第10話・カオスな朝に潤いを?~誤解を重ねて噛み合って~
第1章 皇孫皇女の旅立ち
第10話・カオスな朝に潤いを?~誤解を重ねて噛み合って~
早朝の宿の前で剣を片手に巨漢を追いかけ回す銀髪の青年。
あまりにもカオスな状況に、見送りに出てきていた宿屋の上級従業員たちが控えめな笑顔で固まっている。
その様子を横目に、溜め息を吐いたインスはここで、これ以上話をするのは無理だな……と察するとさっさと馬車に乗り込む。
少しだけ時間をおいて、いい加減、朝っぱらから怒声を発する騎士団長を止めることにした。
「いつまでそうしているおつもりですか? 皆様のご迷惑になっていますよ?」
「……っ……!!??」
馬車の中から首だけ外に覗かせて、呆れを一切隠さない冷めた声で言ってやれば、流石にファンも頭が冷えたのか、ハッとしてステールを追いかけ回す足を止める。
よく考えるまでもなく、朝も早い時間に、街中で、抜身の剣を片手に身内である大男を追いかけ回している姿、など……
(……目立ちまくっているではないか……っ!?)
身分を隠して、お忍びで旅をしている筈なのに、どう考えても目立ち過ぎだ。
「……いえ……裏家業の人間の内輪揉めにしか見えませんよ……」
ズレた感想を抱いていそうなファンに、インスがますます冷たい声音で言ってやれば、見送りに出てきている宿の従業員たちの顔が、完全に引きつっていることに漸く気付く。
「なんかよく分からないけど……追いかけっこは終わったの? そろそろ出発できる?」
そこに、一切空気を読まないジャンヌの、大きく的を外した我が道を行く発言が重なって……
(……遊んでいるわけでは……!)
ファンが心の中でギリギリと歯ぎしりをし。
(……なんだかよく分からんが、落ち着いて下さったようだな……)
全く自分の非を理解していないステールがほっと安堵し。
(……あ、そういう……!)
インスの発言と宿の従業員の顔を見て、自分たちがどう思われているのかをリオンが漸く理解し。
(………………積み込み終わった……詰み、終わった……)
もくもくと荷物の積み込み作業に戻っていたクロードが真顔になる。
その表情のまま、自身の馬に向かう途中で馬車の中にいるインスとアインに声をかけた。
「……つみ、おわった……」
「ああ……クロードさん。ありがとうございます」
「……クロード、ありがとうございます……」
足を止め、真顔で二人を見つめて告げたクロードに、インスもアインもごく当然のこととして礼を伝えた。
「………………………ん」
「「……? ? ?……」」
直前までどこかやわらかな空気を纏っていたクロードから、一気に空気が萎むような気配。
真顔からいつもの無表情へと、変わっていないようで明確に変化したのを見て、インスもアインも首を傾げる。
「……クロード……僕、なにか……」
何となく楽しげだったのに、お礼を言ったらがっかりされたように感じて、アインが不安そうに声をかけた。
「……いや……なにも、ない……」
「……でも……」
無表情のままで首を横に振るクロードに、アインはなおも不安そうに声を揺らす。
「……クロードは、僕みたいな、罪びとにも、いつでも、優しくして……くれる、から……」
「……アイン君……」
涙目になって声を震わすアインに、そっとインスが呼びかけ、背を撫でる。
「っ!? ……アインは天才か……?」
「「……え……??」」
同時に、ピクリと一瞬動きを止めたクロードが、ほんの僅かに目を見開いて呟いた。
いきなりどうしてそうなるのかが全く分からなくて、驚いたアインは涙を引っ込め、インスは目を丸くしてクロードを見上げる。
「……アイン……俺も、つみびとだ……」
「「……え……っ!?」」
一言そう告げて、車内を覗いた時以上に……インスにも分かるほど……楽し気な空気を纏って去っていく。
「……どうして、クロードも、罪びとになるんだろう……???」
心底不思議そうに呟くアインに、インスも真剣に理由を考える。
「……もしかすると、クロードさんは『神殿護衛官』という役目を背負っておいでですから、ご自身の職務に多少、思うところがあるのかもしれませんね……」
「…………ぁ」
考えながらも答えたインスに、アインもハッと息を飲む。
「……ただ……」
ふっと、少しだけ困惑したような微笑を浮かべたインスがアインを見る。
「……どうして、嬉しそうだったのかは……分かりませんが……」
「……確かに……???」
インスに言われて、アインもちょっと首を傾げた。
二人は揃ってクロードの方を見る。
クロードはジャンヌとリオンのところに歩み寄り、何やら伝えている様子だった。
にこにこと笑顔のジャンヌは「ありがとう。」と自分たちと同じように礼を伝えていて……
((……リオンさん、ちょっとおかしな表情してます、ね……???))
何とも言えない表情でクロードを見るリオンを目にして、インスもアインもかすかに首を傾げた。
どことなく足取り軽く歩み寄るクロードを目にした瞬間。
(……またくだらないことを思いついたんだな……)
と悟ったリオンが微妙な顔をする。
「……ジャンヌ。リオン。つみ、おわった……俺は、つみびと……」
いつもの無表情……に見えてとんでもなく機嫌よさそうなクロードに伝えられて、ジャンヌは一瞬きょとんとした。
「……ぇ? ええと……よく分からないけど、ありがとう!」
「…………………っ」
すぐさま笑顔で礼を告げるジャンヌの隣で、リオンが一瞬、顔を引きつらせる。
(……積み終わった、積み人……くだらなすぎる……)
クロードが何を言っているのかを瞬時に把握し、遠い目をしたリオンは知らない。
アインが、罪の意識に押し潰されながら伝えた、自分が罪びとだ。という発言を聞いたクロードが、自分が告げた「積み終わった。」への高度な返しだと受け取ったことを。
一人元気なジャンヌと、朝からぐったりと疲れ切ったリオンが馬車に乗り込み、酷い目にあったとブチブチ言いながらステールも御者台に着く。
「……出立する……」
馬上の人となったファンとクロードもいつも通りに馬車の左右について、リオン以上に疲れ切った様子で。
けれども生真面目な表情を崩しもせずに一言告げたファンの合図で……
見送りに出ていた宿の上級従業員らが深々と頭を下げる中、薄く雪の積もった街路をガラガラと馬車は走り出した。
第10話をお読みいただきありがとうございます。
早朝から剣を振り回すファンと、逃げるステール。
インスの冷ややかな指摘によって騒ぎは収まったものの、宿の従業員たちには完全に「裏家業のヤバい人たち」として見られてしまいました。
そんなカオスな出発前、クロードが放った「俺も、つみびとだ」という一言が波紋を呼びます。
アインとインスが真面目にクロードの心情を思いやる中、それがただのダジャレ(積み人)であると悟ったリオンの疲労感たるや……(笑)。
結局、誰一人としてまともに会話が噛み合っていない極秘討伐隊。
朝から疲れ切った男たちと、一人だけ元気なジャンヌを乗せ、馬車は次の街へと進みます。
次回もお楽しみに!
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ノリト&ミコト




