第3話
「天女の笑顔……。前にも聞いたことがあるけど、よくわからなかったよ。」
もどかしそうに、首を傾げる少女。
「お母さんが天女に会ったのは、スーパーのケーキ売り場の前なんでしょう?」
「そうだよ。」
「スーパーでどうして会うの?」
「私だってわからないよ。私が高校生の時、こーんな顔して、いつものスーパーにいたら……。」
母親がすっと表情を殺してみせる。
板についた、能面のような表情。
「この顔でいつもいたよ。それで、その日スーパーにいた時も、この顔を崩さないようにしていた。」
少女は話に引き込まれ、自然と母親の表情を真似ている。
「そうしたら、売り場の前に年配の女性が立っていた。普通の服だけど、上品な感じで、私をじっと見てきたの。」
母親の目は、その女性を今まさに見ているように、遠くを見つめている。
「なんか見てくるなって思って、そのマダムと目を合わせたら、こう──こうしてきたの。」
母親は少女と目を合わせた。
少女には、母親の柔らかな表情が光るように、何かが顔に宿るように見える。
母親は両目に真っ直ぐな光を宿し、優しさを湛える。
そしてゆっくりと、花がほころぶように、少女に笑顔を向けた──。
少女はその、小さな頃から見慣れた母親の笑顔に息を呑む。
とても美しいと思った。
「雷に打たれたような気持ち。バーンって何かが降ってきたような心地だった。その時から……。」
恥じらうように少女を見つめる母親。
「私は、それまでの顔をやめることにしたの。」




