プロローグ・釣り餌に喰いつ皇女に溜め息~為政者たちの胃痛は深く~
本日より、本編第3部『フローズン・ブルーの旅路』が開幕いたします!
未読の方は、ぜひ物語の始まりである第1部、そして前回の激闘を描いた第2部からお読みいただけますと幸いです。
■ 第1部『レッド・フレイムの呪い』
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■ 第2部『レッド・フレイムの残照』
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第3部は、これまでの事件の事後処理と、為政者たち(皇帝陛下とケルン卿)の限界突破した胃痛と溜め息からスタートします。
ポンコツな若者たちと胃を痛める大人たちが織りなす西への旅路をお楽しみいただけますと幸いです!
その報告に、エスパルダ聖皇国皇帝、ツイーディ・ニウム・バリエガムことバリー帝は重い溜め息を漏らした。
「……無理か……」
「そのように見受けられます」
相対する皇帝筆頭秘書官、オーヴァ・カルヌア・ケルン=ガー・サティーラ公爵ことケルン卿オーヴァも、重々しく頷く。
どちらも眉間にこれでもかとばかりに皺が寄り、何とも言えない苦々しい表情を隠すことができない。
「……まさか、キプラに魔族が憑りついていたとは……」
バリー帝が苦々し気に上げたキプラというのは、長年皇宮に勤める魔法の使い手、呪師たちの長として君臨していた男。
外見的には五十代半ば、その実、既に百五十歳を超える皇宮呪師長、キプラ=ペンティスのこと。
一体いつから魔族に憑りつかれていたのかは、今の段階では分からない。
分からないが、恐らくは五年前に皇宮が魔族によって襲撃され、バリー帝の息子夫婦である当時の皇太子夫妻を始めとして、多くの者が犠牲になった事件以降だろう。
その頃から、キプラは人が変わったようなところが見受けられた。
以前であれば、最前線に出て指揮を取り、部下である皇宮呪師たちを鼓舞していたのに、今では完全に保守的になり、前線に出る事は一切なくなっていた。
代わりに、といっていいのか、部下である皇宮呪師たちに対して、多少無茶、と言える采配を繰り返し、その実力の底上げに貢献していたのも事実。
その、多少無茶、な采配の割を一番食っていたのが若干十八歳の、当代一との呼び名の高い青年。
彼の所在が確認できなくなって三日。
まさかその居場所が、呪師長室の箱の中、という誰の目にも触れる場所であったとは想像の埒外だった。
この三日、箱詰めにされ、監禁されていたその青年、インス=ラントは衰弱が激しく、あともう少しでも発見と救助が遅れていたら危うかったほど。
まだ確実に助かった、とまでは言えないが、それでも応急処置を施され、主神殿の医務殿に緊急搬送され、集中治療を受けている。
「私も、何度も会っておりましたが、一切気づかず……申し訳ありません……」
「いや……それは致し方ない……何しろ、気づきそうな者を近づけることがなかったのだからな……」
沈痛な面持ちで謝罪するケルンに対してはそう返すが、正直、もっと早くに気づいていれば……という思いは消せない。
当然、ケルンも同じ気持ちであるので、内心でこれでもかとばかりに歯噛みしている。
何よりもこの二人が頭を抱えている理由が……
「しかも、キプラに憑りついていた魔族が、特大の釣り餌を残して行った、と……」
「……はい」
再び溜め息を吐いたバリー帝の確認に、ケルンは一瞬だけ眉を顰め、けれどもはっきりと頷いた。
今から約十六年前。
当時の皇太子夫妻、バリー帝の息子夫婦の間に、長子となる皇女が生まれた。
ジニア・プローフ・ジャネット……愛称をジャンヌと呼ばれるその皇女は、この大陸の守護神である女神・ディエルに祝福された巫女姫だった。
天使が降臨し、祝福の言葉を国中……否、大陸中に届けて下さり、民はもちろん、各国からも祝いの言葉と共に様々なアプローチが始まった。
翌年には現在の皇太子である、カルロス・グラジオス・ジョーン……愛称をジョンという皇子も生まれ、聖皇国の未来は安泰だ、と誰もが信じていた。
けれど、今から五年前。
突如皇宮を、それも、皇太子一家の住まう宮殿を魔族が襲撃し、多くの犠牲を出す事件が起こった。
流石にそんな事実を公表することはできないので、大事故が発生し、皇太子夫妻を含む多くの犠牲が出た、としたが、事実は変わらない。
この事件は、女神の巫女であるジャンヌの命を狙ったものであり、ジャンヌの無事と引き換えに、ジョンは魔族の呪いによって以降五年もの間、時が止まったかのように眠り続けていた。
成長することも、目を覚ますこともなく過ぎた五年の間に、十一歳だったジャンヌは十六歳になり、あろうことか建国神話に記される女神の至宝、神剣の封印を解き、その使い手となった。
目的は、ただ一つ。
ジョンに呪いをかけた魔族、アーグと名乗ったその魔族を倒し、呪いを解くこと。
ジャンヌが神剣の封印を解いたことを皮切りに、呪師家系の十歳頃の子供たちが次々に行方不明となる事件が起こり。
深夜の皇都に魔族を探して皇城を抜け出したジャンヌと、それを手引きした……神剣のありかも見つけ出し、ジャンヌを案内した赤髪の孤児である青年、リオンと二人、知らず結界に閉じ込められ。
無事で済んだのはいいものの、危うく皇都一帯を灰燼にするところだった。
更に、神剣の力を引き出せていないと知って、使いこなすための訓練をしたら訓練用の魔法で作られた人形が暴走し。
三日後にはその訓練に付き合わされて、魔法を乗っ取られたことで命を危うくしていたインスと、神剣の中の一つに契約を強要された幼い見習い呪師の子ども、アインが突如出現した魔法陣とともに行方知れずとなり。
ジャンヌの私室に血まみれのインスが降ってきた直後。
ジャンヌを始めとする神剣の契約者全員。
専属護衛騎士団長のファン卿ディアス、神殿護衛官という、神殿に仕える呪師の監視を兼ねた護衛を兼任するクロード、そして、ジャンヌの悪友であるリオンの四人が部屋中に広がった魔法陣と共に消失した。
その行先として、辛うじて意識を取り留めていたインスが場所を伝えなければ、救援を送る事すらできなかっただろう。
消失したジャンヌたちは、アーグによって皇都の西に位置する旧都にある廃離宮の監獄塔に連れ込まれており、辛勝を収めていた。
そこで、心や精神を結晶化したものである心の宝石と言うものを入手しており、その心の宝石が体内に戻ったことでジョンは長い眠りから目覚め、意識を取り戻した。
しかし、呪いはまだ残っていた。
ジョンは両目を失明していたのだ。
その理由が、見えざるものを見る目を持つ、魔力を魔力のままで操ることができてしまう『見者』の力の源ともいえる魔力を結晶化した、瞳の宝石と言うものが失われているからであり、そのありかを……
「……わざわざ、言い残して行った、か……」
「……はい」
繰り返されたバリー帝の溜め息に、ケルンもまたそっと溜め息を漏らした。
本編第3部、いよいよ開幕です!
序章では事後処理と、これまでの出来事のおさらい。
そして、明かされた事実と魔族が残していった「特大の釣り餌」を前に、深く深く溜め息を吐き、頭を抱える皇帝陛下とケルン卿のお話でした(笑)。
なぜジャンヌたちは、過酷な西の島を目指さなければならなくなったのか。
大人たちの胃痛の原因と、旅の動機が描かれています。
次回からはいよいよ、極秘討伐隊が皇都を出発します!
前途多難すぎる凸凹パーティーの騒がしい旅路を、お楽しみいただけますと幸いです!
【シリーズ一覧はこちら!】
本編と番外編、それぞれのシリーズ総合リンクです。
過去の関連作品などはこちらからお読みいただけます!
▼ 本編【CCC】シリーズ 総合リンク
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▼ 番外編【STO】シリーズ 総合リンク
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ノリト&ミコト




