第2話・前途の多難を示すが如く~屍たちの躯を抱えて~
第1章 皇孫皇女の旅立ち
第2話・前途の多難を示すが如く~屍たちの躯を抱えて~
エスパルダ聖皇国は冬が長く、雪深い気候の国。
そうは言っても、流石に皇都周辺はしっかりと整備がされていて、ステールが操る重種馬たちが引く馬車もガラガラと小気味のいい音を立てて街道を走っていた。
「「「「…………………」」」」
そんな馬車の中で、ジャンヌに向かい合うように座った三人の男たちのうち、アインを膝に乗せ、自身と共に分厚い毛布で全身を包むようにしているインスの顔色が……いや、膝の上のアインの顔色も……すこぶる悪くなっていた。
「……ちょっと、二人とも、大丈夫なの……?」
「……これが大丈夫に見えるのでしたら、侍医の方か医呪神官の方に目の診察を受けられることをお勧めしますよ……」
我慢しきれなくなって声をかけたジャンヌに、真っ青な顔で必死に吐き気を堪えるインスが口元を手で押さえて震える声で答える。
正直、喋る元気などないのだが、アインに答えさせるよりはマシだろう。
そのアインも、真っ青な顔で必死に吐き気を堪え、涙目で口を押えている。
「あ~。お前ら、馬車に酔うタチ?」
「「………………」」
ポリポリと頬を掻いて口を挟んだリオンに、二人は無言。
もう一言でも話すと胃の中のものをぶちまけそうだ。
「……ちょ、ちょっとぉ! ディアスっ!!」
あまりにも顔色の悪すぎる二人の様子に、たまらずジャンヌが声を上げた。
すぐに減速した馬車が街道の脇に停車し、コンコンコンと軽く小窓を叩いたファンが応答する。
「……如何なさいましたか……?」
何の感情も見えない冷ややかな声が誰何するが、如何も何も、状況はほぼ予測できている。
((((………しらじらしい………))))
ジャンヌとアイン以外の四人が心の中で突っ込むが、誰も口には出さない。
「……インスとアインが……」
「…………一旦小休止しますか?」
「そうしましょう!」
若干オロオロとしたジャンヌの声に、チラッと二人を見たファンが提案すれば、力いっぱい頷いたジャンヌが素早く馬車の扉を開けた。
「……姫様……中から開けるのはおやめください……」
「だって! 早く休憩させてあげないと!!」
「だとしても、です」
眉を顰めたファンの苦言に言い返しながら、素早くステールが設置した踏み台を降りて外に飛び出す。
同じく馬から降りたファンはなおも苦言を呈するが、馬車から引きずり出されたインスとアインはそのままクロードとステールに運ばれて街道脇の木立へと姿を消した。
おそらく、胃の中を空っぽにしてくるのだろう。
早朝というよりは、まだ夜も明けやらぬ時間に皇宮と神殿。
それぞれから、護衛官であるステールとクロードに付き添われて……というより、文字通り荷物のように運ばれてきた二人の胃の中に何か入っていたのかは知らないが。
そういうファン自身も、出仕前に軽食を軽く詰め込んできただけ。
恐らくはリオンや、クロードとステールも同じだろう。
ジャンヌに関しては……流石に朝が早かったのでやはり軽食程度か?
「……ふむ……まだ早いですが、一旦朝食にしますか?」
「え? そうね。そう言えば、お茶とお菓子くらいしか食べずに出て来たわね」
ふむ……と、一人考え込んで不意に口にしたファンが、いきなり何を言い出したのかと一瞬首を傾げたジャンヌだったが、そう言えば、朝食がまだだったと気付く。
「……街道脇でか……?」
その、いきなりな発言にリオンが若干顔を引きつらせて確認する。
確かに、小休止したり、馬車の整備などが可能なように、街道脇は広く場所が取られていて、通行の邪魔になることはない。
けれど、真冬の、雪景色に覆われた寒空の屋外で食事? 正気か? と思ってしまったのも致し方ないだろう。
「……最寄りの村まではまだ四半時はかかる。あの二人が持つと思うか?」
「……無理ね……」
「……無理だな……」
真顔で言ってのけたファンの言葉に、ジャンヌもリオンも心底納得してしまった。
漸く戻って来たクロードとステールはそれぞれにアインとインスを……特にインスを担ぐステールの方は間違いなく……荷物のように運んでいる。
ぐったりとしてまだ青い顔をした二人を、一応馬車の中に詰め込んで、毛布で二人纏めて簀巻きにしていた。
「「「「「…………………」」」」」
こんな調子で先に進めるのか、流石のジャンヌも少し心配になって来る。
けれど……
「……じゃあ、朝食を取る間、二人には休んでいてもらいましょうか」
「「「「…………………」」」」
やっぱり、進むのをやめる気は一切ない、というのが分かる満面の笑顔で言うジャンヌに、男たちはこっそりと溜め息を飲み込むことしかできない。
(だって! 弟の目も、アインの目も、アーグから瞳の宝石を取り戻さないと、見えないままじゃない!!)
五年前に襲撃された時に、心の宝石と共に両目の瞳の宝石を奪われたジョンは両目を。
二か月ほど前に、皇宮呪師長であったキプラに憑りついていたことが分かり、バルバ島の城にあると言い置いて消えたアーグが、わざわざ見せつけるためにアインの左目から瞳の宝石を奪って行った結果、アインは左目を、それぞれに失明しているのだ。
なら、一刻も早く取り戻して、元通りにしなければ!
そう、固く心に誓うジャンヌは、その瞳をメラメラと燃やして遥か西の空を見やった。
第2話をお読みいただきありがとうございます。
ついに皇都を出発した極秘討伐隊ですが、一行を待ち受けていたのは「馬車酔い」という思わぬ強敵でした。
インスとアインが早々に戦闘不能(?)となり、ファンが真冬の屋外での休憩を提案し、クロードやステールが黙々と二人を運ぶ。
あまりの惨状(?)にリオンのツッコミが全く追いつきません(笑)。
更に、そんな限界寸前のメンバーを目の当たりにしても、ジャンヌの「絶対に目的を果たす」という前向きな決意は一切揺らがないようで……。
果たして、この温度差が激しすぎる一行は、無事に目的地へと進むことができるのか?
次回もお楽しみに!
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ノリト&ミコト




