第08話 噂と警告
完結保障、全21話。
毎日投稿予定。
稲田も大学2年生になった。授業が終わった後、稲田はクラスの友達と大学内にある談話室に入った。いつもつるんでいる友達数人とテスト勉強をする約束をしていたのだ。自販機の低い唸り音が、部屋の隅で絶え間なく響いていた。
隣のテーブルでは、見知らぬ男子学生二人が何やら盛り上がっていた。
「そういえば、語る会にいる佐藤って子、知ってる?」
「ああ、あのヘルメットの子だろ。なんか、男にも距離近いよな」
「……もしかして、俺にも可能性あるかな」
「さあな。本人に聞いてみれば?」
二人は顔を見合わせて笑った。稲田はその声を右から左へ聞き流しながら、自分のテーブルに着いた。
みんなとしばらく雑談した後、試験範囲の確認をすることにした。教科書を机の上に広げノートを開く。みんなでノートを覗き込みながら話しているうちに話題が変わった。若い男子学生が興味を持つものはいつの時代も変わらない。恋愛の話をし始めたのだ。最近、誰と誰が付き合い始めたとか別れたとか、そんな話に花が咲いた。そんな中、一人の友人が「実は俺、好きな子がいるんだけど告白しようかどうか迷っているんだよね」と言い出した。
「え? まじで? だれだれ? どんな子?」
別の男子学生は興味津々といった感じで前のめりになる。
「うーん。クラスの子じゃないんだけど。結構かわいい子でね」
「どのくらいかわいいの? 芸能人でいうと誰に似てる?」
「いやいや、そういうんじゃないんだよ。稲田、お前も知っている人だ」
男子学生が稲田の方を向く。
「おまえ、『大学の明るい未来について語る会』ってサークルに入ってたよな。そのサークルにいる人だ」
稲田はピンときた。
「ほら。俺たちが拉致されたとき隊長の隣にいたじゃん」
この男子学生は稲田と一緒に隊長たちから拉致されたうちの一人だ。
「まあ、拉致された時はメチャクチャビビったけど、結局映画の撮影ってことで結構楽しかったな。それに、あんな綺麗な人とも出会えたし」
(北岡雅美さんのことだな)
稲田は思った。
「もしかして、稲田。おまえもあの人のことが気になってサークルに入ったのか?」
「いや、そうじゃないよ」
稲田は苦笑いしながら否定する。すると他の男子学生が会話に加わってきた。
「おい、稲田、まさかとは思うがあの人と付き合っているなんてことはないよな?」
「いやいやいや、全然違うよ」
(お付き合いできればとは思っているが)
男子学生たちは口々に言い始める。
「でも、もし、万が一、稲田があの子と付き合うことになったらどうなるんだろう」
「そりゃ、まぁ。やっぱり、なんか色々と面倒なことが起きるんじゃないか」
「そうだろ。だって、突然俺たちをひっ捕まえてバスに押し込むような連中だぜ。件の女子はその一員だ。付き合うと言っても下手すりゃ命がけだ」
北岡雅美の話をしだした男子学生は、稲田が北岡に気があるとみてとったようで、稲田に北岡をあきらめさせようと必死になる。
「いや、マジでやめた方がいいと思うぞ。あの女はやばい。あいつは人間じゃねぇ」
と真剣な顔で言った。その時、後ろから声が聞こえてきた。
「おい、何の話をしているんだ。やばい女だと? 一体どういう意味だ?」
振り返るとそこには『大学の明るい未来について語る会』の隊長が立っていた。
(いつの間に来たのだろうか)
隊長の突然の登場に焦る学生たち。
「な、なんでもありません!」
「今、『あの女はやばい、人間じゃない』と言っただろ。詳しく聞かせてもらおうか」
隊長は腕組みをしながら威圧的な態度で男子学生に迫る。
「いえ、ですから、言葉の綾といいますか……」
「ふん、いいか。俺は誰に対しても紳士的に接するタイプの男だ。だから今のは冗談だと思って聞き流してやる。だが、次に俺の大切な仲間を侮辱するような真似をしたら、話は別だぞ」
隊長は鋭い視線を男子学生に向けた。
「は、はい! 申し訳ございません!」
男子学生は直立不動になり謝る。
「よし、わかればいい。感心だな、ちゃんと勉強してたのか。さぁ、テーブルに広げた教科書が泣いているぞ。勉強を続けろ」
そういうと隊長はそそくさと談話室を出て行った。男子学生はホッとした表情を浮かべる。みんな口々に慰めるように話し出す。
「さっきの話は聞かなかったことにしよう」
「それが一番だな」
「ああ。忘れよう」
こうしてみんなは試験の勉強を再開した。
「面白かった!」
「続きが気になる!」
「今後どうなるの?」
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