第8話・平民と貴族~常識の差がぶつかる食堂~
第1章 皇孫皇女の旅立ち
第8話・平民と貴族~常識の差がぶつかる食堂~
初日はよほど体調が悪かったのか……
それとも馬車の揺れに少しは慣れたおかげか、二日目の今日はインスもアインも顔色は悪いが吐くことなく順調に走り続けることができた。
いや、今朝の早いうちに一度、リオンが具合を悪くして馬車を止めたか……
けれど、以降は予定通りの行程を消化し、昼食には少し大きめの町で長めの休息を取ることになる。
一等地からは少しだけ外れた、裕福な者とそこそこの者、どちらも立寄ることが可能な価格帯のレストランで、二組に分かれて席に着く。
店内は若干時間がズレているせいか、満席とまではいかなかったがそれなりに込み合っていて、少し離れたテーブル席を使うことになった。
「「……………」」
「……一応言っておくが、取りに行かないと運ばれては来ないぞ……?」
姿勢よく向かい合わせに座るジャンヌとファンを眺めつつ、なぜか同じテーブルに着かされたリオンが言えば……
「……なんで……!?」
「……何……?」
ギョッとしたジャンヌの声と、眉を顰めたファンの声が重なる。
「……この店が、セルフ形式で、その上バイキング形式だからだ……周りをよく見ろ……」
長い長い溜め息を吐いたリオンに説明されて、よく分からないまま周囲を観察した二人は……
「……? 立食パーティーみたいなもの? それにしては、色々な料理を適当な順番で食べてるわね……?」
「……食事の途中で何度も席を立ったり、座ったり……何というマナー知らずな……」
料理が並ぶ一角に群がる人々と……よく見るまでもなくクロードとステールの姿もある……両手いっぱいに、一つの皿に様々な料理をごちゃまぜに盛り付けている者がいたり。
中には何度もその一角とテーブルを行ったり来たりしている者もいて、ジャンヌは首を傾げ、ファンはますます眉を顰める。
先ほどより長く深く、リオンは溜め息を吐いた。
「……まず、セルフ形式ってのは、自分でってことだ……」
「え? 自分でやっていいの!?」
「なっ!? ひ……お嬢にそのような……!」
一つ一つを説明することにしたリオンがそう言えば、ジャンヌは喜色を浮かべ、危うく『姫様』と呼びかけたファンが眉間に皺を寄せる。
「……そういう店を選んだのはお前だろうが……?」
「……っ!?」
ジト目でファンを睨んだリオンにぐっと言葉に詰まる。
確かに、店を選んだのはファンだ。
どんな店なのか理解もせずに選んだのなら、それはファンの落ち度だろう。
「次に、バイキング形式っていうのは、好きなものを好きなように自分が食べきれる分だけって意味合いだ……間違っても食べ切れない量を最初から持ってきて、残す、何て言うのはマナー違反だ」
「「……っ……!?」」
説明を続けたリオンが、あえて「マナー違反だ。」と強調して言えば、どうして何度も席を立ったり座ったりとしているのかを理解する。
なるほど、自分が食べきれて、絶対に残すことのない分量を、少しずつ、自分で取りに行くからなのだ、と。
「……ここはそういう店だ……で? インスやアインの分はクロードとステールが自分たちの分と一緒に持って行ったみたいだが……お前らはどうするんだ? オレが取って来てやった方がいいのか?」
言外に、病人と幼児と同じ扱いをされたいのか? と言えば、ファンの眉間の皺が更に数本増えて、溜め息を漏らす。
「……わかった……お嬢の分は私が一緒に……」
「何言ってるのよ! わたしも自分で取りに行きたいに決まってるでしょ!?」
苦渋の決断とでも言いたげなファンをスパっとジャンヌが断ち切る。
むしろ、既に立ち上がっていた。
「っ!? いけません!! 何があるか分からないのに……!!」
「だから自分で選びたいんでしょう?」
「そういう意味ではありません!!」
「お前ら、静かにしろ……他の客に迷惑だ」
言い合う二人を、疲れた口調でリオンが止める。
ハッと、口を閉ざした二人は周囲からの遠慮がちな、けれども明確に迷惑そうな視線に気づいてバツの悪そうな顔をした。
結局、リオンが先にファンを連れて行って、ルールなどを教え、続いてファンがジャンヌに付き添って取りに行き、二人が戻って来たところで漸く食事を開始する。
その頃には、またクロードが料理を取りに行っていて、最初とほぼ同量を持って戻った。
「「「……………」」」
その様子を横目に捉え、ジャンヌもファンもリオンも沈黙する。
(……クロード、すごい量を持って行くわね……?)
(……アレは、一人分……なのか……?)
(……あと三回か四回は取りに行くな……)
三者三様、心の中で呟いて、静かにカトラリーを手に取った。
ジャンヌとファンは最初にアミューズだけを持ってきていたが、リオンはバランスよくワンプレートにまとめ、別途スープとパンをいくつか取って来ていた。
その結果、リオンが黙々と食べている間に、ジャンヌとファンは何度も席を立ち、一種類ずつ、コース料理の提供順に取りに行き、食べて、また取りに行きを繰り返すことになる。
結局、いつもは提供されるものを食べるだけで、しかも残すことも当然ある二人が適量など分かるはずもなく、コースの最後までたどり着かないうちに限界を迎えていた。
「……ま、まさか……半分も食べられないなんて……っ」
一番に限界を迎えたのはジャンヌ。
最初のうちに料理を取り過ぎ、それらを食べきる必要に迫られて、コースの半分に至らないうちにお腹いっぱいになってしまう。
それ以前の問題で、いつも饗されるように盛り付ける事さえできなくて……
皿に載せた途端に、何だかあまりおいしそうに見えなくなった……と最初に感じてしまったのが悪かったのか、味は悪くないのに食が進まなかった。
「……全体のバランスを考えて取り分ける必要があるのか……難しいものだな……」
続いて、ファンがラスト付近で音を上げる。
二人とも、最初に「残すのはマナー違反だ。」と言われているので、流石に残してはいないが、どこか不満げだった。
「……だから、みんな最初に少しずつ、バランスよく持ってきてるんだろうが……」
アホかと言わんばかりにリオンが言えば、二人ともムッとしながらも文句は言わない。
文句は言わないが……
「……クロード、何回目……?」
「……ほぼ同量を、既に四回は取りに行っているような……?」
視界の端で、またも料理を取りに行くクロードを見とがめて、思わず疑問がこぼれ出た。
第8話をお読みいただきありがとうございます。
出発から二日目、一行が昼食に立ち寄ったのはセルフ&バイキング形式のレストラン。
平民のシステムを知らずに戸惑うジャンヌとファン。
リオンに教えられて料理を取りに行くも、結局は自分の適量が分からずに自滅。
「残すのはマナー違反」という言葉に従い、不満げに限界を迎える二人の様子は、まさに温室育ちの貴族そのものです(笑)。
そんな彼らのポンコツっぷりにリオンが溜め息を吐く横で、クロードがすでに4回目の大盛りおかわりに向かっているというWWW
戦い以外の日常でも前途多難な極秘討伐隊。
明日は一体どんなトラブルが待っているのか!?
次回もお楽しみに!
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過去の関連作品などはこちらからお読みいただけます!
▼ 本編【CCC】シリーズ 総合リンク
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ノリト&ミコト




