34話 刺激
工場の外に広がる景色を、タカシは静かに眺めていた。
人は増えた。
流れはできている。
だが――
「……まだ足りないな」
ぽつりと呟く。
無意識だった。
何かを考えるとき、
決断を下すとき、
タカシの中に、わずかな“空白”が生まれる。
それを埋めるように――
「アーシャ」
呼びかける。
次の瞬間、隣に気配が現れた。
「はい」
柔らかい声。
タカシはちらりと視線を向ける。
“安心”を感じる、彼女との接触はいつも心地いいものだ。
「……ちょっといいか」
「はい」
タカシはアーシャに一歩だけ近づく。
その距離は、わずかに近い。
そして、
ぎゅっ
「は?」
抱きしめていた
「は?、え、ぇん?」
「⋯」
何も言わず、ただ自分を抱きしめる主に、アーシャ は困惑していた
――これは、“必要な行動”か、この行動の意図は
瞬時に解析を開始する。
しかし、答えが出ない、いつもあらゆる事象を瞬時に 解析できるはずなのに。今この瞬間 目の前にいる 主の行動を理解できなかった。
「あの、タカシさま」
ぎゅ
自分を抱きしめる 腕がいっそ強まったことに、アーシャは困惑を隠せない
「⋯っん!」
そんな時間が10分ほど届いた、最初は緊張で体をこわばらせていたアーシャだったが、諦めたのか 次第に緊張が解けていった。
そして
「⋯ふぅーいや、すまんね 急に、」
「い、いえ、」
未だに心臓の音が激しい、密着状態の時 絶対に気づかれていた、そんな考えが脳裏をよぎり うまく 思考がまとまらない。
それでも なんとか今ある疑問を口に出す
「ど、どうかなされたのですか」
自分が思うより、今この状況に緊張している、そう思った時 ひたすらに
(あつい)
感じたことのない 熱が、自分の奥深くを燃やしているのではないかという錯覚を覚えた。
(あつい、あつい、あつい)
落ち着いたはずの緊張が再び ぶり返してくる、目の前の主から目が離せない、
呼吸を整えながら、主の返答を待っていると。
「いやー、女の人ってやっぱ 偉大ですな、抱きしめてると落ち着くと言うか、安心できると言うか、考えがまとまりますわ。」
「⋯⋯は?)」
「いやね、頭の中がいっぱいいっぱいで考えがまとまらない時とかって、どうやってもへらっちゃうのよ、そんな時に異性のぬくもり っていうのを感じると元気が出ると言いますか 何と言いますか。」
タカシは悪びれもなく言い切った。
アーシャはしばらく沈黙する。
「……つまり」
言葉を選ぶように、ゆっくりと口を開く。
「私は、“思考整理のための補助装置”という認識でよろしいでしょうか」
「言い方がひどいな」
タカシは苦笑する。
「そういうのじゃなくて、もっと親しみのあるものというか、もしかして嫌だった?」
少し自分の表情を気にする主に思いやりを感じまた少し 動揺する。
「い、いえ、嫌というわけでは、ただ少し急だったので」
「ごめんごめん、今度からちゃんと 許可を取るよ」
「.....」
「な、なに」
「⋯はぁ、いえ、もういいです。」




