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天女の笑顔  作者: 時宮のシロ


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9/9

兄の視点 泣かせてしまった (第4話「勇気を出したの」より)

本編第4話「勇気を出したの」と同時間軸の、兄視点エピソードです。

 妹がリビングに戻ってきた。

 俺は父さんとの話をすぐにやめて、妹を手招きする。


「おいで。もう一度撮ろう。もうからかわないから。」


 今度こそ優しくしてやろうと思い、妹のために座り直して、ここだと場所を示す。

 けれど妹には怪しく見えたのか、また表情を硬くしてみせる。


 父さんも一人掛けの椅子からソファへ移り、妹を促す。

 妹は父さんの誘いには素直に従い、俺と父さんの間に座った。


 母さんと何を話したんだろう。

 妹は気持ちを立て直しているように見える。


(さすが母さんだなぁ……。)


 母さんがこうすることは、父さんも想定していたらしい。

 母さんはいつも、人の気持ちを扱うのがうまい。



 俺はまたタブレットのカメラ機能を起動させる。

 ソファに座った俺たちを、画面に収める。


「じゃあ撮るよ。さん、に、いち……。」

(シャッター音)


【写真】硬い笑顔を作った妹と、優しそうに笑う俺、笑顔の父さん。


 これでいいだろ、文句はないはずだ。

 ……妹のこの硬い笑顔だって、これはこれでいいんじゃないか?


 横目で妹を見ると、スカートの膝あたりをぎゅっと握っている。

 ──望んだ笑顔じゃないんだよな。

 妹はまっすぐに、写真に写った自分を見つめている。


「もう一回。」


 顔をタブレットに向けたまま、妹は俺に言う。

 俺は逆らわない。


「はいはい。さん、に、いち……。」

(シャッター音)


【写真】真顔になった妹と、優しそうに笑う俺、笑顔の父さん。


 ──ん? 笑顔はどこ行った?


「おい……。笑顔で撮るんだろう?」


 俺は妹の顔を覗き込む。

 妹は抵抗するように体を引き、小さく口を尖らせる。


「わかってるよ。」


(あーあ。またカチコチだ。)


 俺が父さんと一緒に笑ってみせても、妹には届かない。


 もちろん、撮影中にからかうつもりはない。

 ただ、こういうときの“必勝法”は分かっている。


「おい……。」


 俺は、妙に固まった人形みたいな真顔を作って妹に迫る。

 妹は昔から、これに弱かった。


 案の定、妹は吹き出す。


「ふふっ……! ん!」


 すぐに笑いを消して、目を逸らし口をへの字にする。


 俺は続ける。『ヘソが曲がった妹を笑わせる、必勝法その2』だ。

 さらにしかめっ面を作ったまま、ゆっくり妹に顔を近づける。


「ふ! ──やだ。やめてよ、お兄ちゃん。」


 妹は視線を逸らしながらも、笑いを堪えきれていない。

 それを見て父さんが笑い出し、妹もつられて笑ってしまう。


 慌てて笑顔を消す。


(ほら、やっぱり笑いたいんだろ。)


 俺も笑い出し、父さんも穏やかに笑う。


 ──妹の顔がみるみる引きつって赤くなる。


(あ! しまった!)


 妹は顔を歪めて上を向き、ぎゅっと目をつむる。


「お兄ちゃん──やだ!」


 言い切る前に、ボロボロと涙がこぼれ落ちた。


「ふえーん……!」


 妹が、昔みたいな顔で泣いている。

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