第九話
俺はその日、サクラと二人で畑の手入れをしていた。
植えているのは葉野菜とハーブが多いが、芋類も植えている。今の季節はこの地方だと夏なので雑草が多い。
「……腰がいてぇー」
しゃがんで、雑草を取る作業を暫くしていたので腰が痛い。
「うふふ」
立ち上がって腰を伸ばしていると、横で帽子をかぶったサクラが笑っている。
俺と婚約してからのサクラはよく笑う。
「もう少しで、食事にしましょうね」
「おー」
俺は、抜いた雑草を乾燥させるために集めながら、返事をする。
そんなに広くない畑でも農業も大変だ。
何気なく街道の方を見ると、遠目に村の方に向かって3台の馬車?と人が歩いている。
「ん?サクラ、アレは?」
「あぁ、村に行く商隊ですね」
ん?……あれ?
何か縮尺がおかしい……。
「商隊は一ヶ月に一度周って来ます。商隊が来るとバザーが立ちますので、後で行きましょうか?」
サクラの説明を聞きながら商隊の方を見ている。
家の近くまで来ると大きさが分かる。馬車は四足の恐竜みたいなのが曳いてて、二階建てのバスぐらいの大きさがある。
……鎧?いや違う、ロボット?!
それに、側を歩いていた赤っぽい人型のロボットは10メートルぐらいの身長があった。
「さ、サクラ、アレは?」
「護衛の竜機兵と商隊の竜車ですね」
家の下ぐらいまで来ると、俺達に気がついたのか、竜機兵がこっちに手を振った。
凄いなぁ、人間みたいにスムーズに動いている。
サクラも竜機兵に手を振り返す。
「人が乗ってるのか……知り合い?」
「ええ」
「お?ヴォルトの奴が来たか、サクラよ。バザーに行くなら、ちょっと手紙を渡してきてくれんか?」
いつの間にか家の外に居たコクヨウさんが、サクラに頼み事をする。
相変わらずコクヨウさんは気配が無いなぁ。
「あ、はい。では今日は早めに昼食にしますね」
「んじゃ、俺が片付けるから、サクラは昼食をよろしく」
「はい」
サクラを先に家に帰すと「ロボットとか異世界凄いなぁ」と考えながら道具を片付けた。
サクラと二人で市に出かける。今日は買出しの量が多いので、二人ともリュックを背負っている。
「トール様、何か食べたい物ありますか?」
「んー……この前食べた肉の串焼きは美味しかったなぁ」
そろそろ米が食べたいけど、この世界には無いかなぁ。
とりあえず先週食べた串焼きをリクエストする。
「そうですね、肉は買って帰りましょう」
「それと、食べたい物じゃ無いけど、釘と釣り針は欲しいかも……」
納屋の中に釣り竿はあったが、釣り針は無かったので、売ってれば手に入れたいと思う。釘は家の修理で結構使ったのでそろそろ備蓄が無くなって来た。
折角、近くに海があるので、魚も釣ってみたい。
「両方買って帰りましょう。あと、トール様の服と布も見ましょうね」
実は、我が家?は結構お金持ちらしい。コクヨウさんは産婆をしててサクラはその手伝いをしているが、今の仕事以外に、コクヨウさん曰く「昔、荒稼ぎしてのう……」との事で貯蓄が結構あるらしい。
「遠慮はするなよ」と、コクヨウさんに言われているけど。まぁ、俺のお金でも無いし、頼るのもダメだと思うので、財布はサクラ任せだ。
村の中心部に着くと、バザーが立ってるためか、人通りが多い。
この世界には、日曜みたいに毎週決まった休日は無く、建国日などの祭日が年に何回かあるぐらいらしい。
バザーは、商隊が決まった日に来るので、それに合わせて開かれるらしい。
商隊の竜車の前に仮設の店舗が出来ていて、そこに人が集まっている。
商隊が持ってきた他の地方の商品や、この村で手に入り難い商品を扱っている。逆に猟師ぽい人が、毛皮とかを商隊の人に売っているのが見える。
「あ、せんせー!」
バザーに近づくと、サクラの生徒の子とその親がサクラを見つけて挨拶をしている。
「でかいなぁ……」
俺は商隊の竜車の横に立っている竜機兵を見上げていた。
頭と胴体、それに手足があり、手の指もちゃんと5本ある。腰に剣を吊っていて左手には盾も持っている。
赤っぽい鎧に包まれた竜機兵は各所に傷があり、使い込まれた感じがする。
竜機兵は首をゆっくり廻らせていた。
車のエンジンの音のとかがしないので、どういった動力で動いているかは分からない。
「……おまたせしました」
「ん?あぁ」
俺が竜機兵を見ていると、挨拶は終わったのかサクラが側に来る。
すると、竜機兵がこっちを見て、片膝を着くように動く。
おー……。
竜機兵はスムーズに片膝を着いた状態になると、「バクンッ」と胸の部分が上の向かって開いた。そして、開いた中から皮鎧を着た男の人が降りてくる。
男の人は紅い髪と不精髭の生えた、身長180センチの筋肉質な人で年齢は40代ぐらいだ。
ニコニコしながら俺達の方に歩いて来る。
「おう!サクラッ!元気にしてたか?」
「お久しぶりです。ハルデー卿」
知り合いなのかサクラと男の人と挨拶を交わす。
「コクヨウ殿は?」
「お母様は今日は来ていませんが、ハルデー卿宛に手紙を預かってます」
サクラがそんなやり取りをしていると、竜機兵からもう一人降りてくる。
男の人と同じような皮鎧を着た、金髪で10代後半ぐらいの若い女性だ。この人もかなり美人で、ウェーブのかかっている長い髪を頭に巻いた紅いバンダナで抑えている。耳がサクラのように長いのでエルフだろうか?。
「……サクラちゃんッ!」
そのエルフの女性はサクラの名前を呼ぶと、サクラに抱きついた。
「……お久しぶりです。リーアさん」
サクラは抱きつかれて、ちょっと迷惑そうに挨拶をする。ハルデー卿と呼ばれた男の人は、サクラに抱きついているエルフの女性に苦笑している。
「あら?こちらの人は?」
リーアと呼ばれたエルフの女の人が、俺に気が付いてサクラに聞く。
「こちらはトール様です」
「水無瀬徹です」
俺は二人に名乗る。
「……で、サクラちゃんとどんな関係かしら?」
まぁ、聞かれると思った。
「サクラの婚約者です」
俺が答えるとサクラがちょっと驚いた顔をする。そういえば自分から婚約者って言った事無かったな。
「……ほう」
「……あら、あらあらあら♪」
リーアと呼ばれたエルフの女性は、サクラを放すと俺の側に来て観察する。大阪のおばちゃんかよ……。
男の人も俺の側に来て、笑顔で右手を出してくる。
「ヴォルト・ハルデーだ。ヴォルトで良い……よろしく」
「よろしくお願いします」
ヴォルトさんと握手をする。
「で、コイツは俺の嫁のリーアだ」
「リーア・ハルデーよ♪」
「よろしくお願いします」
若い奥さんだなぁ。
「ハルデー卿、こちらがお母様から預かった手紙です」
二人に挨拶をしていると、サクラが手紙をヴォルトさんに渡した。
ヴォルトさんは手紙を受け取ると、開封して読み出した。
「……ふむ、リーアちょっといいか?」
「何かしら?」
リーアさんはコクヨウさんの手紙を受け取る。
「……なるほどね。サクラちゃんのサイズは分かるわ、トール君のはちょっと待って」
とリーアさんは言うと、「失礼、ちょっと両手を上げて」と言って俺に抱き付いてきた。
リーアさんは自分の腕で俺の胴回りと腰周りのサイズを測ると腰のポーチから帳面を出してメモしている。
「結構鍛えてるわね」
「どうだ?商隊の在庫であつらえるか?」
ヴォルトさんがリーアさんに聞く。
「いえ、アナタの予備を手直しすれば大丈夫ね。サクラちゃんの分は私の予備でいけそうよ」
服か何かの事かな?とりあえず聞いてみよう。
「えー……」
「あぁ、ごめんなさい。明日には準備出来るから……そうねぇ、昼頃、家まで持って行くわ」
サクラの方を見ると、何の事か分からないらしくサクラも首を振った。まぁコクヨウさんのする事だしなぁ。
「では、明日の昼食は腕を振るいます」
サクラが明日の昼食に二人を招待する。
「そうね、色々聞きたい事もあるし……良いでしょ?アナタ」
「あぁ、今日は着いたばかりでゴタゴタしているが、明日は時間が取れそうだ。土産もあるし、お世話になるよ」
「腕がなるわ~♪」
「では、今日はこれで失礼するよ。コクヨウ殿によろしく」
そう言うと、別れの挨拶をして、ヴォルトさん夫婦は腕を組んで、竜機兵の方へ歩いて行った。
「……良い人達そうだね」
「ええ、お母様の古くから知り合いです。じゃあバザーの方に行きましょう」
二人でバザーを覗く。結構規模が大きく、品数も豊富だ。
食料品が多いが、生活用品や衣料品、武器防具なども売っている。果物なども売っていて、見た事無い物も多い。
食料品はまれびとの影響なのか、海外によくある楕円形の西瓜とかレモンとかがあり、地球と近い感じがする。
「へぇ……パスタとかもあるのか……おお!これは?!」
「何か気になる物でもあります?」
麦とかの穀物類の端に玄米らしきものがある。
「これって、米?」
「お米ですね。この辺りでは採れないので、ほとんど出回っていませんが……そうですね、今晩はピラフにしましょう」
サクラはそう言うと店員を呼び、大振りな銅貨を5枚ほど払うと、玄米を2キロほどとパスタを1キロ買った。
この世界の通貨とか商品の相場とかも覚えないとなぁ。
「おぉ……ありがとう」
サクラから玄米の入った袋を受け取ると、礼を言う。
その後は、サクラに付き合って、果物や調味料を買ったり、反物を見たりした。
バザーでの買い物が終わると、鍛冶屋に行き、釘と釣り針を買って、家に帰った。
家に帰ってから、今日買った精米と明日のヴォルトさん夫婦に振舞う料理の仕込みの手伝いをした。
精米は口の狭い壺に入れて、棒でひたすら突くのが大変だったけど、久々の米は美味かった。
コクヨウさんも米は好きらしかったが。ピラフよりも白米で食べたかったらしい。
俺があんまりにも嬉しそうに見えたのか、サクラは「お米の料理の練習をします!」と意気込んでいた。
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