第8話・治療の結果とこの先の~判断一つで起こりえる~
第5章 皇女殿下のブルン散策
第8話・治療の結果とこの先の~判断一つで起こりえる~
結局、インスが宿に戻って来たのは事件から三日後。
まだ青白い顔をして、疲労が残っていそうではあるものの、無言でぎゅっと抱き着くアインをちょっと困ったように微笑んで撫でていた。
「……おかえりなさい……」
その右手の動きにぎこちなさがないことにホッとしてジャンヌが声をかければ、ふっと顔を上げたインスはほんの一瞬、目を細める。
「……ただいま戻りました……」
「問題はないようだな……」
どこか平坦な声音のインスに気づかず、ジャンヌ同様、右手の動きを見たファンがふむと一つ頷く。
「……そうですね……今回は……」
「「「「「「……………………」」」」」」
にこりと、一切笑っていない笑顔を向けたインスの返答に沈黙する。
案に、場合によっては問題しかないことを伝えてきた。
「もう一日か二日ほど、休息は必要そうか?」
「……いえ……どうせ私は馬車に乗っているだけですからね……多少、揺れで消耗はするでしょうが、大丈夫でしょう」
言いたいことは分かったが、今言っても意味はない。
だから、ファンは体調を確認し、インスは軽く首を横に振る。
「なら、明日には出発できそうね! 遅れを取り戻さなくっちゃ!!」
「「「「「「……………………」」」」」」
パッと笑顔になったジャンヌの言葉にはまた沈黙が落ちた。
「……ちなみに、向かう先は……?」
「え? もちろん、バルバ島よ!」
「「「「「「……………………」」」」」」
念のため……本当に念のため確認したインスに、当然とばかりに返すジャンヌの答えに溜め息。
「何よ~。そもそも、そのために来てるのに、他に何があるっていうのよ!」
こっそりだったり、あからさまだったりする反応に、むうっと唇を尖らせたジャンヌは……いい意味でも悪い意味でも変わっていない。
「……いえ……誰もそれを希望していない、ということをご理解いただけないのだな、と再確認しただけです……」
「ちょっ!? 失礼じゃない!! というか、どうしてみんな嫌がるのよ!! カルロスとアインの宝石を取り戻せなくていいの!? インスとアインにかけられた呪いだって!!」
静かに言うインスに、ジャンヌはますます声を上げる。
「以前も申し上げましたが、仮にそうだとしても、それは今ではありませんし、皇女殿下が率先して行うことでもありません」
「じゃあ、一体いつ! 誰が! 実現してくれるっていうのよ!! カルロスが目を覚ますまでだって、誰も! 何もできなかったじゃない!!」
インスの言うことは間違っていない。
そして悪いことに、ジャンヌが言っていることも、ある意味では正しい。
「……姫様のお気持ちを、全く理解できないわけではありません……」
言い合う二人の間に入るように、ファンが口を挟む。
「けれど、姫様のお立場を勘案すれば、この行幸を手放しで認めるわけにはいかないのも事実です」
「でも……っ!」
「ですから……」
言いかけたジャンヌを遮る。
「姫様に万一がないよう、我々が命をかけるのです」
「………っ!?」
ひたりと、目を見据えて言い切ったファンの言葉に息を飲む。
無言で見守るリオンたちの顔を、ジャンヌはゆっくりと見まわした。
「……ま、お前の判断一つで誰かが死ぬのは間違いないな……」
「っ!!??」
目が合ったリオンがきっぱりと言い切るのに絶句する。
クロードも、インスも、ステールも、アインさえもが何も言わない。
「……そ、んな……こと……っ」
そんなことはない、とはジャンヌにも言い切れなかった。
例えば、相手が魔物なり、魔族なり、あるいは明確に悪人である、と分かっているのならともかく。
先日の襲撃のように、訳が分からないまま、突然街中で襲われるようなことがあった時に、今度こそ、誰も怪我をせずに治められるか? と聞かれても……
(……何でいきなり襲ってきたのかもわからないし、あんな無茶苦茶な暴れ方されたら……)
自分でも身を守るか、反撃するかができるのか?
そもそも、その状態になること自体が問題である、というところに意識が向かないのがジャンヌらしいが、本人は至って真面目に検討している。
「……少なくとも、人のいるような場所であのような事態は二度と許しませんが……」
こちらもまた、至って真面目に言うファンを、インスが冷めた目でチラリと見た。
(……事前に何度も申し上げたのに、結局皇女殿下の我儘を許した騎士団長様が何を言っていらっしゃるのか……)
その、鼻で笑うような態度に、ファンがグッと眉間の皺を深くする。
けれど二人ともその件に関しては触れず、今日一日ゆっくりと過ごし、明朝出発することで話はついた。
第8話をお読みいただきありがとうございます。
事件から三日後、怪我の治療が終わり、宿に戻ってきたインス。
これで出発できると無邪気に喜ぶジャンヌですが、向かう先が「バルバ島」であると再確認され、護衛陣には重苦しい沈黙が落ちます。
「誰もそれを希望していない」と冷ややかに告げるインス。
「万一がないよう、我々が命をかけるのだ」と真っ直ぐに見据えるファン。
そして、リオンの「お前の判断一つで誰かが死ぬのは間違いない」という言葉がジャンヌに深く突き刺さります。
己の決断の重さを突きつけられたジャンヌ。
果たして彼らの旅はどうなってしまうのか!?
次回もお楽しみに!
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ノリト&ミコト




