兄の視点 泣かせてしまった (第4話「勇気を出したの」より)
本編第4話「勇気を出したの」と同時間軸の、兄視点エピソードです。
妹がリビングに戻ってきた。
俺は父さんとの話をすぐにやめて、妹を手招きする。
「おいで。もう一度撮ろう。もうからかわないから。」
今度こそ優しくしてやろうと思い、妹のために座り直して、ここだと場所を示す。
けれど妹には怪しく見えたのか、また表情を硬くしてみせる。
父さんも一人掛けの椅子からソファへ移り、妹を促す。
妹は父さんの誘いには素直に従い、俺と父さんの間に座った。
母さんと何を話したんだろう。
妹は気持ちを立て直しているように見える。
(さすが母さんだなぁ……。)
母さんがこうすることは、父さんも想定していたらしい。
母さんはいつも、人の気持ちを扱うのがうまい。
俺はまたタブレットのカメラ機能を起動させる。
ソファに座った俺たちを、画面に収める。
「じゃあ撮るよ。さん、に、いち……。」
(シャッター音)
【写真】硬い笑顔を作った妹と、優しそうに笑う俺、笑顔の父さん。
これでいいだろ、文句はないはずだ。
……妹のこの硬い笑顔だって、これはこれでいいんじゃないか?
横目で妹を見ると、スカートの膝あたりをぎゅっと握っている。
──望んだ笑顔じゃないんだよな。
妹はまっすぐに、写真に写った自分を見つめている。
「もう一回。」
顔をタブレットに向けたまま、妹は俺に言う。
俺は逆らわない。
「はいはい。さん、に、いち……。」
(シャッター音)
【写真】真顔になった妹と、優しそうに笑う俺、笑顔の父さん。
──ん? 笑顔はどこ行った?
「おい……。笑顔で撮るんだろう?」
俺は妹の顔を覗き込む。
妹は抵抗するように体を引き、小さく口を尖らせる。
「わかってるよ。」
(あーあ。またカチコチだ。)
俺が父さんと一緒に笑ってみせても、妹には届かない。
もちろん、撮影中にからかうつもりはない。
ただ、こういうときの“必勝法”は分かっている。
「おい……。」
俺は、妙に固まった人形みたいな真顔を作って妹に迫る。
妹は昔から、これに弱かった。
案の定、妹は吹き出す。
「ふふっ……! ん!」
すぐに笑いを消して、目を逸らし口をへの字にする。
俺は続ける。『ヘソが曲がった妹を笑わせる、必勝法その2』だ。
さらにしかめっ面を作ったまま、ゆっくり妹に顔を近づける。
「ふ! ──やだ。やめてよ、お兄ちゃん。」
妹は視線を逸らしながらも、笑いを堪えきれていない。
それを見て父さんが笑い出し、妹もつられて笑ってしまう。
慌てて笑顔を消す。
(ほら、やっぱり笑いたいんだろ。)
俺も笑い出し、父さんも穏やかに笑う。
──妹の顔がみるみる引きつって赤くなる。
(あ! しまった!)
妹は顔を歪めて上を向き、ぎゅっと目をつむる。
「お兄ちゃん──やだ!」
言い切る前に、ボロボロと涙がこぼれ落ちた。
「ふえーん……!」
妹が、昔みたいな顔で泣いている。




