↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
11/21

第11話 荒野の挽歌

完結保障、全21話。

毎日投稿予定。

 稲田は途方に暮れた。


(北岡さんは隊長がいなくなったことを知っているのかな)


次の日の朝、稲田は食堂で北岡の姿を見つけた。ちょうど食事をし終えたばかりのようだ。


「北岡さん!」

「あ、こんにちは」

「あの、ちょっと話したいことがあるのですが」

「うん。いいわよ」


食堂から出ると稲田は人気のないところへと北岡を誘った。渡り廊下の脇には、いくつもの立て看板が所在なげに並んでいた。


「北岡さん。隊長のことなのですが、学生課に聞いてみたら退学届を出されたそうです」

「えっ!?」


北岡の口元が少しふるえているように見える。視線を落としながら顔をそむけるようにして話し出した。


「やっぱりあの事を気にしていたのね。でも大学を辞めなくてもいいのに」

「北岡さん。隊長がいなくなったことに心当たりがあるのですか?」

「いえ、別に……」


北岡は下を向いたまま黙っている。


「北岡さん!」


北岡は目に涙を浮かべていた。


「ごめんなさい。あの人と昔から付き合いのあった人が亡くなられたの。自殺よ」

「自殺?」


北岡は喉を詰まらせながら話し出した。


「あなたも知ってると思うけど、『語る会』と対抗していたセクト『正しい歴史を知る会』(知る会)の代表の江上勉って人がいるでしょ。あの人、元々は隊長と同じ組織にいたのよ。活動方針の違いで袂を分かっただけで、討論会では今でも顔を合わせてたの」

「それで、江上勉は自殺したということですか」

「いえ。自殺したのは江上勉の彼女、松尾律子よ」


北岡はそこで一度目を閉じた。記憶をたどるように、ゆっくりと言葉を継ぐ。


それは、半年ほど前、稲田が部室に通い始めた年の冬のことだった。


いつもの公民館の会議室。長机がコの字に並べられ、語る会と知る会の面々が向かい合って座っていた。定例討論会の最中、隊長が突然立ち上がると、机を叩いて江上を睨みつけた。


「江上。お前、知る会の女の子たちをどう扱ってるか、ここではっきりさせろ」


会議室の空気が一瞬で張り詰めた。江上は眉一つ動かさず、隊長を見返す。


「何のことだ」

「とぼけるな。松尾のことだよ。他の女性部員のこともだ。お前は自分の所有物みたいに扱ってるだろう」


江上の隣に座っていた松尾律子の肩が、びくりと震えた。江上はしばらく黙っていたが、やがて薄く笑った。


「ああ、松尾のことか。別にいいだろ、俺の女の一人だ。それの何が悪い」


会議室が凍りついた。松尾は真っ青な顔で江上を見つめていたが、やがて椅子を蹴倒す勢いで立ち上がり、何も言わずに部屋を飛び出していった。北岡がとっさに追いかけようとしたが、江上の取り巻きに阻まれ、結局間に合わなかった。


北岡はそこで目を開け、また稲田の方に向き直った。


「その日のうちに、彼女は自殺してしまったの。何があったのか、本当のところは誰にも分からないけど」

「……そんなことがあったなんて。僕は、全然知りませんでした」

「言うわけないでしょう。わざわざ新入りに聞かせる話じゃないもの」


北岡はそこで言葉を止めた。近くの掲示板に貼られたビラの端が、風にめくれる音だけがした。少し間を置いてから、彼女は付け加えた。


「隊長ね、ずっと前に警官を殴って、その場で逮捕されて停学になった時期があるのよ。あなたが入学する前の話。あの隙に、江上が入り込んだの」


パトカーのサイレンと、取り押さえられながらもなぜか笑っているような隊長の顔。北岡が人づてに聞いただけのその光景が、今でも時々頭に浮かぶことがあるのだという。本当のところ何があったのか、北岡自身も詳しくは知らない。


北岡はそこで一瞬言葉を切り、自嘲するように笑った。


「松尾さんね、元は隊長の彼女だったのよ。私の前に。……頑固で自分勝手なあの人に嫌気が差して、江上のところに行った。で、その江上にも同じ扱いをされて、死んだ。滑稽でしょう。あの人を好きになる女は、みんな同じ目に遭うのかもね」


(私の前に、と北岡さんは言った。それが何を意味するのか、稲田にはすぐには言葉にできなかった。)


ことの次第を説明していた北岡は、眉間に力を込めて目を閉じた。稲田はうつむく北岡に話しかける。


「隊長は、松尾を自殺へと追いやったのは自分だと思い、その責任を感じて……」

「そうだと思う。隊長に何かあったらどうしよう……」

「北岡さん」

「隊長は優しいから。多分一人で悩んでいたんだわ」


北岡は涙を流し始めた。稲田は何も言うことができずに、ただ見つめるだけだった。


しばらくして、北岡は袖で目元をぬぐうと、絞り出すように付け加えた。


「ねえ、稲田くん。隊長ってね、昔からああいう人なの。誰かに縛られるのが何より嫌いで、自分の道は自分で決める。私のことだって、嫌いだから離れていったわけじゃないと思う。ただ、あの人は自由に生きることを選ぶ人だから」


北岡は乾いた声で笑おうとして、うまく笑えなかった。


「私、隊長がそういう人だっていうのは、ずっと分かってたの。縛りつけようとしたら、きっとあの人から自由を奪うことになるって。だから、あきらめた。……でも、今回みたいに誰にも何も言わずに、一人で全部抱えて消えてしまうなんて、思わなかった」


その日を境に、北岡はサークルに顔を出さなくなった。学内で会っても、軽く挨拶を交わすだけになった。

「面白かった!」

「続きが気になる!」

「今後どうなるの?」

と思ったら

下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援をお願いいたします。

面白かったら星5つ、詰まらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!

ブックマークもいただけると、本当にうれしいです!


なにとぞよろしくお願いいたします。m(__)m

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。