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通常航行の理由

漆黒の虚空に展開する、十万の絶望。しかし、その「絶望」の正体を知る者がもし地球にいたならば、これほどまでに滑稽で、かつてないほど「奇妙な熱狂」に包まれた軍隊は存在しないと断言しただろう。



ノースライビア帝国宇宙軍第四艦隊。



それは銀河の版図を広げるために幾多の惑星を版図に収めてきた、帝国最強の座を争う盾であり矛である。


現在、太陽系外縁の重力静止ポイントを出発した十万隻という膨大な数の艦影が整然と行進をしていた。その様は、まるで宇宙というキャンバスに打ち込まれた「動く鋼鉄の星座」だ。



その中心に鎮座するのが、第四艦隊旗艦『ペルセフォネ・デルタ』である。



全長五キロメートルに及ぶ漆黒の円盤型船体。その表面を覆うマットブラックの特殊装甲は、レーザー波も可視光も、あらゆる物理的痕跡を呑み込む「虚無」の結晶であった。周囲の星光を完全に吸収するその姿は、光り輝く星々の中に穿たれた、宇宙の深淵そのもののようだった。


船体の外縁を重厚に縁取るのは、翡翠の燐光を湛えた二条の半透明な光輪である。


その光の帯には、未知の文明の英知を刻んだ巨大なルーン文字のようなものが精緻なホログラムとして浮かび上がり、規則正しい静謐さで配列されていた。


互いに逆位相へと回転を続けるこの二つの光輪は、内蔵された永久機関が紡ぎ出す膨大なエネルギーを物理的な力へと変換し、宇宙の深淵を穿つ絶対的な推進力を生み出していた。


その最深部にある巨大な球形ドーム型艦橋。そこは、数千の演算ユニットが奏でる微かな低周波が、厳格な軍紀を象徴するように鳴り響く聖域だった。


中心には、



提督ヴォルン・カイゼル



が仁王立ちしている。


銀髪を鋭く後ろに撫でつけた彼は、かつて数え切れないほどの戦場を渡り歩き、その冷徹な判断で敵を殲滅してきた「帝国の獅子」である。


だが、その獅子の眉間には、今や深い皺が刻まれていた。


彼の背後で動く数百のクルーたちは、一見すれば精密機械のように任務をこなしている。


しかし、その内側に秘められた「期待」と「欲望」の熱量は、すでに限界を迎えようとしていた。


その静寂を、通信士官の震える声が切り裂く。



「提督! 第三皇女殿下より優先量子通信! 空間位相変換、完全同期完了しました!」



メインスクリーンが、ノイズ一つなく滑らかに切り替わる。そこに映し出されたのは、等身大のホログラムとして現れた第三皇女、オルガ・ペルセフォネ・デルタであった。


地球の「制服」という、帝国軍人の審美眼からはあまりに原始的で、しかし未知の機能美を感じさせる衣装に身を包んだ彼女は、瑞々しくも不敵な笑みを浮かべていた。


背景には、地球の学校という施設が透けて見える。



「提督、お疲れサマデス」


「……第三皇女殿下! お姿を拝見でき、感悦至極に存じます! 全員起立! 敬礼ッ!!」



提督の怒号のような命令に、艦橋のクルーが一斉にバネ仕掛けのように立ち上がり、鋼鉄の規律を体現する敬礼を捧げた。しかし、その直後、彼らの視線は行儀よく前を向きながらも、瞳だけはホログラムに映る「地球の風景」を、一滴も漏らさぬよう凝視していた。



「…数日前、柊暁という人類の有力者と会談を終えマシタ。地球の『中学生』という皮を被っていても、あの老人はワタシが『非地球存在』であることを看破し、あろうことか『対等な協力関係』を求めてきマシタ。……ふふ、なかなか骨のある下等生物デスヨ。ワシントンへの報復をチラつかせたら、あの年齢に似合わない筋密度の高い顔をさらに硬直させて……ワタシの『学習継続』を全面的に保障すると約束させマシタ」



オルガの淡々とした報告。それは本来、一惑星の主権と存亡を決定づける歴史的な外交記録である。しかし、提督の驚きは別のところにあった。



「なんと……あの原始的な惑星の原住民が、殿下の完璧な偽装を見破ったというのですか。……驚愕に値します。その『ヒイラギ』なる老人、もしや帝国でいうところの特殊能力者サイキッカーでは?」


否定ネガティブデス。ただの老いた人類デスが、経験則だけで正体を見抜くあたり、地球という星のポテンシャルの高さが伺えマスネ。……ですが提督、ここからが重要デス。ワタシの『学習』を邪魔しないこと、そして師匠——鷺ノ宮満里奈さんの日常を守ること。これが艦隊に課せられた最優先事項プライオリティ・ゼロデス。……わかっていマスね?」



オルガの言葉が終わるか終わらないかのうちに、艦橋を包んでいた不自然な「規律」という名のダムが決壊した。



「殿下ッ! 畏れながらッ、戦術分析班より緊急の質問がございますッ!!」



最前列の戦術オペレーターが、まるで敵の最終兵器を検知した時のような絶叫と共に挙手した。その瞳には、銀河戦争の真っ只中でも見せたことのない異様な熱が宿っている。



「地球の広域ネットワークからサルベージした断片的データによると、『チョコクロワッサン』という名の高カロリー物質が存在します! 解析班のシミュレーションによれば、それは外殻を数百層に及ぶ多層構造のパイ生地で構成し、内部に高濃度のカカオ油脂を内包していると! 長い宇宙航行で、合成プロテインと味気ないペーストに枯れ果てた我々の味蕾に、その『サクサク感』は耐えられるのでしょうか!? もはや、これは物理攻撃の域を超えた精神汚染兵器ではありませんかッ!?」


「私からもッ! 航法計画に支障が出るレベルの疑問がありますッ!」



負けじと女性航法士が立ち上がり、ホログラムに向かって叫んだ。



「『ひのきヶ丘の激坂』についてです! 殿下の師匠と呼ばれる地球人が、重力加速に真っ向から抗いながら、あの殺人的な勾配の坂をママチャリで疾走する動画、全艦のメインサーバーに共有済みです! あれこそが帝国の騎士に欠けている不屈の精神……! 我々も等身大アバターを用いて、あの坂で『青春の汗』を流し、大腿四頭筋を極限まで追い込む許可をいただけないのでしょうかッ!?」



さらに、巨大な体躯の整備士長が、夢見るような、それでいて深刻な低音で声を響かせた。



「温泉だ……硫黄の煙だ……。この金属臭と油の臭いにまみれた生活から解放され、地熱で温められたミネラル豊富な液体に身を沈める。それはもはや、肉体の再構築オーバーホールに等しい神聖な儀式……。殿下、どうか……全クルーに温泉休暇のローテーションを……! イエローストーンのグランド・プリズマティック・スプリング、ノリス・ガイザー・ベイスン、あの極彩色の熱湯に飛び込んで、毛穴のひとつひとつを地球の滋養で満たしたいのです!!」



提督ヴォルンは、顔を真っ赤にして拳を握りしめ、ワナワナと震えていた。



「貴様らッ!! 慎めと言ったはずだ! 殿下の御前であるぞ!! ……殿下、真に申し訳ございません。長期間に及ぶ深宇宙航行による精神的摩耗が、このような無残な醜態ヒャッハーを……ッ!」



しかし、オルガは怒るどころか、楽しげに指先で自身の顎をなぞり、ホログラム越しにクルーたちを見渡した。



「いいデスヨ、提督。欲望は生命力の証デス。……でも、諸君の期待を削ぐようデスが、一つだけ厳命オーダーを下しマス。ワープ航法は、月軌道到達まで一切禁止デス。全艦、通常航行サブ・ライトを維持してクダサイ。


…何故なら、我々十万隻もの巨大質量がこの近距離で一斉に空間跳躍ワープを行えば、その時発生する超重力波が地球の微細な物質構造に干渉し、分子レベルでの『致命的な熱力学的相転移』を引き起こしマス。


つまり、今すぐワープすれば、その余波で地球上のあらゆるチョコクロワッサンのパイ生地は永遠に『しなしな』になり、ひのきヶ丘の激坂はすべて『真っ平ら』な平地に変わり、さらに全世界の温泉成分はただの『ぬるい水道水』へと変質してしまうんダヨ!!」



「「「な…な…なんだってーーーーっ!?」」」



艦橋のクルーたちは、まるで世界の終焉を告げられたかのように、目玉が飛び出しそうな勢いで瞠目し、頭を抱えて恐慌状態に陥った。


艦橋のメインモニターには、誰が操作したか、絶望に打ちひしがれる数百人のクルーたちの、劇画調に歪んだ顔が映し出される。


ワープを使えば、文字通り瞬きする間に地球の空に躍り出ることができる。しかし、その代償が「しなしなのクロワッサン」と「平坦な坂道」と「ただの温水」だというのなら、それは帝国軍人にとって死よりも辛い選択であるのだ……。


艦橋に、提督以外、チョコクロワッサンを目前で取り上げられたような絶望的な衝撃が走った…。



「……殿下、ご冗談を…効率を考えても、ワープの方が遥かに合理的ですが…」



提督の問いに、オルガの瞳から悪戯っぽさが消え、帝国の「支配者」としての冷徹な輝きが戻った。



「…地球人類は、まだ脆い(フラジャイル)のデス。彼らの今の文明水準と宗教観で、十万隻の巨艦がいきなりワープアウトして空を覆い尽くしたらどうなるか? 想像してクダサイ。世界的な恐慌、経済の即時崩壊、あるいは恐怖に駆られた原始的な核ミサイルの一斉発射……。それでは、ワタシが師匠から学びたい『日常』そのものが、恐怖の毒で汚染されてしまいマス」



オルガはゆっくりと、ホログラムの手を地球の空へと伸ばした。



「だから、あえてゆっくりと、彼らに『空に何かが来る』という事実を段階的に受け入れさせる時間(猶予)を与えてあげマス。少しずつ、天体観測網にその影を落としていく。恐怖を順応に変えさせるのデス。……ワープは最後のサプライズ。これが、ワタシなりの慈悲マーシーデスヨ」



提督はその深い、そしてあまりに高度な心理的占領戦略に、改めて畏敬の念を抱き、深く頭を下げた。



「……御意。武力による制圧ではなく、精神の同化と共存のための、あえての遅延……。了解いたしました。第四艦隊、全艦に伝達! 空間跳躍門ワープゲートを完全閉鎖! 通常航行による緩徐接近を継続せよ!」


「それで良い、提督。……クルー諸君、楽しみは取っておくものデス。ワタシが柊会長に掛け合って、『観光秘匿親善大使』の特別枠をもぎ取ってあげマスから。それまで、レシピの研究と足腰のイメージトレーニングでもして待っていてクダサイ」



ホログラムが消え、静寂が戻る……かと思いきや。


次の瞬間、艦橋は「任務中」とは思えない別の種類の騒がしさに支配された。



「よし! 到着まであと三日あるぞ! 演算ユニット全基、チョコクロワッサンのパイ生地の積層枚数による食感の変化をシミュレーション開始だ! 誤差0.001%も許さんぞ!」


「ひのきヶ丘の坂道の斜度データ、足腰の重力強化プログラムに反映させろ! 全員、今日から標準重力を1.5倍に設定してスクワットだ!」


「温泉の効能……美肌効果について再調査だ! 地球のミネラル成分を化学合成して予行演習を行う!」



提督ヴォルン・カイゼルは、椅子に深く腰掛け、深いため息をついた…。



(……皇女殿下。貴女の『学習』が、地球という文明を救うのか、あるいは我々帝国軍人の胃袋を完全に変えてしまうのか。……通常航行の三日間。宇宙を駆けてきた私にとって、これほど長く、そして奇妙な高揚感に満ちた時間が、かつてあっただろうか…)



銀河の深淵を征く十万隻の巨影は、今や「無敵の軍隊」というよりは、「宇宙史上最強の観光団体」のような期待と狂気を孕んで、青い地球へと、静かに、しかし抗いようのない確実な速度で前進を行う。



——まだ、観光の許可は出ていない。



だが、その期待の重圧こそが、地球人類にとっての「最後にして最大の防衛線」になろうとは、まだ誰も知る由もなかった。


ここだけの話…。某有名AIでカンノー小説書けるかどうかためしてみたのよ…そしたら…。


どえれーもんが出てきたわ!!


ノクタでしか公開できないようなゲキヤバな奴!


某AIのコンテンツフィルタどーなってんの!?


たまにしか作動してないじゃんか!


満里奈「…それで、そのゲキヤバ小説誰が出てるの?」


それは言えません…。


満里奈「じゃあ、それどう処理したの?」


大変なレアものなので、保存しました。


満里奈「やっぱり…」

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