第6話・常識人の胃は壊れ~それでも結果は変わらない~
第1章 皇孫皇女の旅立ち
第6話・常識人の胃は壊れ~それでも結果は変わらない~
もうやだ、帰りたい……
「……諦めろ……姫……お嬢がそう仰らなければ不可能だ……」
馬車が止まり、扉が開かれるとすぐ、転がるようにして外に飛び出してきたリオンが真っ青な顔でしゃがみ込む。
泣き言を漏らすと、スッと、視線を逸らしたファンがぼそりと返した。
「……お前らはいいよな……あの、寒くもないのに極寒の空間に閉じ込められる身にもなれよ……」
「………………」
ブチブチと文句をつけるリオンを見て、何があったのかと無言で見下ろすファンを、チラッと見上げる。
馬車の中は流石、皇族仕様というべきか……外観の飾り気のなさからは想像もつかないほどの快適な空間。
それでも、いまだ体調不良のインスとアインにはつらいようで、今日もまた青い顔をして気持ち悪そうにしている。
だが、昨日よりは大分マシになっているのか、外気ほどの寒さはない、外套さえ着ていれば平気ともいえる馬車内で、極寒の殺気を撒き散らしてくれた。
「……今更の話だ……ただ……もう抜いてるからな……」
重い溜め息を吐いたリオンの返答に、ピクリとファンの片眉が跳ねあがる。
リオンのその言い方で、何のことを言っているのかを理解し、渋面を作った。
「……自業自得であろう……」
ぼそりと吐き捨てる。
実際、インスが手引きをしなければジャンヌは皇城を抜け出し、主神殿に忍び込み、神剣の封印を解く、などという暴挙は犯せなかったのだから。
ファンの言うことも分かるが……と苦笑いしたリオンは、眉間にこれでもかと皺を寄せたファンに睨まれて肩を竦める。
「……どうかな? それならそれで、ほんの少し先送りになっただけだと思うぞ……」
「……………………」
それから、立ち上がる動きに合わせて息を吐いたリオンの物言いに、ますますファンは渋面を作った。
問題のインスとアインは、今日はまだギリギリ耐えられているのか、顔色は悪いが吐くほどではないらしい。
リオンが急に具合悪そうにしていることに驚いて馬車を止めさせたジャンヌは、そんなインスの極寒をきれいにスルーし、何やらアインに声をかけていた。
様子に気づいたファンの目に怜悧なまでの殺気が浮かぶ。
その瞬間、スッと顔を上げたインスが極上の笑顔でファンを牽制する。
(!!!!??? こっっっっわっ!!)
バチリと、目には見えない火花がファンとインスの間に散ったのを感じて、ぶるりとリオンは身を震わせた。
ファンとインスの間に一体何があったのか……
まるで親の仇であるかのように鋭い殺気を向けるファンと、それをきれいに流しながらも受けて立つと言わんばかりのインスがおっかなすぎる。
(おいおい……! 大丈夫なのかよ? こいつら!?)
気が付いたら仲間が仲間を殺していた、何て事態になりそうな殺伐とした空気に、キリキリと胃が痛みだす。
(……あれ? オレ、何でこんなところで胃を痛めてるんだ……???)
急に訳が分からなくなってきた。
「……どうした……?」
混乱するリオンに気づいて、クロードが声をかける。
「あ~。……いや……」
何といえばいいのか分からなくて首を傾げたリオンは、いつの間にかファンはジャンヌに苦言を呈しに行っていて、ステールがどう見てもマズそうな緑の液体を、半ば無理やりインスに押し付けていることに気づく。
「別にいいでしょう? というか、何が問題なのよ?」
「何がも何も……すべてです」
「全然意味が分からないんだけど……??」
苦言を呈するファンに、首を傾げるジャンヌが居るかと思えば。
「いいから、飲め!! 大丈夫だ! ちゃんと医務殿で処方して貰った奴だから!!」
「いりませんっ! そんなもの飲むくらいなら舌噛んで死にますっ!!」
ぐいぐいとコップを押し付けるステールから、アインを抱きしめて心底嫌そうに言うインスが居て。
「そんなっ!! インスさま……っ!!」
「ああ……大丈夫です。ステールさんが無理やり飲ませようとさえしなければ……!」
「お前なぁ!!」
そのインスの発言に青い顔をますます青くして悲鳴を上げるアインが居て……何とも言えない、カオスな状態が起きている。
「「………………」」
一面雪景色の街道脇で、ワチャワチャ騒ぐ、奇妙な旅人。
「……オレは何を悩んでいたんだろうな……」
「……よく分からないが……大丈夫なら、いい……」
疲れたような溜め息を吐いたリオンに、無表情な顔にちょっとだけ笑みを浮かべて、クロードはポンと、軽くリオンの頭を撫でた。
第6話をお読みいただきありがとうございます。
馬車の中から逃げ出し、泣き言を漏らすリオン。
しかし、馬車の外もカオスでした!
バチバチと殺気を飛ばし合うファンとインス。
ファンの苦言を全く理解できずに首を傾げるジャンヌ。
そして、ステールに「謎の緑の液体」を無理やり飲まされそうになり、全力拒否するインスと、それに怯えるアイン。
ツッコミどころと問題しか起きないこの状況に、リオンの胃は限界突破。
そっと頭を撫でてくれるクロードの存在だけが唯一の癒しかもしれません(笑)。
カオス極まる彼らの旅路!
次回もお楽しみに!
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ノリト&ミコト




