第八話
朝起きて、日課のランニングを終わらせると、ビャクダンをコクヨウさんに教えてもらった型通りに振りながら、昨日の家に帰ってからの事を思い出す。
「お嬢さんを、俺にください……」
「……はぁ?よく聞こえんなぁ」
「っ!……お嬢さんを、ボクにくださいっ!」
「サクラは儂のモノじゃ無いしのう……くださいって言われてものう……」
この人は……。
コクヨウさんは家に帰ると、サクラさんが「夕食の用意をしてきます」と台所に行ったとたんに、「育ての親と言っても親は親じゃ、夫婦になるなら親への挨拶はどうしたんじゃ?」とか真面目な顔で言った割には遊んでやがる……。
俺は恥ずかしさの余り、もう止めようと思ったら、サクラさんが台所の方からジーっと見ている……。
……あー、もう!
「サクラさんを一生かけて幸せにします!結婚させてくださいっ!」
「……ま、よかろう」
俺がそう言うと、コクヨウさんはニヤリと笑った。
俺は恥ずかしさで、顔が真っ赤になっているのが分かった。
その後、コクヨウさんが言うにはこの世界は大体、15歳ぐらいで結婚するのが普通らしい。
コクヨウさんが「行き遅れにならんで良かったわ」と笑っていると、食事の用意が出来たらしくサクラさんが料理を運んできた。
「おぉ、今日は豪勢じゃな」
「今日は買い物も行きましたし、お裾分けも頂きましたから」
あれ?
そう言うと、いつも、俺の斜め前に座っていたサクラさんが俺の横の席に座る。
「さびしいのう……」
と、言いながらコクヨウさんが、こっちを見ている。
「トール様、どうぞ」
「え?あぁ、サクラさんありがとう」
サクラさんは俺の横で、水を入れてくれたり、かいがいしく世話をしてくれる。
「様」に戻ってるし。
「……サクラです」
「え?」
「サ ク ラ で す」
自分は「様」付けなのに、女の子はずるい……。
「さびしいのう……」
食事が終わって、サクラさんが入れてくれたお茶を飲む。今日は緑茶ぽい。
コクヨウさんは今日買ってきたワインを飲むらしい。
「はぁ……一本だけですよ」
「エー……めでたい日じゃのにー」
この前、お酒は好きって聞いたけど、そんなに飲むのかねぇ。
コクヨウさんは子供みたいにごねている。
コクヨウさんはごねるのを止めると、俺の隣に座る。
「……だ ん な さ ま♪」
「は?」
コクヨウさんは、いきなり俺にしなだれかかってくる。
うお、相変わらず良い匂いが……。
「嫁が苛めるんじゃー、鬼嫁じゃー」
鬼嫁て……。
まぁコクヨウさんがいつもより、テンション高くて、ふざけてるのも分かる。
「お母様?」
「サクラのモノは儂のモノ、儂のモノは儂のモノじゃ……のう、旦那様♪」
コクヨウさんはサクラさんに見せ付けるように、しなだれかかる。
「……旦那様?お母様、……だ れ の の旦那様ですか?」
キンッ!って感じの硬質な声が聞こえる。
「……お、おぉ」
怒ってると思ってたサクラさんの方を見ると、アヒル口で泣きそうになってる。
あんな表情も出来るのかぁ。
「……コクヨウさんコクヨウさん、サクラさんが泣きそうになってますが……」
俺は小声で言う。
「……やりすぎたかのう?」
「……多分」
コクヨウさんは俺から離れて座りなおす。
「い、一本でおねがいします……」
……コンコン。
寝るために着替えていると部屋の扉がノックされた。
「はい」
「……儂じゃ、ちょっと付き合え」
廊下から、コクヨウさんが俺を呼ぶ。
コクヨウさんに付いて居間の方に行くと、暖炉の前のソファーにの方に座る。
コクヨウさんは、俺達が昼間買ったワインをまだ飲んでいたのか、手酌でコップに注ごうとする。
俺は陶器のワインボトルを掴むと、コクヨウさんのコップに注いだ。
「お、すまんのう……小僧も飲むか?」
元高校生の俺は、まぁ親戚に鍛えられて飲めない事無いけど、真面目な話になりそうなので止めておいた。
「いや、俺はいいです、サクラさんは?」
「……もう寝た」
サクラさん話かな?。
コクヨウさんは一口ワインを飲むと。
「……水無瀬徹殿」
「はい」
「サクラの事、ありがとう」
コクヨウさんは俺に頭を下げた。
「……サクラはな、まぁ儂の子じゃない」
俺は知っていたので頷いた。
「サクラは捨て子なんじゃが、原因が髪の毛の色でなぁ」
「黒髪がですか?」
「元々エルフと言う種族は信心深くてなぁ。黒色を忌むんじゃよ、それと、この大陸では黒髪自体も忌避されとるからの」
俺は自分の髪の毛を触る。
「まぁエルフからすると黒色はは闇の精霊の領域でな、黒髪の女のエルフは良くないモノを呼ぶ巫女だと考えられておる」
「それは、実際に闇の精霊を呼べるのですか?」
「……わからん、そもそも成人した黒髪のエルフの話は聞いたことが無いし、闇の精霊もどんなモノか聞いたことも無い」
まぁ、サクラさんが危険なモノとか呼べるとは思えない。
「でだ、もう一つのこの大陸での黒髪の話なんじゃが……」
「はい」
「昔な、500年ほど前に黒髪のまれびとがおってな。かなり無茶したんじゃ。この村では儂もおるし、そう言った意識は低いがな」
「……はい」
無茶ねぇ……。
「その影響で、黒髪はまぁ忌避されておる。東方まで行けば黒髪は多いが、今は陸路では行けなくてな、海路で細々とやり取りしてるだけじゃ」
コクヨウさんはワインを飲む。
「……サクラは頭が良い子じゃが、そう言う生まれもあってな、色々考えすぎる。儂にわがままもほとんど言ったこと無い。……それが、徹殿が来てからサクラは楽しいそうでなぁ。婚約の話はサクラが自分で決めた事じゃ、徹殿もこの世界に来て戸惑う事は多いと思うが、娘の事をよろしくおねがいします」
「はい、俺もよろしくお願いします」
サクラさんとの事は、予想外で勢いもあったけど、サクラさんを守って俺がこの世界で生きて行くのにも必要だと思った。
「まぁ硬い話はこれぐらいじゃが、ちと二人の事で考えがある。……まぁ10日後ぐらいになるが、楽しみにしといてくれ」
「はい、じゃあ寝ます。おやすみなさい」
「おう、おやすみ」
俺は立ち上がると部屋に向かった。
「……10日後ねぇ」
俺は素振りを終わらすと、汗を拭きながら呟いた。
「10日後が何か?」
「あ、サクラさん、おはよう」
横にいつの間にか近くに居たサクラさんに挨拶をする。
…………。
……………………。
ん?あぁ……サクラさんはアヒル口になっている。
「あー、おはようサクラ」
「はい、おはようございます」
俺は自分にだけ向けてくれる笑顔を見ると、彼女のために色々頑張ろうと思った……。
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