第2話・繰り返された警告と~他人にうるさく、自分は甘い~
第5章 皇女殿下のブルン散策
第2話・繰り返された警告と~他人にうるさく、自分は甘い~
にぎやかな商店街の大通り。
行き交う人や馬車などが入り混じりながらも、街の者は慣れているのか、流れが止まることはない。
大小の建物が無秩序に並んでいるせいで、見晴らしはあまり良いとは言えず、あちこちにある路地も広かったり、狭かったりと様々。
エスパルダは冬、雪深い国。
だから街の者たちも分厚い外套や手袋、帽子やマフラーなどの防寒具を身に纏い、雪道を歩くのに支障が出ないよう、革のブーツで足元も覆っている。
色は黒かったり、灰色だったりと暗い色彩が多いが、特に女性などは小物に刺し色となるような鮮やかな赤や青、黄色も使っていた。
連れもなく一人での外出の者が多いようで、話す声は少ない。
もちろん、中には知り合いや、あるいは職場の仲間と連れ立っているのか、何人かで固まって話しながら歩いている者もいる。
けれど、そういった者たちは他の通行人や馬車などの邪魔にならないよう、建物に近い位置に寄っていて、進むペースも緩やか。
一見すると、それまでと何ら変わった様子はない。
(……なんだか……ちょっと……)
不安そうに目をキョロキョロさせるアインは、無意識にギュッとインスの首に手を回して抱き着く。
「…………………」
その背を宥めるように撫でるインスもまた、無言のまま周囲をゆっくりと見渡す。
今、ほんの一瞬感じ取った魔力を探るが……
(……ダメですね……人が多すぎて、特定しきれそうにありません……)
そっと息をついたインスは、そう結論付けるとジャンヌに向き直る。
「……散策は切り上げて、早めに宿に戻られた方がよいでしょう……」
「ええっ!? まだ来たばっかりじゃない! どんなお店があるのか、とか、何か珍しいものがないか、とか、見てみたいもの、いっぱいあるのに……!」
それから、念のため帰宿を促すが、案の定、ジャンヌは不満げに唇を尖らせた。
「貴様……まさかアインのためにお嬢様に我慢を強いる気か……?」
「あなたの思考回路はどうなっているんですか……?」
ギュッと眉間に皺を刻んだファンが睨みつけてくるのに、心底呆れ果ててインスが返す。
「……ファン卿……インスが言っているのは、出発前にもお伝えした治安の問題です……」
そこに、ステールが念のため、と口を挟めば、ファンは腕を組んでムッと唇を閉ざした。
「確かに人通りは多いし、馬車や荷車とかも入り混じっててごった返してるけど、別に大丈夫じゃないかしら?」
その様子に、ちょっと首を傾げたジャンヌは何の危機感もなくそう言うが、クロードとステールの表情から、ファンは即応できない。
(……インス=ラントが言うように、本当に治安の悪化があるのなら、確かに危険を避けるためにもお戻りいただくのが最善だ……クロードとステールまでもがその判断を認めている、ということは何らかの確証があるのだろう……だが……)
普段からしょっちゅう皇都をお忍びで散策していたジャンヌが、初めて来た大きめの都市で、数日間に渡って宿に足止めされていたのだ。
我慢ができなくなって、知らぬ間に宿を抜け出されるようなことになっては困る。
それならば、これだけの手練れをそろえて、まだ明るい時間に、多少の息抜きでもさせないと、どんな暴走を引き起こされるか分かったものではない。
現に、まだ宿に戻る気は全くなさそうな様子であるのは先ほどの発言からも明らかなのだから。
「…………あまり、長居はできかねます……」
「「「「「………………」」」」」
「えぇっ!? もう! 仕方ないわね……」
眉間にいくつも皺を刻んで、いかにも致し方なく、と言った様子でファンが声を絞り出せば、ジャンヌは不満そうに唇を尖らせるものの、不承不承頷く。
対して、他の者は何とも言えない表情で沈黙するだけ。
チラリと、クロードとステールが視線を交わし、そっと息を吐く。
護衛官である二人は理解している。
呪師が、魔力を感じ取ることで、様々な危険を察知できることを。
インスとアインの様子から、何らかの警鐘を覚えたのであろう、ということを。
だからこそ、インスは重ねて戻るようにと告げたのだろうし、それが分かったからステールも進言した。
けれど、それでも……
(……これだけの護衛が付いている状態で、むやみに絡んでくる者など居るはずもなかろう……)
そう判断したファンは、再び歩き出したジャンヌに寄り添い、周囲を警戒した。
「……実際、どうなんだ……?」
後に続いて、そっと溜め息を漏らしたインスもアインを抱いたまま歩き始めて、ステールも警戒度合いを上げているのを悟らせないように横に付く。
列の最後尾、クロードと並んで歩くリオンが、こっそりと問いかければ、クロードは困ったように微かに眉を下げた。
「……多分、危ない……」
「でも、ファンの野郎は大丈夫と見てる?」
「……ん……」
ぼそりと答えたクロードに重ねて問えば、短く頷かれる。
ちなみに、ジャンヌに関しては考えても意味はない。
危険があろうがなかろうが、やりたいことはやりたいというし、行きたいところには行きたいという。
その結果が、今、ブルンにいる現状だ。
「……ファンの野郎……人に散々文句言っておいて、自分が一番甘やかしてるんじゃないか……」
ムッと、口をへの字に曲げて、リオンが口の中で吐き捨てる。
ジャンヌと知り合った当初、お忍びで皇都に出て来ていたジャンヌを、色々なところに案内したリオンに対し、毎度口煩く言ってきたファンを鬱陶しくも思っていた。
その後、秋にかけて起きた魔族がらみの事件で、自分も、クロードも、ジャンヌも……ファンも……一歩間違ったら死ぬかもしれない戦いの渦中に引きずり込まれたことで、リオンは悟った。
ジャンヌの我儘を、何でも許していたら、それこそ危険だ、と。
だから幼馴染で専属護衛騎士団の団長であるファンはあんなにうるさく言っていたのか、と。
けれど、極秘討伐隊として、バルバ島を目指す旅に出て、思うのだ。
何だかんだ、常に甘やかしているのは、実はファンなのではないか? と。
だって、皇帝からは、途中で諦めさせるため、と言われているのに、全く諦めなくてよい状態をファンが作っている。
むしろ、インスの方がしっかりと皇帝からの命に従って諦めさせようとしているようにしか思えない。
「……ファンの野郎は、一体全体、何を考えているんだ……?」
その考えが理解できない。
眉を寄せてファンの後頭部を睨みつけていたら、不意に首だけ振り返ったファンに睨み返される。
鼻で笑ってやれば、ますます眉間に皺を寄せたファンは不快げに視線を逸らした。
第2話をお読みいただきありがとうございます。
賑やかなブルンの商店街を歩く一行ですが、インスやステールは治安の悪化を理由に帰宿を強く進言します。
けれどもファンの結論は「長居はできない」とは言うもの。
「今すぐ帰る」ではないことで渋々ながらも同意したジャンヌですが、そのファンの判断に絶句するインスたち。
そして、「他人に文句を言うくせに、自分が一番甘やかしている」というリオンの的確すぎるツッコミが冴え渡ります。
果たして彼らの散策は無事に終わるのか!?
次回もお楽しみに!
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また次回もどうぞよろしくお願いいたします!
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ノリト&ミコト




