第3話・冷めてもおいしいお城の朝食~皇帝からの申し送りは~
第1章 皇孫皇女の旅立ち
第3話・冷めてもおいしいお城の朝食~皇帝からの申し送りは~
朝食は、皇城の料理人たちが早くから準備したバスケットがあり、風よけとして馬車に繋いだ簡易テントを張って、スペースを確保し、折り畳みの椅子とテーブルに広げる。
流石に、時間が経ちすぎている上にこの気温。
すっかり冷めきってひんやりとしたサンドウィッチやデリなどと共に、保温ポットに入れられたほんのりとあたたかいお茶を片手に優雅な朝食となった。
それぞれに、簡易に食前の祈りを捧げ、取り分けられた食事を口にする。
「うんま……やっぱ、流石に皇城の料理は冷めても旨いな……」
「口の中に食べ物を入れたまま話すな……行儀が悪い……」
大口開けてサンドウィッチに噛り付いたリオンが言えば、眉間の皺を数本増やしてファンが苦言を呈する。
「へいへい……つっても、この先、お前ら、身分隠して進むんだろ? そんな貴族然とした食い方じゃ、即座にバレるぞ?」
「「…………………」」
軽く肩を竦めたリオンの反論に、行儀よくカトラリーを操るジャンヌとファンが沈黙する。
そう、この極秘討伐隊としての出発に当たり、ジャンヌが祖父である皇帝から言い渡された条件の一つが、身分を隠すこと。
もちろん、必要があれば致し方ないとはいえ、皇孫皇女の行幸という大所帯ではない以上、できうる限り身分を隠し、最低限市井の者らにはバレないようにすること、と厳命されていた。
最悪、貴族と思われても皇孫皇女とはバレないように、とのことだが、今のままでは即座にバレる。
なぜなら……
「少なくとも、ファン……お前がジャンヌを『姫様』と呼んだ瞬間バレるぞ?」
「……っ!?」
手を止めることなく食べながら、ジト目でねめつけたリオンの言葉に、ファンの動きが止まった。
カツン、と小さくカトラリーと食器がぶつかる音がする。
「……かといって、姫様への不敬はできん……」
「別に、ジャンヌでもいいのに……」
ナプキンで口元を拭いて応じたファンに、当のジャンヌはちょっと唇を尖らせて言う。
実際、ファンくらいなのだ、ジャンヌを「ジャンヌ」と呼ばないのは。
……いや。あまり会話をしたことがないアインや、ステールもか……
けれど、この二人は言えばちゃんと「ジャンヌ」と呼びそうではある。
むしろ家族と、特別に親しい者だけが呼称することのできる「ジニア」を呼ぶ許可を、ずっと昔にジャンヌはファンに与えていた。
なのに、いつからか頑なに「姫様」としか呼ばなくなったのだ。
「とりあえず、ディアスもステールも、せめて『ジャンヌ』と呼びなさい。それとも、他に何かバレない呼び方でもあるかしら?」
ファンに対する不満はあれど、今はとりあえずの身バレ対策が先だろう。
何しろ、ジャンヌが生まれて以降、女児に「ジャンヌ」と名付ける親が市井にも激増したのだから。
「……あの……」
ジャンヌに言われて、そろそろっと、ステールが手を上げる。
「? どうしたの?」
「……ええと、俺……じゃなくて、私の実家が仕える辺境伯家のご令嬢を『お嬢』と呼んでいます……愛称呼びをお許しいただけても、その……正直、すんなり呼べる気がしませんので、それではダメでしょうか……?」
「「「……お嬢……」」」
首を傾げて促したジャンヌに、ステールが応えれば、ジャンヌと、ファンと、リオンが異口同音で繰り返す。
「……ふむ……一考の余地はあるな……」
「気にせず呼んでくれればいいのに……まあ、ステールがそっちの方が呼びやすいなら、別にいいわよ?」
(……おいおい……裏家業の人間かよ……!?)
腕を組み、真剣に検討し始めるファンと、一切気にせず好きにしてよい、と許可するジャンヌと、その呼称が貴族の令嬢を呼ぶものというよりは、裏家業の頭目の娘に対して、構成員が呼び掛けるようなものであることに内心顔を引きつらせるリオンと、三者三様の反応。
「では、お嬢と呼ばせて頂きます」
キリっと真面目な顔で言ってのけたステールがそれに気づいているのか、思わずリオンはガン見するが、どうした? と言わんばかりの視線を向けられただけ。
(……ステールの主家だっていう辺境伯家、どんなところなんだよ……?)
まごうことなき貴族令嬢が、寄子家の人間から『お嬢』と呼ばれているらしい、ということに、リオンは何とも言えない、微妙な表情。
「……では、姫様。私もステールに合わせて、お嬢……と」
「もー。しょうがないわね! でも、ジャンヌでもいいんだからね?」
しばらく沈思黙考していたファンがそう結論付ければ、唇を尖らせながらもジャンヌも許可して……
(……ファンの奴、どういった女がそう呼ばれてるか知ったら、反乱狂になりそうだな……)
余計なことは言わないでおこう。
心でひそかにそう決めて、リオンはガブリとまたサンドウィッチに噛り付く。
「………………」
その間、一人黙々と食べ進めていたクロードは、ちょっと物足りなさそうに空になった皿を眺めていた。
第3話をお読みいただきありがとうございます。
身分を隠すという至上命題に対する、一行の絶望的なまでの「常識のズレ」。
ジャンヌに不敬を働きたくないファン。
純粋な善意から自分が使い慣れた呼称を提案するステール。
そして、彼らが『どんな相手に使う呼称か』を知らずに真面目に話し合っていることに気づき、関わるのをやめたリオン。
誰も悪気がないのに、それぞれの常識と知識が噛み合わないまま「お嬢」という呼び方が正式に決定してしまいましたが……(;^ω^)
沈黙を選んだリオンの判断は、果たして吉と出るか凶と出るか?
次回もお楽しみに!
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ノリト&ミコト




