第4話・初日の宿と身分の隠蔽~ポンコツたちの空回り~
第1章 皇孫皇女の旅立ち
第4話・初日の宿と身分の隠蔽~ポンコツたちの空回り~
途中、小刻みに休憩を取り……主に、インスとアインの体調のせいで……予定の半分も進まないうちに夕方に近くなって、最寄りの町で宿泊することとなった。
皇都・アンシェにまだ近いこの辺りは、多くの者らが行き来するため、村や町も栄えて、貴族や豪商向けの宿やレストランなども充実している。
身分を隠して、との皇帝からの命もあるため、貴族用ではなく豪商向けの……疑似貴族向け、とでも呼べばいいのか……ほぼ貴族向けと変わらない宿を選んだファンは、最上級の部屋とその階全室と一階下の全室を金貨の詰まった袋で買い叩いてジャンヌの安全を確保した。
「……お前はアホか……」
部屋を借りて来たぞ、と知らせに来たファンから話を聞いて、思わず呆れ返ったリオンが言えば、ムッと唇を歪め、眉間の皺を増やしたファンがねめつける。
「……無礼な……一棟丸々押さえなかったのだ、十分譲歩している」
「……本気で言ってる? 大丈夫か? バレるぞ? てかきっとバレてるぞ?」
真面目に言ってのけたファンに、脱力したリオンが言えば、ますますファンは眉間の皺を深くした。
「なぜだ? 家名も何も示していないぞ?」
「……とりあえず、あとでじっくり教えてやるから、先にこいつらどうにかしろ」
本気らしいファンに、完全に呆れ返って、リオンはチラッと、自身の隣で簀巻きにされたままのインスとアインを目で示す。
出発から数時間。
ずっと馬車酔いで、休憩の度にリバースしている二人の顔色は青いを通り越して土気色。
長めに休憩を取った昼に、半ば無理やりステールが二人の口に立ち寄った村の食堂の料理を突っ込んでいたが……
結果はその村を出発してから四半時もしないうちにリバースしていた。
正直、このままリバースし続けていると本気で死ぬだろう。
「……クロード、ステール、荷物の運搬は任せる……」
「「……………」」
溜め息を吐いたファンの言葉に、二人は無言で頷いた。
「で、結局、どこの部屋を使えばいいの?」
そんなやり取りの最中、宿の女将と世間話をしていたジャンヌが、話がついたと見て声をかける。
「お嬢様には、最上階の一等客室にご案内し、客室付きの女性従業員がお世話をさせて頂きます」
返答をしたのはそれまでジャンヌが話をしていた宿の女将。
丁寧に頭を下げ、貴族相手であっても不敬にならない完璧な所作。
「そう? じゃあ、お願いね」
「かしこまりました」
ファンが無言で頷いたのを確認し、ジャンヌは女将に案内されて一足先に部屋へと向かう。
「………………」
「ふむ……平民向けの宿でも、最低限の礼儀はマスターしているようだな……」
それがおかしいことに気づけ……
見送ったファンの独り言に、完全に脱力しつつリオンは内心で突っ込む。
こいつら、身分を隠すの意味、分かってるのか?
どう考えても対貴族向けの接待だったと理解しているリオンは、このポンコツどもにどう伝えればいいものかと頭を悩ます。
(……オレが言って、理解するか? このアホどもは……?)
本気で頭が痛くなってきた。
どうして出発初日にこれほど前途多難な様相がこれでもかとてんこ盛りになっているのか……
これも全部、皇帝やその周囲の人間の思惑通りなのだとしたら、それはそれで怖い気もするが……
(……どう考えても、貴族の坊ちゃん嬢ちゃんがアホなだけだな……)
世間知らずの箱入り、をこれでもかと見せつけるジャンヌとファンに、もはや溜め息も出なくて、リオンものろのろと部屋に移動する。
しかし、リオンも気づいていない。
新年参賀に参加した貴族たちが、帰途の際に立ち寄った村々、町々で、皇帝陛下が語った「皇女が女神の空の髪を持つ騎士と称した。」という言葉がすでに広まりを見せ、リオンの髪を見て、もしや……と思われていることに。
そうでなければ、鮮やかすぎる赤髪を「魔女の申し子」として忌避してきた世の中で、どれほど金貨を積まれても、リオンを泊めようと考える宿など、そもそも存在するはずがない、ということに。
結局その日はそれぞれに案内された部屋で食事も入浴もすべてを済ませ、翌朝早くに出発することとなる。
「結構快適だったわね! 思ってたより、ずっといつも通りだったわ」
「………………」
(だから、それがおかしいと気づけ……)
つやつやに磨き上げられたジャンヌが笑顔で言えば、昨日、宿に到着した時よりは幾分マシな顔色をしたインスは無言で溜め息を漏らし、リオンは内心でツッコミを入れる。
皇女殿下のいつも通りに近い、なんて、普通に平民向けの宿で受けられるサービスではない。
疑似貴族向けともいえる豪商向けであったからまだ何とかなったのだろうが、これでもっと普通の……例えば行商向けの宿などであったのなら、従業員が全員泡を吹いて倒れていただろう。
そのくらいには、ランクというものが違う。
「……本当に、皇女殿下はいつでも前向きでいらっしゃいますね……」
「「………………」」
青ざめた顔にふわりと笑みを貼りつけたインスの物言いに、馬車内の気温が一気に氷点下まで下がった気がした。
第4話をお読みいただきありがとうございます。
「身分を隠しての旅」という最大のミッションが、初日にしてファンの斜め上の行動によって崩壊の危機!
宿の従業員の完璧な対応を「最低限の礼儀」と勘違いするファンと、「いつも通り快適」と喜ぶジャンヌ。
彼らの世間知らずっぷりにリオンが一人で絶望する中、インスとアインは馬車酔いで限界突破という、まさにカオスな一夜となりました(笑)。
果たして、前途多難すぎる彼らの旅路は無事に進むのか?
次回もお楽しみに!
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ノリト&ミコト




