第7話・為政者たちの胃痛は激しく~その報告に乾いた笑いを~
第1章 皇孫皇女の旅立ち
第7話・為政者たちの胃痛は激しく~その報告に乾いた笑いを~
後日、皇都・アンシェ。
皇城・皇帝執務室にて。
「……ジニアとディアス君は、身分を隠したお忍びの何たるかを、理解していないのかい……?」
報告書に目を通し、それはそれは重々しい声で、頭痛を堪えるように呟いたバリー帝の溜め息に。
「……どうやら、そのようだったご様子ですね……」
表情を完璧にコントロールしてケルンは応える。
彼もまた、この報告書を初めて目にした時には今の皇帝と同じように頭を抱え、内容が真実かを数度、使いの者に確認した。
もちろん、その倍以上は報告書を読み返すことになった。
「……だとしても、ポンコツすぎる……」
「……陛下は一体どこでそのような物言いを?」
眉間を揉んで呟くバリー帝に、表情を変えずに首を傾げる。
「教皇猊下からかな?」
「……………なるほど」
あっさりと答えられてケルンは数度、呼吸を整えた。
教皇ステラ=シアスは二十代なのか、それとも三十歳になっているのか、といった微妙な外見をした……その実、百四十歳を超える美貌の神官呪師。
バリー帝だけではなく、ケルンもまた幼いころから何度か会ったことがあり……その度に揶揄われてきた、ある意味頭の上がらない存在。
正直、彼女と対等以上にやり合える相手がいるなら見てみたい。
「……これ、このままだと、インス君とか、ステールとか、リオンとか、胃に穴が開くんじゃないかい?」
「……その頃には、我々の胃にも穴が開いていそうですがね……」
「違いない……」
ははは、とまったく楽し気ではない笑いが上がり、スンと静まる。
「……インス君とアインは初日は完全に体調不良で大変だったようだし、ほとんど食事もとれずに、宿でも気絶しているような状態だったみたいだね……?」
「はい……それにしても、いくら豪商向けとは言え、平民の宿でフロアを二つも借り切るなんて……」
護衛が必要な方がいます、と宣言しているようなもの。
それに、一切気づいていない様子であるのが頭痛と胃痛を増幅させる。
「……一応、リオンがいきなり金貨を積んでフロアを借り切るのは目立ちすぎると、教えたようですが……」
果たして、その程度で、ファンが理解するものか?
「……何と言っても、彼らの威圧感が強すぎる……それに、何でお嬢なんだい……?」
「さあ……流石にそこまでは……」
ケルンが管理している情報網……当然、聖皇国麾下の非公式なもの……が情報を集めることができるのは、基本的には人が暮らしている場所。
ステールがジャンヌに対して、主家の令嬢に対してそう呼んでいるので、それではダメか? と聞いたのは街道脇での朝食休憩中。
当然、情報網からは外れている。
まさか皇帝も、ケルンも、辺境伯家のご令嬢を『お嬢』だなどと、裏家業の頭目の娘のように呼んでいるとは思わない。
だから……
「……皇都の下町にも出入りしていたリオンがそういった呼び方もある、と言い出したのか……はたまたジャネット皇女が聞きかじったことがあってそう仰ったのか……」
ケルンがそう推測するのも、まあ、致し方のないこと。
「けど、インス君が聞いていたら、ちゃんと止めそうな気もするけれど……?」
「……………陛下。ラント呪師は、朝から夜まで、アインともども体調不良でした……」
首を傾げたバリー帝に、溜め息を堪えてそう答えれば、そうだった……とバリー帝も思い出す。
「……じゃあ、インス君が知ったら、ひと悶着起こるかな……?」
「まず、間違いなく……」
「ジニアが言い出したわけではないことを祈ろうか……」
「……そうですね……」
二人同時に再び溜め息を吐く。
果たして、次に送られてくる報告書は、今回よりもマシなものになっているのか。
それとも……
遠く、西の孤島を目指して旅に出たばかりの皇孫皇女の、その旅の行方が……どう考えても順風満帆なものにはならないことがありありと感じられ……
「……おかしいな? 確かに、途中で引き返して欲しいと思って決めたはずなのに、想定とは全く違う意味で頭が痛い気がする……?」
「奇遇ですね。陛下……私も、想定とは全く違う意味で胃が痛くてたまりませんよ」
ははははは……と、再び乾いた笑いが上がり……
「……配置を更に密にせよ」
「かしこまりました」
直後にスンとなった皇帝陛下の下命に対し、一礼して請け負ったケルンが下がる。
ちなみに、これらのやり取りが行われていたのは『皇帝執務室』。
当然、執務室内には複数の文官たちもいて……
(((((…………陛下も、ケルン卿も……怖すぎる……!!)))))
聞かされていた文官たちもまた、ひそかに胃を痛めていた。
第7話をお読みいただきありがとうございます。
今回は皇都視点です。
極秘討伐隊のあまりのポンコツぶりに、バリー帝とケルン卿の胃痛が止まりません!
身分を隠す気ゼロのファンたち、謎の「お嬢」呼び、そして体調不良で機能停止していたインスとアイン。
報告書を何度も読み返し、想定とは全く違う意味で頭を痛める二人の乾いた笑いが響く皇帝執務室。
見守る文官たちまで胃痛を引き起こす地獄の空間と化します(笑)。
「途中で引き返してほしい」という思惑すら吹き飛ぶほどの珍道中。
明日は誰の胃壁が削られるのか!?
次回もお楽しみに!
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ノリト&ミコト




