10万隻のタイムライン
202◯年◯月某日。
インターネットの深淵から噴き出した「真実」は、瞬く間に世界を焼き尽くす炎となった。
【SNSトレンド:日本】
1位:カイパーベルトの閃光
2位:地球衝突
3位:デフコン
4位:軌道計算結果
5位:米軍緊急発進
星見る人(アマチュア天文家)
「拡散希望。マウナケアの博士が言ってたの、これか。自分の中口径望遠鏡でも、エッジワース・カイパーベルト付近で明らかに不自然な発光を確認した。等間隔で明滅してる。これ、絶対に自然現象じゃない」
OSINT_Eagle
「嘉手納、横田、三沢の各基地で、空中給油機と早期警戒機の離陸が相次いでいる。通常の訓練の数倍の規模だ。何に備えているのか?」
宇宙開発ガチ勢
「速報。複数の民間天文台の共同解析が出た。例の群体の移動ベクトルを逆算した結果、慣性の法則を無視した180度の急旋回を確認。物理的にありえない。既存のロケット工学では説明不能な推進力だ。そして、その後の進路予測が地球を指している。冗談だろ!?」
軍事境界線ウォッチ
「人民解放軍の南部戦区、およびロシア東部軍管区で最高レベルの警戒態勢。さらにNATO加盟国も緊急閣僚級会議を招集。これ、これまでの有事のレベルじゃない。全世界の軍隊が、同時に同じ方向、すなわち上空を向いている」
そして、事態は日本国内に留まらず、地球全土へと波及する。
アメリカ:名無しのリバティ
「ニューヨークのタイムズスクエアでニュースを見たが、誰もが空を見上げて立ち尽くしている。軍がデフコン2を下げない理由がこれか。10万隻? 冗談はやめてくれ。スターウォーズの撮影だと言ってくれよ」
イギリス:天体物理学徒
「ロイヤル天文台の友人と連絡が取れた。彼は泣いていたよ。観測されたエネルギーは、太陽系内の全核兵器を足しても足りないレベルだそうだ。我々は羽虫どころか、塵に等しい存在だったんだ」
中国:深センの観察者
「海南島のロケット発射基地が慌ただしい。複数のICBMが発射台に移動しているとの未確認情報がある。政府は沈黙しているが、軍の動きは隠しきれていない。これは第三次大戦どころではないぞ」
オーストラリア:アウトバックの観測員
「南半球からもはっきり見える。あの光の粒は、刻一刻と大きくなっている。計算ではあと数日で月軌道を通過する。人類は、迎撃する手段を持っているのか?」
ドイツ:技術の信奉者
「物理法則を蹂躙した急旋回。あれを推進装置と呼ぶなら、我々の科学はまだ原始時代に等しい。コンタクトか、侵略か。いずれにせよ、今夜を境に歴史は断絶する」
J-NEWS速報
「政府動静。首相官邸で緊急の国家安全保障会議が開催。小林官房長官は記者団の問いかけに対し、現在情報を収集中と繰り返すに留めています。専門家は、太陽系外縁部で起きている事象が、地球の安全保障に直接影響を与える可能性を指摘」
【掲示板スレ:宇宙から10万隻の艦隊が来てる件について】
1:通りすがりの名無し
10万ってマジか。天文台のデータ解析スレ、サーバー落ちてるんだけど。数が多すぎて、もはや隕石群とかのレベルじゃない。「艦隊」って呼んでる奴らがいるけど、これガチの宇宙戦争じゃないのか。
2:ミリヲタA
自衛隊のスクランブルの数が異常。さっきから地元、百里周辺の爆音が止まらない。政府は隠してるけど、米軍は大統領直轄で動いてるっぽい。誰か相手が何なのか教えてくれよ。
3:リサーチ担当
民間計算だと、今の加速のままなら、あと1週間以内に月軌道まで到達する。10万隻の何かが地球に来るとして、着陸する場所とかわかってるのか。
一方、その狂騒を映し出すスマートフォンの画面を、ひのきヶ丘の坂道で覗き込んでいた鷺ノ宮満里奈は、目の前の金髪の少女へと視線を戻した。
「……ねえオルガ。ネットが、世界が、ひっくり返ってるわよ……。あんたたちの10万隻が、こっちに向かってるって……」
「アラ、もうバレちゃいましタカ。地球の人類モ、捨てたもんじゃないデスネ」
オルガ・リピンスキーは楽しげに、だがその瞳の奥には宇宙の深淵と同じ冷徹さを宿して、静かに微笑んだ。
彼女のスマートフォン画面には、すでに第四艦隊旗艦『ペルセフォネ・デルタ』のエンブレム——自らがデザインした黄金のデルタとクレマチスの紋章——が、静かに輝いていた…。




