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天女の笑顔  作者: 時宮のシロ


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8/9

父親の視点 笑って欲しいね (第1話「ねぇ、一緒に写って!」より)

 息子の笑い声が響く、夜のリビング。

 私はいつもの一人掛けの椅子に腰を下ろし、目の前の光景を眺めている。


 ソファには、もう私より体の大きくなった息子が、少年の頃と変わらない癖で寝そべり、その隣に十一歳の娘が少し窮屈そうに座っている。


 息子はおかしな話を、キラキラした目で私に向かって話してくる。

 私が笑うと、彼も嬉しそうに笑う。

 昔から変わらないその様子が可愛くて、ついまた笑ってしまう。


 息子は私の反応に得意げになりながらも、隣の娘を気にしている。

 以前は息子の後を追いかけてばかりいた娘が、ここ最近はあまり会話に入らず、タブレットを見ている時間が増え、笑顔も少なくなった。


 年頃なのか、何かあったのかと様子を見ているが、部屋にこもるわけでもなく、毎晩こうして隣にいる。

 今のところ大きな問題はなさそうにも見える。


 それでも息子は、娘の変化に戸惑い、どこか寂しそうだ。

 わざとソファで大きく広がって、娘の反応を引き出そうとしているようにも見える。


「お兄ちゃん、お父さん。」


 私と息子の顔を交互に見て考え込んでいた娘が、思い立ったようにタブレットをこちらへ向ける。


「私とこういう写真を撮って!」



 娘はSNSで家族写真を検索して見ていたらしい。


「家族写真かな。みんないい顔をしているね。」


 お願いごとをされて嬉しそうな息子に、娘が真顔になったのを見て、私は急いで声をかける。

 息子は指で画面をスクロールしていく。


「撮ってどうするの? SNSにアップするの?」


「決めてないけど欲しいの。今しか撮れないって感じの写真が欲しい。」


「この子、可愛いじゃん。」


 息子がスクロールを止め、指さした先に、最近の娘とそっくりな表情の女の子がいた。

 私は思わず吹き出してしまう。


(息子は、娘のことをよく見ているなぁ。)


「私こんな顔してないもん。」


「いいよ、じゃあ撮ってみよう。この顔が……ふはは! 写らないか試そう。」



 ソファに座り直した息子が、タブレットを操作してカメラ機能を起動させる。

 私も娘を促し、娘を挟む形でソファに並んで座る。

 息子がカメラ画面に私たちを映す。


「ほら、撮ろう。さん、に、いち……。」

(シャッター音)


【写真】笑顔を作った娘と、真顔の息子、笑顔の私。


 息子があえて真顔を作った意図に、思わず笑いそうになる。

 その横で娘はすぐに息子を見上げて睨む。


「みんなが笑顔の写真がいいの! お兄ちゃん、笑ってよ。」


「ははは! ほら、カメラ見て。さん、に、いち……。」

(シャッター音)


【写真】笑顔を作った娘と、しかめっ面の息子、笑顔の私。


 見慣れた息子の真顔としかめっ面の繰り返しに、胸の奥がふっと温かくなる。

 この子は、こうやって娘を笑わせようとしているのだ。


「ねえ! お兄ちゃん! もう、ちゃんとやってよ!」

(シャッター音)


【写真】兄に向かって目を釣り上げて怒る娘と、大笑いする息子、顔をほころばせて見守る私。


「やだ! やだやだ、あーあ、もう!」


 娘には、きっと息子が意地悪をしているように見えたのだろう。

 娘は怒って息子をソファに押し倒し、そのまま隣室にいる妻のもとへ駆けていく。


 部屋を出ていく娘の背中に、自分の失敗を悟ったのか、息子が慌てて起き上がる。


「大丈夫だよ。お母さんのところに行ったんだから。あの写真のような笑顔を引き出してやりたかったんだろう? ──あの子は最近、以前のようには笑わなくなったからなぁ。」


 そう、以前のように娘が笑っていたなら、息子の真顔やしかめっ面も、きっと遊びとして成立していたはずだ。

 あれは娘がよく笑っていた頃に、何度も笑い出していた顔だったからだ。


「お母さんのところから戻ってきたら、今度は笑顔はあの子に任せて撮ってやろう。」


「うん……。」


 私は一人掛けの椅子に戻り、タブレットに触れる息子を静かに見守る。


 息子は、娘が見せていたSNSの家族写真を、ゆっくりとスクロールしていく。

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