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13/21

第13話 雪原を目指して

完結保障、全21話。

毎日投稿予定。

 北岡たちが卒業し、4月になり、大学4年生になった稲田は就職活動で大忙しだ。稲田はいくつかの企業へ履歴書を送り面接までこぎつけるのだが内定を取るところまではいかない。夏休みも終わり、いまだ就職活動に明け暮れる稲田であったのだが、手ごたえは全くない。就職浪人でもしようかとさえ思ったのだが、大学にそのまま残る気にもなれず、まずは卒業してフリーターでもやるより仕方がない。


(そもそも自分は何がやりたかったのだろうか)


もやもやした気持ちのまま過ごす稲田は、そう考えることが多くなった。


何度も届く不採用の知らせに、稲田の心はそのたびに少しずつすり減っていった。ある日届いた封筒を、稲田はしばらく開けられずにいた。ようやく開けてみると、そこには判で押したような丁寧な文言が並んでいるだけだった。稲田はその紙を机の上に置いたまま、しばらく天井を見上げていた。周りがそうしているからと当然のように始めた就職活動だったが、本当に自分がやりたいことなのかと問われれば、答えられない自分がいた。


年の瀬も迫り、東京にもちらほらと雪が降り始めた頃、ふと思い出したことがあった。稲田は毎年冬になると友達とスキーをしにあちこちの山へと行っていた。大学2年生の冬には指導員の資格も取得した。


(そうだ! スキーのインストラクターだ。自分が本当にやりたかったことをやろう。自分の人生を後悔しないために若いうちにやりたいことをやるべきだ)


稲田ははっと目が覚めたような気がした。そう決心した瞬間でもあった。


ふと、大学に入ったばかりの頃、北岡から言われた一言が頭をよぎった。「誘われたから来た、じゃなくて、自分が来たいから来た。それでいいのよ」。あの時はただの説教くさい戯言だと思っていたのに、こんな形で思い出すとは自分でも意外だった。


(これまでずっと周りに流されてばかりだった気がする。だが、この選択だけは、誰に言われたわけでもない、自分で選んだものだ)


それからというもの稲田は就職活動を一切やらず、将来スキーのインストラクターになっても生活していけそうな場所を探した。就職情報誌でスキー場の近くの会社で人を募集していないか調べた。するとすぐに見つかった。富山のスキー場の近くの工場だ。そこで木工の職人を募集している。『初心者大歓迎。寮完備。冬場はスキーができます』と書いてあった。案内の隅には、雪をかぶった山並みの小さな写真が添えられている。行ったこともない土地なのに、なぜかその白い峰にしばらく目を惹きつけられた。いかにもスキーに興味がある若者を対象としている案内だ。


稲田はすぐさま件の工場に連絡を取ってみた。電話口に出た男の声はとても親切で、履歴書を送ってくれとのことだ。工場には寮が完備されている上にスキー場も近い。もしそこに就職できれば、住む場所とスキーがやれる環境が手に入るのだ。やっと光明が見えてきた稲田は、残された学生生活をうきうきとした気分で過ごすようになった。


稲田もついに卒業式を迎えた。『語る会』の後輩たちにも祝ってもらったのだが、稲田自身サークルの活動に熱心ではなかったため少し心苦しかった。『語る会』のメンバーは相変わらず活動家としての訓練や集会に余念がない。伝統のキャンプも大盛況で、今では他大学の学生を合わせて総勢50名ばかりの学生が参加するまでになった。左寄りの思想はともかく、目的が常にはっきりとしている人たちだ。きっと充実した学園生活を過ごすことだろう。


稲田と同じクラスの友達もほとんど就職が決まり、何人かは大学院へ進むそうだ。卒業式を終えたキャンパスの片隅で、入学早々隊長たちに拉致されたあの友人と顔を合わせた。


「お前、映画の会社に決まったんだってな」

「ああ。あの時は隊長に拉致されて、メチャクチャだと思ったけどさ……なんか、あの時が一番生きてる気がしたんだよな」

「……そうか」

「稲田は?」

「俺は、富山に行く。木工所で働きながら、スキーのインストラクターを目指すんだ」

「はぁ!? 富山!?」


友人は目を丸くした後、すぐに吹き出した。


「お前らしいな。やっぱり隊長や北岡さんと一緒にいただけあるよ」


(人生とは、なんとも先の読めないものだ)


稲田の卒業式の日、携帯に北岡からメールが届いた。


 卒業おめでとう、稲田君。

 自分の道を見つけたようね。富山行きを聞いた時は少し驚いたけれど、あなたらしい選択だと思います。

 どこへ行っても、あなたは私の誇らしい「同志」です。迷ったら、自分の滑りたいラインを迷わず滑りなさい。

 体に気をつけて。

 雅美


画面を見つめる稲田の目から、ツッと涙が溢れた。


(北岡からのメールが一番嬉しかった。彼女への恋心は、もう過去のものになったのかもしれない。けれど、僕の人生に光をくれた彼女への愛おしさと感謝は、これからも消えることはないのだろう。それにしても、やはり気がかりなのは隊長だ。いったいどこで何をやられているのだろうか)


卒業式を終えた稲田は、自分の学生生活を振り返りながら大学を後にした。


「面白かった!」

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「今後どうなるの?」

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