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笑顔と宇宙の裏側

ひのきヶ丘中央公園は、初夏の陽光に満ちていた。


青空はどこまでも高く、風はまだ少し柔らかく、桜の木々の間を抜けて、芝生に明るい斑模様を描いている。ベンチでは家族連れがアイスを分け合い、噴水の周りでは子どもたちが笑い声を上げていた。世界が宇宙規模の危機に怯えているなど、まるで噓のような、のどかな日曜の午後だった。


その芝生の真ん中で、鷺ノ宮満里奈は愛機のライカを構え、目を細めていた。



「ほら、もっと自然に! 澪奈さん、ちょっと顎引いて! オルガは……もうちょっと笑顔! いや、笑いすぎなくていいから、その『宇宙人なのに地球の公園にいる感』を残して!」



シャッター音が軽快に響く。


ライカのレンズが、今日も容赦なく二人を切り取っていく。


金髪のオルガ・リピンスキーは、白いワンピースに麦わら帽子という、まるで絵本から飛び出してきたような格好で、芝生の上にちょこんと座っていた。


隣に立つのは、肩まで届くストレートの黒髪を自然に下ろした澪奈だった。


前髪は厚めに眉の上あたりで揃え、顔の両サイドに柔らかく流れ、軽く風になびいている。白いノースリーブのブラウスには胸元と肩紐部分に繊細なレースの縁取りが施され、腰回りには赤と白のストライプが入った長いスカーフを大きな結び目で巻き、結び目の両端が長く垂れ下がって歩くたびに優しく揺れる。


青いデニムのショートパンツは太ももの中間くらいの丈で裾を少し折り返し、足元は茶色の編み上げサンダル。素足に直接履いたそのサンダルが、夏らしい軽やかな印象を際立たせていた。




挿絵(By みてみん)




彼女はいつもの剣豪めいた鋭い雰囲気を少し緩め、照れくさそうに腕を組んでいる。



「満里奈サン、ワタシのポーズはこれで正解デスか? ……地球の『ピクニック』という文化学習の一環として、ワタシは『可愛い後輩ポジション』を極めようと思ってマス」


「……オルガ、お前は後輩ポジションとか言ってるが、完全に主導権握ってるだろ。……それより満里奈、俺の顔、変じゃねえか? カメラ目線って苦手なんだ。…魂取られたりしねえか?」


「ソレ、時代錯誤すぎて草デス!」



オルガがツッコミ、満里奈はファインダー越しにニヤリと笑った。



「変じゃないよ! むしろ最高! 澪奈さんの『強面なのに公園で照れてる』ってギャップがたまらないの! オルガも、帽子被った金髪宇宙人が芝生に座ってるだけで、もう絵になるんだから! ほら、もう一枚!」



カシャッ、カシャッ。


シャッター音が止まらない。満里奈の足元のバッグには、すでに十枚以上のフィルムが詰まった予備ケースが詰め込まれていた。


オルガは麦わら帽子を少しずらして、満足げに微笑んだ。ふと、何かを思い出したように目を細め、澪奈の方へ視線を向ける。



「そういえば澪奈サン、ワタシ、一昨日理事長室に呼ばれマシタよ。柊暁会長……あの老人が、なかなか面白い提案をしてきマシタ」



澪奈は腕を組んだまま、眉をひそめた。



「理事長室? お前、何しに行ったんだ? まさかまた学校の備品を勝手に改造したとか……」



オルガはくすくすと笑いながら、芝生に指で円を描いた。



「違うデスヨ。会長はワタシの正体をほぼ見抜いていました。モスクワの両親が架空だってことも、ワシントンのUFO事件とのつながりも……全部。で、提案してきたんです。『柊家がワタシの安全と学習を全面支援する代わりに、第四艦隊の地球への攻撃を待機させてくれ』って」



澪奈の表情が一瞬で固まった。



「……は? 待て待て待て。…お前、理事長に全部話したのか?」



オルガは麦わら帽子を軽く押さえ、悪戯っぽく目を細めた。



「全部じゃないデス。ただ『相互協力関係』を結ぶって話だけ。ワタシは『学習継続』と『センセーとの日常を邪魔しない』って条件で了承しマシタ。……ふふん、会長はかなり慌ててましたよ。『地球の運命を賭けた取引』とか言って、フォフォフォって笑ってましたけど、目が本気デシタ」



澪奈は思わず頭を抱えた。



「待てよ……お前、理事長とそんな密約を結んでたのか。しかも十万隻の艦隊を『待機』させるって……地球丸ごと人質に取ってるようなもんじゃねえか! お前、意地悪すぎるだろ!」



オルガは無邪気に首を傾げ、指を一本立ててみせた。



「意地悪じゃないデスヨ。ただの『お返し』デス。会長がワタシにカマをかけてきたから、ちょっとだけ脅し返してあげただけ。……それに、艦隊の本当の目的は前にも話したヨウニ『地球文化の調査と艦隊クルー全員地球観光』なんデスから、別に攻撃なんてしマセン。でも会長はそれを知らないまま、『地球を守るために協力して』って必死になってマシタ。……可愛いデスネ、あの老人」


「……お前、完全に楽しんでるだろ。呆れたぞ…。地球の運命を賭けた交渉を、中学生のピクニックの合間に『ふふん』って笑いながら話すとか……」



オルガは芝生に寝転がり、空を見上げて満足げに息を吐いた。



「澪奈サンも、もっと肩の力抜いてクダサイ。センセーが撮ってる今、この瞬間はまだ平和デスから。後のお楽しみデスネ……あとでセンセーにも話すけど、今は内緒デスヨ? 師匠が『また宇宙規模の話!?』って頭抱える顔が見たいデス」


「内緒って……お前、満里奈に話してなかったのか…。順番間違えてるだろ。師匠に隠し事する気満々じゃねえか。……はあ、もういい。俺はただの剣客だ。こんな話、聞かなかったことにしてやる」



満里奈はファインダーから顔を上げ、二人に向かって親指を立てた。会話の内容は全く聞こえていない様子で、にこにこしている。



「いい感じ! この三枚は絶対に現像するよ! タイトルは……『初夏の宇宙人と剣豪』でどう?」


オルガ「タイトル長すぎデス!」


澪奈「その剣豪はやめろ……」



三人の笑い声が、公園の風に混じって軽やかに広がっていく…。











その頭上、遥か宇宙の彼方では——


十万隻の艦隊が、静かに、しかし確実に地球へと迫り続けていた。


しかし今、この瞬間だけは。


ひのきヶ丘の公園は、まだ、ただの平和な日曜の午後だった………。













オルガ「作者サンッ!どーシテ澪奈サンだけあんなキレイな画像があるんデスカ!?」


作者「オルガさんの分まで作るの面倒なので…」


オルガ「コノヤローッ!」


作者「きゃーーーーーーーっ!?」


澪奈「オルガ…たぬきに似てきたな…」

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