第4話 勇気を出したの
少女は母親のもとを離れ、リビングに戻ってきた。
父親と談笑していた兄が、少女に気づいて手招きする。
「おいで。もう一回撮ろう。もうからかわないから。」
少女が座る場所を示しながら、兄はどこかおどけた調子だ。
その様子に、少女は表情を硬くして応じる。
父親も一人掛けの椅子からソファへ移り、少女を促す。
少女はおとなしく歩み寄り、兄と父親の間に腰を下ろした。
兄がタブレットのカメラを起動し、三人を画面に映す。
「じゃあ撮るよ。さん、に、いち……。」
(シャッター音)
【写真】笑顔を作った少女と、優しそうに笑う兄、笑顔の父親。
少女はスカートの膝あたりを握り、写真の自分を見つめる。
「もう一回。」
「はいはい。さん、に、いち……。」
(シャッター音)
【写真】真顔になった少女と、優しそうに笑う兄、笑顔の父親。
「おい……。笑顔で撮るんだろう?」
兄が少女の顔を覗き込む。
少女は顔をそらし、口を尖らせる。
「わかってるよ。」
「おい……。」
兄が妙に固まった人形のような真顔を作る。
少女はその顔に耐えきれず、吹き出す。
「ふふっ……! ん!」
すぐに笑顔を消し、目を逸らして口を引き結ぶ。
兄はさらにしかめっ面を作り、ゆっくりと少女に顔を近づける。
「ふ! ──やだ。やめてよ、お兄ちゃん。」
少女は必死に目を逸らし、笑いをこらえる。
その様子を見ていた父親が、思わず笑い出す。
少女はつられて笑ってしまい、慌てて真顔に戻す。
兄はそんな少女に、可愛くてたまらないというように笑い出し、父親も穏やかに笑う。
──少女の顔がみるみる引きつる。
顔を歪めて上を向き、ぎゅっと目をつむる。
「お兄ちゃん、──やだ!」
ボロボロと大粒の涙が両目からこぼれる。
止められない。
家族の前で泣くなんて、いつぶりだろう。
赤ちゃんみたいで恥ずかしい。
少女は、声をあげて泣き出した。




