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暗殺未遂

 ここは、どこかホテルの一室だろうか。少し開いた窓ガラスからは、9090年、日本の官邸が見える。官邸からは先の物語の主人公であった安岡が腹心とともに歩いて出てきている。その安岡を狙う銃口が、私達の視界に素早く入った。

 私達には馴染みのない、見ず知らずの男が、ホテルの部屋の片隅、薄汚れた壁面に肩を凭れている。その男が、レーザー・ガンを構えて、安岡に照準を合わせていた。男の髪は栗色で、短く乱雑に刈られ、クマのある瞳は猟奇性を漂わせている。

 若く活発で、艶のある魅力を醸す男は、いよいよ銃の引き金を引こうとしていた。その瞬間、宗一郎が六十代とは思えぬ身のこなしで男に襲い掛かる。激しい乱闘。二人は幾度か拳であいまみえる。だが決定機を見出せず、分が悪いと判断した栗色の髪の男は、小型のカプセルのスウィッチを押すと、瞬く間に、消えて逃亡した。

 男を取り逃がした宗一郎は、少し悔しがったものの、安岡暗殺を未然に防げたのに満足しているようだった。宗一郎は唖然とする私達に気が付くと姿勢を整え、襟を正す。

「失礼。お見苦しいところをお見せしました。私としたことが、あそこまで男を追い詰めながら、取り逃がしてしまったようです。不徳の致すところです」

 そして宗一郎は妖艶に、少し白髪の混じる髪の毛を後ろに撫でつける。この男は、宗一郎は、私達が初めに感じたように、本当の齢六十を超える男なのだろうか。先の乱闘の際の身軽さといい、この危うげな魅力といい、六十代にはとても思えない。

 私達が宗一郎の本性、素性を見極められずに惑乱していると、宗一郎は、背筋をスラリと伸ばす。やはり宗一郎は、普通の老年の男ではない。そう私達に感じさせる。宗一郎は口にする。

「さて。男をここ、彼の故郷、9090年の東京で捕えることは出来ませんでしたが、しかし!」

 そう言って宗一郎は目を見開く。その瞳は確信と、攻撃性に満ち、どこか嗜虐的でさえあった。宗一郎は言葉を紡ぐ。

「チェックメイトです。男は長い時間旅行の末、最早行き場を失いました。彼の逃亡生活も終わりを告げることでしょう。そう、これからお見せする『地球の最後の物語』のように」

 宗一郎は右手を大きく広げてみせる。宗一郎の魅力は私達を惹きつけ、虜にし、当惑させるようでもあった。宗一郎は最後の物語へ私達をエスコートする。そう彼の言う「地球最後の物語」へ。

「次の物語は地球が、最後を迎えるその日の物語です。あいや悲しまないように。全ての生命に終わりがあるように、地球もその例に漏れず、『終わり』から免れることは出来ないのです」

 そうして若干悲しげな思いを抱く私達を、宗一郎は案内する。タイムマシンに跨り……、いや、違う。最早宗一郎はタイムマシンになど乗りはしない。先の男が手にしていたようなカプセル状のタイムマシンを使うようだ。宗一郎がカプセルのボタンを押すと、見る見るうちに宗一郎の姿は薄れていく。宗一郎の姿が霞みゆく中、私達は宗一郎の最後の案内状を受け取った気がした。彼の言葉が部屋中に木霊する。

「私達の『愛』にまつわる旅路もこれで終わりです。あなた方と時を旅するのもこれで最後になることでしょう。それでは!」

 そして宗一郎の姿は跡形もなく消えた。

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