立はしたいなぁ」
「……トール様」
「軍人になるってのも無いなぁ。サクラと離れ離れになるのは嫌だしね」
俺はサクラが重ねている手のひらを反すと、サクラの手を握る。サクラの手は思ったより皮が厚くてゴツゴツしている。でも嫌な感触じゃない。
「まぁ……竜機士になると戦うって事だし、危険も多いと思う。ただ、その時にサクラが一緒なら心強いな」
「私は、これからもトール様の側が良いです」
サクラは俺の手を握り返す。
「二人で一緒に居れるようにさ……色々考えて行こうよ」
「はい」
サクラは、俺の肩に頭を寄せる。
考えたら、この世界に来る前は女性は苦手だったのに、もうサクラには苦手意識が全然無い。むしろ、横で体温を感じていると安心出来る。
二人で色々雑談をしながら、もうちょっとだけベンチに座っていた……。
次の日、俺とサクラはトレーニングと家の用事を終わらせると、ヴォルト夫妻に会いに行った。
このまま生活するにしても、何か仕事を探すにしても、もっと情報と知識が欲しい。
竜機士になるかは別として、俺をまれびとと知っている夫妻ならドール村以外にも商隊護衛で他の村や町に行ってるし、色々話を聞けそうだと、サクラと相談した。
村の中心部に着くと、相変わらずバザーの横に、夫妻の竜機兵のヴェルデンが降着姿勢で待機している。
サクラが言うには「商隊など行商人などは護衛を見せる事によって、襲撃などの抑止をしている」らしい。
盗賊なども村や町に入り込んで、商隊の情報を偵察する事もある。
特に竜機兵などが護衛に付くと、襲撃側もリスクが高いので、街中で見せる護衛をしているらしい。
ヴェルデンの側にはヴォルトさんが厚手の手袋をして、ヴェルデンを見上げていた。
「こんにちは」
俺とサクラはヴォルトさんに挨拶をする。
「おお、二人共。こんにちは」
「リーアさんは?」
「リーアは機兵鍛冶の所だな」
「機兵鍛冶ですか?」
ヴォルトさんが教えてくれるには、竜機兵を専門に整備修理をする職業が機兵鍛冶らしい。
この商隊でも一人居て、ヴェルデンの調子を見てもらっている。
ちなみに、部品などの交換や大掛かりな修理になると、ドール村に無いけど、機兵工房と言う専用の施設を使う。
まぁ、これぐらい複雑な機械だと、専用の整備をする人や場所は必要だろうなぁ。車だってそうなんだし。
「で、今日は何をしに来たんだい?」
「えぇと、今日は話を聞きに来ました。俺はアレなんで、色々情報が足りませんから」
俺がまれびとだと知っているヴォルトさんは、アレで分かったらしい。
「なるほど」
そう言うと、ヴォルトさんはヴェルデンが作る日陰の方に俺達を誘った。
ヴォルトさんの話によると、この世界レオリースは常に戦争状態らしい。
国同士や種族では無く、世界共有の天敵が居る。
「甲蟲類」と言うその天敵は、ヴォルトさんが言うには、でかい虫みたいだが、自分達の巣を中心にあらゆる物を喰らう。
鉱物や草木だけでは無く、人間も動物も食べられるらしい。
一つの巣には大量の甲蟲が居て、全長1メートル~20メートルほどの甲蟲が500匹以上繁殖する。
小型の甲蟲なら人間でも討伐可能だが、5メートルを超える甲蟲は人間が倒すのは至難になってくる。
甲蟲類は伝承によると1500年前ぐらいからレオリースに現れた。
最初期は数も少なく個体も小型が多かったが、次第と大型になり、人類やエルフ・ドワーフなどの「亜人間」や「獣人」はかなり追い詰められたらしい。
一時期はこの世界の最強種の竜が参戦し、多少は盛り返したものの、甲蟲類の繁殖力は旺盛で、優位も一時期だけだったらしい。
そこで、1000年ほど前に当時の賢者や、まれびと、上位竜種の中でも年経た竜達が作り上げたのが、竜機兵らしい。
竜機兵や人種を越えての大反攻の後、かなり生存圏を確保したが、現在も一進一退を続けている。
「じゃあ、竜機兵は人間同士の戦闘は無いのですか?」
「いや、あるぞ」
竜機士同士の戦闘は、腕試しや、掛け試合は結構頻繁にあるらしい。ただ、死人が出る事はあまり無いらしい。
軍隊は基本的に「対甲蟲」の組織で、国同士の争いは代表戦になる。
生存競争の激しいこの世界では、人類を国家間の戦争で消費してしまうと、戦争で勝っても国自体が甲蟲から守れない。
で、意見の食い違いは竜機士や戦士などの代表戦で決着を付けるらしい。
代表戦は竜種に誓いを立てる事で、竜種が調停する。もし調停違反が起こった場合は竜種によって罰を受ける。
「サクラちゃんこんにちは」
そこまで話を聞いていると、リーアさんともう一人子供がこっちに来た。
「こんにちわ、リーアさん」
俺とサクラはリーアさんに挨拶を返す。
「へぇ?この子達がトール君とサクラちゃん?こんにちは、アタシはレリム」
「初めまして、水無瀬徹です」
「サクラです」
リーアさんと一緒に来た女の子が自己紹介をする。
リリムと名乗った女の子は身長130センチぐらいで、量の多そうな青い髪を三つ編みにしている。服装は全体的に厚手の作業服を着ていた。
「レリムはヴェルデンの機兵鍛冶で、俺の4番目の嫁だ」
なんかさらっと言われたけど、子供で4番目の嫁?
俺の驚きが表情に出てたのか、リーアさんがフォローを入れてくれる。
「レリムはドワーフなのよ、小さいけどちゃんと成人してるわ」
ドワーフって言う種族は手先が器用で鍛冶師とかが向いているらしい。
身長も成人しても低く、男は髭があるが女は子供みたいな外見になる。
それと、この世界は一夫多妻が普通らしい。元々戦争状態が長いので、男性の数が少ないのと、多産を推奨している国も多い。
収入があり生活していけるなら、奥さんは3人以上は珍しくも無いらしい。
リーアさんとレリムさんを見ていても仲が良さそうだし、サクラも普通と思っているのか、特に気にしてないみたいだ。
今日は色々話を聞きに来たと、二人に話すとレリムさんがヴェルデンの事を教えてくれた。
「竜機兵の心臓部分は背中にあるのよ」
竜機兵は、背中にある「竜の鱗」が一番重要部品で、竜の鱗が空気中の「フロギストン」と言う燃素を吸収し、各部の筋肉筒を伸縮させる事で動く。
他にも竜の鱗は人間で言う脊髄の役目もあり、竜機士の操縦を制御し、各関節に動作指示を出す機能もある。
それに、軽量や硬化など全体効果の竜魔法が常に竜機兵に効果が出るようにも、機能としてはある。
実際に見せてもらったが、縦1メートル横70センチほどの縦みたいな緑色の鱗がヴェルデンの背中に付いていた。
背中の装甲をレリムさんがずらすと、竜の鱗が露出して裏側に銀色の配線らしきものが見える。
竜の鱗は入手が難しく、一番多いのは竜の脱皮した物から採取されるもので、品質的に普通。品質が良い物は生きている竜から貰った物らしい。
鱗の部位とかでも変わるが、竜の鱗と筋肉筒でで竜機兵の出力は変わる。
筋肉筒は甲蟲類の筋肉を討伐後、集められて処理され、作られる。ちなみに、甲蟲類の筋肉組織は食べれるらしい。
竜機兵には骨格があり、それに筋肉筒が付いていて、その外側に甲蟲類の外骨格や金属を加工して装甲にしている。甲蟲類の外骨格は他にも人間の鎧にも使われる。
「なるほど……」
ヴェルデンはヴォルトさんの曽祖父の時代から使われている竜機兵で、骨格はこの辺りの一般的な設計の骨格だが、竜の鱗はヴェルデンさんの曽祖父が竜から直接貰った物で一般的な竜機兵よりもかなり出力が高いらしい。
「そろそろ食事に行こうか、おごるよ」
レリムさんの話を聞いていると、ヴォルトさんが声をかけてくれる。
その後、五人でリベリアの居るさざなみ亭に行き、昼食をおごってもらった……。
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