第1話・見送る宿屋の従業員は~極限超えて疑心暗鬼に~
第2章 皇孫皇女の珍道中
第1話・見送る宿屋の従業員は~極限超えて疑心暗鬼に~
馬車の音が完全に聞こえなくなり、そろそろ……と宿屋の主人がゆっくりと顔を上げ、一同がすでに視界に見える範囲にいないことを確かめる。
「……何事もなく、行ったか……」
「「「「「「「……よ、よかったぁ~……」」」」」」」
主人の囁くような声が静まり返った朝の宿前に響き、その場にいた全員が心底安堵の声を上げてへなへなと座り込む。
地面には薄く雪が積もってはいたものの、更に空からはパラパラと雪が降りだしてもいるものの、誰一人気にならない。
「……みんな。よく、頑張ってくれた……! 誰一人、欠けることなく、無事に乗り越えられたことに感謝する……っ!」
「料理人にまかないを用意して貰ってますからね……沢山食べて、ゆっくり休んでくださいな」
うっすらと目に涙を浮かべた主人が言えば、目元をハンカチで押さえて女将も伝える。
本当に、生きた心地のしない一夜だった。
今月初め頃、それぞれの領地に帰るお貴族様の行列がこの町にもやってきて、昨年末ごろから今年初めに皇都であった聖木祭や新年参賀の噂を撒いていった。
その中には、長らく病に臥せっておられた皇孫皇子である皇太子殿下のお噂や、女神の巫女である皇孫皇女殿下のお噂。
そして当然、皇帝陛下のお噂もあり、皇女殿下がご自身の護衛騎士に召し上げた「赤髪」の青年の話もあった。
「女神の空の髪。」
赤い髪色を、女神様がお姿を現される『夜明けの空の赤色』のようだと称されたというその青年……とも思える赤髪の若者を連れた、とんでもなく目立つ一団。
まさか、あの柔らかな金の髪に薄青い瞳の美少女は皇孫皇女殿下そのお方なのでは!?
と色めき立った直後に……
「お嬢。あまり目立つ言動はお控えください」
「別に、そんなことしてないわよ! 本当に、ディアスは頭が固いわね!」
そんなやり取りを目撃させられた従業員が腰を抜かして報告してきた。
当然、宿内はてんやわんやの大騒ぎとなる。
まさか、どこぞの抗争中の裏家業の一味か?
いや、だが、もし、本当に皇孫皇女殿下御一行であったら!?
皇孫皇女御一行か、それとも裏家業の一味か……
どちらにしても、対応を間違えれば即・死が待っている!!
そこからは、命を懸けた真剣勝負。
一切手は抜けない。
些細な粗相も、自分だけでなく宿の従業員全員……いや、場合によっては、家族や、周辺住人まで巻き込む!!
精神的には極限緊張状態。
けれど、それを一切見せるわけにはいかない!!
特に、あの銀髪の男はヤバい!
目を付けられたら、いつその腰にある剣で切り捨てられるか!!!???
眠れない一夜を過ごし、漸く出て行ってく……お帰りになられるご一同をお見送りに出たら……
「ま、待てっ! なぜそうなったっ!?」
「ちょっ!? 痛いんですけれど!?」
突然、その銀髪の男が、同行者である青銀色の髪をした未亡人に掴みかかり、何か話していたかと思えば……
「……っ!!!!???? ステール=ベルン!! 貴様……っ!!!!」
「は? えっ!? い、いきなりどうなさったんですか!?」
「黙れっ!!」
「ちょっ!? 危ないじゃないですかっ!!」
辺り一帯に怒声を響かせ、同行者であるはずの年嵩の大男を抜身の剣を振り回して追いかけ始める。
終わった……
正直、そう思って、浮かべた笑顔が引きつってしまった。
幸いというか、何というか、未亡人が声をかけてくれたおかげで騒ぎは収まり、何事もなく出発してくれたが……
本当に、生きた心地がしなかった……というか、確実に寿命が縮んだ。
「……ずいぶんと、豪勢なまかないだねぇ……親父さんも女将さんも、無理してないかい……?」
「大丈夫だ……金払いだけは、異常によかったからな……」
「……………………最期の晩餐?」
「「「「「「「「「……………………………」」」」」」」」」
宿内に移動し、食堂のテーブル一杯に並んだ最上級の料理の数々に一同が目を丸くする。
こんなに出して大丈夫か、と一人が聞けば、宿屋の主人は真顔で頷き、安心させようとした。
しかし、誰かがぽつりとつぶやいたその小さな声が異様に響き渡り、しん……と一気に静まり返る。
「……縁起でもないこと言うのはやめなさいな! 大丈夫だよ……ほら、食べて、ゆっくり休みなさい……」
「……………寝ている間に……」
「「「「「「「「「……………………………」」」」」」」」」
ぱんぱんと、軽く手を叩いて切り替えさせる女将の声に隠れるように、再び誰かがぽつりとつぶやく。
その声は本当に、ごくごく小さなものでしかなかったが……極限の一夜を過ごした一同の耳にしっかり届き、再びしんと、静まり返る。
「「……とりあえず、今は、生きているんだ。食べて、寝よう! 難しいことは、考えるんじゃない……!」」
「「「「「「「「「…………っ。はい…………っ!」」」」」」」」」
宿屋の主人と女将の、目を座らせた一喝に、目に涙を浮かべた従業員らは無理やり笑顔で返事をし、飲めや歌えの宴会が、朝も早くから巻き起こった。
第1話をお読みいただきありがとうございます。
宿屋の皆様、生還(?)おめでとうございます!
謎の集団の宿泊により、極限の疑心暗鬼に陥っていた宿屋の裏側エピソードでした。
あの豪華なまかない料理は、彼らにとってまさに命の味だったことでしょう。
外から見ればただの恐怖集団にしか見えない一行ですが、無事(?)に出発できて何よりです。
さて、従業員たちが宴会で寿命を取り戻している間にも、ジャンヌたちの旅は続きます。
次回もお楽しみに!
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▼ 本編【CCC】シリーズ 総合リンク
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続きは明日22時から、毎日1話ずつ更新いたしますので、どうぞお見逃しなく!
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活動報告にて、キャラクター紹介や用語の解説などを不定期で掲載しております。ぜひチェックしてみてください!
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「最後の晩餐WW」「ちょっ!? 寝てる間にどうなるの!?」と一緒に宴会でハラハラしていただけましたら、ぜひ【☆☆☆☆☆】やブックマーク、感想をいただけますと、連載を続ける何よりのエネルギーとなります。
また次回もどうぞよろしくお願いいたします!
【本作は「カクヨム」にも投稿しております。】
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ノリト&ミコト




