第7話・生ける伝説の皇宮呪師~その体験が迷いを消し去り~
第4章 皇孫皇女の日常思考
第7話・生ける伝説の皇宮呪師~その体験が迷いを消し去り~
純魔族と戦って、人間が勝てる見込みはほぼない。
けれど、皆無ではないのは歴史が証明しているし、それ以前に……
「前にインスが倒したこと、あるじゃない。なら、無理じゃないはずよ」
「条件が違い過ぎます……そもそも、あの者が倒したことのある相手と、目的の相手とでは強さが違い過ぎる……」
下位ではあるが純魔族の討伐を成功させた実績。
それをインスが持っていて、だからこそ当代一と謳われている。
その事実が、なおさらジャンヌを諦めさせない理由ともなってしまっているのが何とも言えないが、インス自身もしっかりと話して聞かせているのだ。
自分一人の功績ではないし、正面からまともに戦ったわけでもない。
そもそも、多くの呪師たちが退路を確保するために死に物狂いで攻撃し、極僅かずつではあってもダメージを蓄積させていた上で、全魔力を込めた極大魔法での不意打ち。
それがかろうじて上手くいったが故の討伐成功で、決して実力で勝ったわけではないのだ、と。
しかし、ジャンヌの受け止め方は違う。
歴史の中で何度となく行われた魔族の討伐。
確かに、多くの犠牲を出したり、大きな被害を出すこともあるけれど、それでも「成功させた事例」自体は散見されている。
その、一例が今、目の前にいる皇宮呪師によって引き起こされたという希望!
……まあ、頻繁に怪我をしたり、入院したりはしているが……
その入院の理由はさておき、事実は事実。
だからこそ、ジャンヌは一切諦める必要性を感じていない。
ちなみに、インスは散々説明した挙句、理解を得られないと理解した時点で様々諦めた。
その結果が現状なので、自分にも一因があることは認めている。
だからこそ、不満はあっても飲み込んで尻拭いに奔走しているのだが、ジャンヌはもとよりファンの理解も及んでいないのは……
彼らがお膳立てされて当たり前の皇族や高位貴族の一員だからだろうか?
「それに、前回だって、何とかなったし!」
「……運や偶然の要素が強すぎて、参考にならない、というのが結論でしたが……?」
そして、なお悪いことに、昨年秋の事件でジャンヌ自身が追い払うことに成功し、呪いの一端を解く、という成果を上げてしまっている。
初冬に、皇宮呪師長に憑依していた、と分かるまでは倒したとばかり思っていて……
いや、正確に言うのならば、倒しきれていない可能性の方が高いと判明していたが、それでも倒しきれている可能性も残っていた……
少なくとも、五年もの間、目を覚ますことも成長することもなかった皇子が、間違いなく意識を取り戻し、少しずつではあっても成長を再開させている以上、成果は出ている。
(……それが、すべて相手の思惑通りであった可能性も高いが……)
成功体験と言うものは、時に厄介なまでの自信を付けさせてしまう。
こっそりと重い溜め息を飲み込むファンの様子になど気づくこともなく、ジャンヌはワクワクと目を輝かせて外を……セージの様子を見つめ、道行く人々を眺める。
「……どちらにしろ、あの者がどんな実績を持っていようとも、今の状態では何の意味もないのだがな……」
「? 何か言った?」
ぼそりと口の中で呟いたファンに、ひょいと顔を向けたジャンヌが首を傾げた。
「……いえ……お嬢様がどれだけ現状を正確に理解しておられるのか……思考を巡らせていただけです……」
「……………何か、ものすっごく失礼なこと考えてそうな気がするんだけれど?」
「……一切間違っていないと思っておりますが?」
返答に、むうっと唇を尖らせたジャンヌだったが、真顔で言い切られて流石に絶句する。
「ちょっ!? 流石に失礼過ぎない!?」
「きちんとご理解いただけているのであれば、我々はここにはおりませんでしたので……」
「何でよっ!!」
うがあっと喚くジャンヌに、表情を変えないファンがそっと溜め息を漏らす。
そんな返事が来ること自体が、ファンの考えを肯定しているのだが……
(……やはり、ご理解いただけていない……)
リオンやインスが言うまでもなく、ファンだってわかってはいるのだ。
この旅路がいかに無謀極まりないかということも。
本来であれば、ジャンヌの行動をことごとく邪魔立てする采配をして、一刻も早く皇都に帰らせるのが皇帝陛下からの密命である、ということも。
同時に、そうは言っても、仮にも皇孫皇女であるジャンヌに不便をかけさせ、不敬を許容しきれない、という個人的な思いがどうしても行動を妨げてしまい……
(……その結果、とうとうブルンにまで来てしまったのだから……インスの不敬を叱れる立場ではないのは理解しているが……)
しかし、それにしても目に余り過ぎる、という思いがぬぐえない。
その理由も分かっていて、インスがジャンヌの安全を無視した暴走をしかねない、と考えているから。
(アインのために、姫様を危険に晒すなど、断じて許すわけにはいかない……!)
それこそが、ファンが最も危惧していること。
「ちょっと! 聞いてるの!!」
「聞こえてはおります……が、人前でお話しできる内容でもありませんので……」
ずっと喚き散らしていたジャンヌが肩を掴んできたのに、視線を合わせ、冷徹に言い切る。
「むぅ~っ! なんか、ちょっと意地悪だわ!!」
「……致し方ないと、ご理解ください……」
完全に聞き流していたことが分かっているので、ジャンヌは文句を付けるが、真顔のままのファンは一切の忖度なしにそう答えた。
第7話をお読みいただきありがとうございます。
今回は、インスの過去の討伐の実績と、ジャンヌの成功体験という「厄介な自信の源」に触れるお話でした。
不可能ではないと証明してしまったインスの存在と、ジョンの意識を取り戻したという事実が、ジャンヌの決意をより強固なものにしています。
現実の厳しさを知る周囲と、希望しか見ていないジャンヌ。
それぞれの視点の違いによる会話のズレが、このパーティーの現状をよく表していますね(笑)。
果たして、彼らの進む先には何が待っているのか?
次回もお楽しみに!
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ノリト&ミコト




