第1話・新たな年に新たに旅立つ~希望の光と絶望の虚無~
第1章 皇孫皇女の旅立ち
第1話・新たな年に新たに旅立つ~希望の光と絶望の虚無~
かつて、人間の女呪師が魔族と化し、その欲望のままに魔法の力を悪用し、守護神である女神と争った大陸・インフォース。
神話に「赤毛の魔女」と記されたその女呪師の逸話から、この大陸では「赤い髪色」の持ち主は「魔女の申し子」と忌み嫌われ、魔法を使うことのできる唯一の人材である者たちは「呪師」と呼ばれて国に管理・監視されることで生存を許される。
暁の女王の異名を持つ女神・ディエルは夜明けの神であり、春を告げる東方の神であり、公正を司りその秩序を守るために自ら戦場を駆ける戦女神。
法と、生命の守護者とされる女神の巫女は、神話の時代には神族と共に女神から授けられた武器、神剣を携えて魔族らと戦った戦乙女とも呼ばれる。
そんな女神の巫女と、神剣の騎士らによって興されたのがエスパルダ聖皇国で、建国からすでに三万年以上も王権を維持している。
一年の終わり頃、冬至の日は女神が新生するこの大陸でも最大の祝祭。
聖木祭。と呼ばれる大祭の日を過ぎると、日、一日と昼の時間が長くなり、一週間もすれば年が明ける。
新年参賀は毎年皇都で盛大に行われる皇族の顔見せと、王侯貴族らの最大の社交の日。
長く病に臥せっていた皇太子のジョンが五年ぶりに参加するこの年の聖木祭と新年参賀は、例年とは違う奇妙な熱気に包まれていた。
病に臥せっていた皇太子、など、いつ廃嫡されるとも分からないのは自明の理。
当然、ジョンに万が一があった場合、次の皇太子は誰になるか? と言ったある意味不敬極まりない噂話もまことしやかに流れる中で……
五年ぶりにその姿を見せた皇子は、長きに渡る闘病生活のせいか、年子の姉であるジャンヌよりもひどく幼く見えた。
けれど、ひとたび挨拶を交わした貴族らはその幼げな姿からは想像もつかないほどの聡明さに、流石は陛下がご指名になられた皇太子殿下だ、と納得せざるを得ない。
そうして、恙なく年末年始の行事が終わり、皆が日常を取り戻した頃……
「……絶対に、取り戻すからね……」
柔らかな金の髪を揺らして、ふわりと微笑んだジャンヌの、決意の光眩しいその天色の目を見た途端。
(((……無理……)))
早朝の、まだ空も明けやらぬ薄暗い時間の皇宮にて、飾り気のない四頭立ての馬車にジャンヌと同乗することになった、リオンとインス。
そして、体格的にはせいぜい三歳ほど、けれど、その理解力の高さから五歳ほどとされている、特例で魔法の使い方を学ぶ、神官呪師見習いの子ども、アインの三人は、この皇女殿下の無謀を諦めさせることの困難さを一瞬にして悟った。
「……? どうしたの?」
皇宮呪師長に憑りついていた魔族、アーグによって過酷な監禁と拷問の末、何とか生き延びたと思ったら、まさかの護衛官の誤用で毒を飲まされ、生死の境を彷徨ったばかりのインスはいまだに青い顔。
細身で、女性的ですらある優美な風貌を持つ男は、長く細い指先で青みのかかった銀色の髪を耳にかける仕草も気だるげ。
何とも言えない、いや、明らかに冷めた光を浮かべて、赤みを帯びた紫色の瞳が一瞬だけジャンヌの顔を捉え、即座に自身の膝に抱くアインに向く。
インスの膝の上にちょこんと座ったアインも、ジャンヌが神剣の封印を解いたことで起こった一連の事件に巻き込まれ、生死の境を彷徨った挙句、三か月近くも一切治ることのない……止血という概念さえ通用しない怪我が続いたせいで、どうにかこうにか完治した今も極度の貧血。
元々白い、透き通るような肌が病的なまでに青白く、危うい顔色。
一見すると黒にしか見えない、深くて濃い紫色の髪と瞳を持つ幼子も、曖昧に視線を揺らしてインスを見上げる。
インスの隣に座ったリオンも、ほんの僅かにその澄んだ黄緑色の目を細める。
彼も最初こそ、ジャンヌのためにと無茶無謀を理解せずに神剣のありかに案内したり、その使い手となったことで一緒に魔族退治に付きあうぜ! と燃えていた。
けれどそれが、自分の大切な人を命の危険に晒すと理解して以降は流石に自重を覚え、ファンやクロードと協力し合い、ジャンヌを牽制し続けていたというのに……
一番自重してくれないと困る皇孫皇女のジャンヌが、一番自重してくれない。
皇帝陛下を始め、ジャンヌが助けたいと心から思っている弟皇子のジョン。
更にはこの国の最上層部全員が、その無謀な考えを覆し、途中で帰還することを目論んで最低限の、一応精鋭と言える供だけを付けた極秘討伐隊としての出発を許可したというのに……
(……おいおい。インスとアイン、何て言う、病人と幼児を連れて魔族退治? 無理じゃないか?)
(……あれだけ、申し上げたのに、全くご理解して下さっていない……!)
(……インス様たちは、お姫さまに、途中で諦めて頂きたいって、仰っていたけれど……お姫さまは、皇子さまを、お救いしたいんだ……)
馬車の中の男が三人とも、心の中で顔を盛大に引きつらせ、絶望の淵に叩き落とされているとも知らず、首を傾げたジャンヌは普段通り。
「……姫様。出発されますか……?」
「もちろんよ! 早くバルバ島に行って、アーグを倒して宝石を取り戻さなくっちゃ!」
馬車の外から、軽く小窓を叩いて問いかけたのはジャンヌの専属護衛騎士団長であるファン卿ディアス。
フロークス侯爵家の嫡子で、ジャンヌとジョン、二人の幼馴染でもある十九歳の青年。
銀の髪に、眼光鋭い赤い目。
普通に視線を向けただけで相手を射すくめるような、整いすぎて冷たい顔立ちの青年は、眉間に深い皺を刻み、ジャンヌの返事にそっと溜め息を飲み込む。
「……分かりました……クロード、ステール、出立だ」
それから、馬車の反対側で騎乗の人となっているクロードと、御者も務める皇宮護衛官のステールに声をかけた。
クロード=トレーニアは神殿護衛官。
神殿に仕え、神官を兼任する魔法の使い手である神官呪師の監視を兼ねた護衛であり、騎士団長に就任してすぐのファンによって熱烈にスカウトされてジャンヌの護衛騎士団にも籍を置いている。
短めに切った緑の髪と檸檬色の瞳をした寡黙な男で、更に強面で無表情。
見上げるほどの大柄な体躯の……その見た目とは裏腹に小さいものやかわいいものが大好きな拾い癖の持ち主。
赤髪で生まれたがゆえに、生後すぐに捨てられたと思われるリオンを拾ったのもクロードだし、違法で人身売買をする者たちから逃れてきた、記憶を失った幼子であるアインを保護したのもクロードだった。
そして、残る一人、皇宮護衛官のステール=ベルンは聖皇国最強と呼ばれる騎兵団を有する辺境伯家に仕える寄子家の出身。
短く刈り上げた若葉色の短髪と群青茶の目をした、クロードに迫るほどの大柄な男で、馬の扱いはお手の物。
真冬に、大山脈と大山脈の間に挟まれた魔の森、何ていう難所を、二か所も越えなければいけない旅で、御者を任せられるのはステールしかいない。
そして彼は、皇宮に勤める魔法の使い手である皇宮呪師の監視を兼ねた護衛。
この、封印されていた女神の至宝である神剣の使い手、だとか、実は五年前にも皇宮を襲撃した魔族によって皇太子であるジョンが呪いにかけられている、だとか。
その呪いを解く術を言い置いて言った魔族の居城が大陸南西沖に浮かぶ大島、バルバ島にあり、そこに皇女殿下が行きたがっている、などという特大の国家機密を知らされて付き合わされることになった、不憫極まりない男である。
ファンの合図を受けて、やはりこっそりと溜め息を漏らしたステールは、見上げるほどの巨馬ともいえる馬たちに合図を出し、ゆっくりと馬車を動かし始めた。
第1話をお読みいただきありがとうございます。
本編第3部、いよいよ極秘討伐隊が出発です!
今回は、世界観の軽いおさらいと年末年始の行事の様子、そしてついに皇都を旅立つ朝の様子が描かれました。
馬車の中と外で、インス、アイン、リオン、ファン、クロード、ステールという男性陣全員が絶望と溜め息を抱えているのに、ジャンヌだけが希望に満ち溢れているという、凄まじい温度差からのスタートです(笑)。
実はお気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、この第1話の出発シーンは、「本編第2部の終章」、そして「番外編(聖皇国列伝秘聞)第10弾の終章」と全く同じ場面へとリンクしています!
「なぜインスやアインの顔色がそんなに悪いのか?」
「なぜステールがジャンヌの無謀さに巻き込まれているのか?」
彼らがこの馬車に乗り込むまでに、裏でどれほどの地獄の準備と大人たちの胃痛があったのか……。
その過酷な裏事情は、ぜひ番外編第10弾『真白の森に命の雫を』にてお確かめください!(笑)
▼番外編第10弾はこちらから読めます!
https://ncode.syosetu.com/n0244mf/
満身創痍の者もいる中、果たしてこの凸凹パーティーの旅はどうなってしまうのか?
前途多難すぎる騒がしい旅路がいよいよ本格的に始まります!
次回もお楽しみに!
【シリーズ一覧はこちら!】
本編と番外編、それぞれのシリーズ総合リンクです。
過去の関連作品などはこちらからお読みいただけます!
▼ 本編【CCC】シリーズ 総合リンク
https://ncode.syosetu.com/s7443j/
▼ 番外編【STO】シリーズ 総合リンク
https://ncode.syosetu.com/s8365j/
【今後の連載スケジュールについて】
続きは明日22時から、毎日1話ずつ更新いたしますので、どうぞお見逃しなく!
【ミニコラム掲載中!】
活動報告にて、キャラクター紹介や用語の解説などを不定期で掲載しております。ぜひチェックしてみてください!
【読者の皆様へのお願い】
「ちょっWWW 温度差エグっ!(笑)」「いや、護衛官の誤用で毒って何!?」と感じていただけたら、ぜひ【☆☆☆☆☆】やブックマーク、感想をいただけますと、連載を続ける何よりのエネルギーとなります。
また次回もどうぞよろしくお願いいたします!
【本作は「カクヨム」にも投稿しております。】
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ノリト&ミコト




