第10話 隊長の行方
完結保障、全21話。
毎日投稿予定。
ひと月がたった。学内で隊長を見かけない。キャンパスのウッドテラスに来ると思いだす。いつも隊長は稲田のことを見かけると、遠くからでも必ず駆け寄ってお茶に誘ってくれた。たまにはしつこいなと思う時もあった。しかしこうも姿を現さなくなるとなんだか生活の一部が抜け落ちたような気持になってしまう。
部室に顔を出すと、佐藤が机の上に教科書を広げていた。珍しい光景だ。
「珍しいですね。勉強ですか?」
「もうすぐ期末試験だから仕方ないであります」
そう言いながら、佐藤は片手で菓子をつまんでいた。
稲田は隊長の住んでいる寮に行ってみた。隊長の部屋まで行きノックをするのだが返事がない。鍵はかかったままだ。窓越しに声をかけても中に人のいる気配はない。隊長の部屋の真向かいにある部屋のドアが開いた。ドアから顔を出した学生が眠たそうな目をこすりながら話しかける。
「あのー。隊長は引っ越したみたいだよ」
「え? そうなんですか。どこに行くかとか言ってましたか?」
「いやー。知らないなー。部屋の荷物を整理していたのは知っていたけど、いつの間にかいなくなったみたいだし」
「あの、隊長が鍵を管理してた空き部屋……備品を置いてた部屋なんですけど、あそこは……」
「ああ、あそこも綺麗に片付いてて、もぬけの殻だったよ」
「あ、ああ。そうですか。失礼します」
(あの他大学から盗んできた弓も、きっと隊長なりに始末をつけて消えたのだろう)
稲田は深くお辞儀をしながらその場を去った。隊長は引っ越したとのことなのだが、サークルには何の連絡も入っていない。稲田や北岡にも何の話もなかった。もしやと思い稲田は大学の学生課へと向かった。受付の窓口で事情を話すと、係の人は奥の棚から書類を取り出して確認しだした。
係の人の話によると、稲田の予想通り隊長は退学届を出していたとのことだ。しかも2週間前に出したという。
(なぜ、隊長は俺たちに何も言わずに消えてしまったんだろうか……)
稲田はしばらくその場から動けなかった。あれだけ賑やかだった部室から、隊長の気配だけがそっくり消えてしまったことが、今になってじわりと実感として押し寄せてくる。
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