第9話・ポンコツたちのお世話係~常識知らずに常識を~
第1章 皇孫皇女の旅立ち
第9話・ポンコツたちのお世話係~常識知らずに常識を~
皇都を出発して三日目。
「……フロークス爵子は、身分を隠す気が本当におありなのですか?」
「……なんのつもりだ……?」
早朝の宿の前で、首を傾げて問いかけたインスを、これでもかとばかりに険しい視線でファンが睨む。
ちなみに二日目の宿は、ファンの目利きの結果、豪商にも開放されている下級貴族向けの宿。
当然、最上級のグレードの部屋を占拠し、優雅な一夜を過ごしたジャンヌは今日もつやつや。
上級従業員が全員表に出てきて見送りの列を作っている。
「……いえ……昨夜といい、その前といい……隠す気など一切感じられない様子ですので……」
ふわりと笑みを浮かべたインスの明確な嫌味に、ファンの眉間の皺が深くなる。
「……少なくとも貴様が口を滑らせない限り、悟られるような真似はしていない……」
言外に、たった今、お前のせいでバレた、と告げるが、インスはきょとんと一瞬目を丸くした。
「………………え?」
「…………なんだ………?」
パチパチと瞬きを繰り返すインスをねめつけるファンは、本気で気づいていない。
初日に散々リオンから、「フロア二つも借り切る、何てしたらバレるに決まっている。というか、いきなり押し掛けて金貨なんぞ詰んだらそれだけでお忍び貴族と言っているようなものだ!」と疲れ切った声で言われたので、今回は事前に「最上級の部屋とその周辺を借りたいが可能か?」と確認している。
「……………。まず、最上級の部屋を希望した時点で、金銭的に余裕がある者、と見られます」
「……それがなんだ……?」
深い深い溜め息を吐き、軽く指先でこめかみを押さえたインスが若干疲れた声で言うのに、苛立ちを滲ませた声で返す。
「更に、その周辺などという上等な部屋を複数押さえたい。と言われた時点で、高貴な身分と悟られます」
「なっ!?」
続けられた言葉にはギョッとして目を剥く。
眼光鋭いファンの目が、珍しく……というより、一度も見たことがないほど大きく見開かれていて、ちょっと面白いと思ったことは内緒だ。
(……こんなに大きく目を見開くこともできたのですねぇ……)
いつもこのくらい柔らかく見せれば、不用意に他人を怖がらせることもないのに……と、インスの思考が少し逸れかかった。
「……理由はお分かりで……?」
「………………」
問いかけるが返事はない。
インスは溜め息を隠さずに吐いて、聞き方を変える。
「……では、なぜ、フロア二つを借り切ったり、特定の部屋の周囲を借り切ったりなさったので?」
「それは当然、ひ……お嬢のあん……」
「待ってください。今、お嬢と仰いましたか?」
しかし、その答えを最後まで聞かず、真顔になって遮る破目になった。
「? ……それがどうした? 普段通りでは問題があろう」
「だからと言って、なぜよりにもよってお嬢何ですか?」
いきなりなんだ? とばかりに眉を顰めたファンが、当然のことと答えれば、真顔のまま詰め寄るインスが圧を増す。
なぜインスはこんなにソレにこだわるのかと、不審気にファンは見下ろす。
「ステールが主家のご令嬢をそう呼んでいると聞いた。それに倣ってお嬢と呼んで良いかと伺いを立て、お許し下さったので私もそれに合わせることにしただけだ」
「…………………(あの……、脳筋護衛官……っ!!)」
さも当然の口調での説明に、一瞬インスからとんでもない殺気が立ち上った。
「「「っ!?」」」
咄嗟に向き合っていたファンだけではなく、荷物の積み込みをしていたクロードとステールも思わず腰に佩いた剣に手をかける。
一気に警戒したが、一瞬で殺気は立ち消え、満面の笑みを浮かべたインスが、一切笑っていない目でステールを見た。
「……ステールさんのご実家が仕えていらっしゃるお家は、どこぞで裏家業でも営んでおいでで……?」
「「……は……?」」
その、インスの問いかけに、ファンは思考を停止させ、ステールはいきなり何を言っているんだ? と言わんばかりに首を傾げる。
「そんなわけないだろう? れっきとしたお家柄だぞ?」
「ま、待てっ! なぜそうなったっ!?」
呆れながら答えるステールと、思考停止から復活したファンの少し焦ったような声が同時に上がった。
思わずインスの肩を両手で掴み、向き直らせたファンが眉間の皺を複数に増やしてぎろりと睨みつける。
「ちょっ!? 痛いんですけれど!?」
「黙れ……裏家業とは、どういう意味だ……?」
当然抗議の声を上げたインスに、低く押し殺した声で凄むファンはその手の人に見えなくもない。
「後ろ暗い行いや、暴力的な手段で市井に働きかける……ぃっ!?」
「違う! 貴様! 分かっていて言っているのだろう!?」
真面目に答えているのに掴みかかった手に力が加わって、顔を顰めたインスをファンが怒鳴りつける。
「……そういった、方々をまとめている、いわゆる頭目の娘への呼び掛け方ですよ……」
「…………………」
溜め息を吐いたインスが告げた瞬間、真っ白になって固まったファンが。
「……っ!!!!???? ステール=ベルン!! 貴様……っ!!!!」
「は? えっ!? い、いきなりどうなさったんですか!?」
「黙れっ!!」
「ちょっ!? 危ないじゃないですかっ!!」
数呼吸の後、辺り一帯に怒声を響き渡らせたかと思えば、抜身の剣を片手に斬りかかる。
驚いたステールが焦って声を上げるが、一向に聞く耳を持たない。
「……???……ディアスってば、いきなりどうしたのよ?」
いきなり始まったファンとステールの追いかけっこを、心底不思議そうに首を傾げるジャンヌと、漸く知ったか……とこっそり溜め息を吐くリオンがその様子を眺めるともなく眺めていた。
第9話をお読みいただきありがとうございます。
宿を出発する直前、インスからファンの行動の矛盾が次々と突きつけられます。
フロアを貸し切ったり(1日目)、最上級の部屋を複数借り切る(2日目)。
その不自然さに全く気づいていないファン。
そして何より、ジャンヌへの「お嬢」という呼び方が裏家業の人間のものであると知らされ、ファンの怒りはステールに!?
早朝から剣を片手に大男を追い回すという、お忍びの旅にあるまじき大騒ぎ。
その様子をポカンと見つめるジャンヌと、一人ですべてを察して遠い目をするリオンの温度差WWW
仲間割れ(?)寸前の極秘討伐隊の行き先は!?
次回もお楽しみに!
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過去の関連作品などはこちらからお読みいただけます!
▼ 本編【CCC】シリーズ 総合リンク
https://ncode.syosetu.com/s7443j/
▼ 番外編【STO】シリーズ 総合リンク
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【今後の連載スケジュールについて】
続きは明日22時から、毎日1話ずつ更新いたしますので、どうぞお見逃しなく!
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「漸くインスがツッコんだWW」「団長、闘争乙WWW」と感じていただけたら、ぜひ【☆☆☆☆☆】やブックマーク、感想をいただけますと、連載を続ける何よりのエネルギーとなります。
また次回もどうぞよろしくお願いいたします!
【本作は「カクヨム」にも投稿しております。】
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ノリト&ミコト




