第7話・要衝の都市・ブルン~冷め行く気持ちの行き着く先は~
第2章 皇孫皇女の珍道中
第7話・要衝の都市・ブルン~冷め行く気持ちの行き着く先は~
一行が皇都から最も近い大きな都市であるブルンに到着したのは、皇都を出発してから七日目のこと。
三日目にインスからジャンヌに対する呼び掛け方や、宿の取り方に関して苦情を告げられたファンは、以降できるだけ貴族向けの……それも中流貴族程度が利用する高級宿を選ぶようになった。
流石に上流貴族が利用する宿では身分を完全に隠すことはできないし、下級貴族向けは平民の豪商向けを兼ねていることもあるので、最初の二日間と同じような状態になりかねない。
よって、正体はバレないまでも、貴族であるという程度は知られても問題なかろうと判断した結果の中流貴族向けだった。
「……中途半端ですね……この先、西方に進めば、そもそも宿など一つもないというのに……」
「バカな! それでは西方の貴族たちは皇都への社交の際にどうしているのだ!」
「……ある程度の人員を連れての随行ですから、町や村の外で野営をするのでは? ステールさんにでも聞いて下さい……」
「……っ!!??」
中流貴族向けの宿を選んだ初日に、インスにそう言われてファンが驚いたのも数日前のこと。
冷笑を向けたインスにギリギリと歯を食いしばり、眉間の皺をこれでもかとばかりに深くしたファンだったが、結局は程よく詮索もされない、ということで、そのまま中流向けの宿を選んでブルンまで来た。
ブルンは、二十年ほど前までは子爵家の領都だった街。
様々な不幸が重なった結果、返領を余儀なくされて子爵家は没落したが、皇都から近い大きな都市である、という理由で今は直轄領となっている。
十分に復興も進み、安定もしてきたので、近々新たな領主が就任する可能性もあった。
元の領主であったサルビス子爵家の当主とその息子は今も平民の文官として領政に携わる代官と役人として勤めており、その能力に問題がなかったことを皇都からの査察官が報告している。
とは言え、一旦爵位を返上している以上、再び受爵するには相応の成果や貢献が必要となるため、サルビス家が貴族に戻る日が来るかは永遠に謎だ。
「それにしても……インスもアインも……なんでどこででも絡まれるんだ?」
「私が知るわけないでしょう? 彼らの目的すらわかりませんよ……」
呆れたようにリオンが言ったのは確か五日目の昼過ぎだったか……
途中の町で昼食を取るためにレストランに寄ったら、町の住人と思しき男たちが数人、クロードとステールがちょっと離れている間にインスとアインを囲んで何やら声をかけてくる、というのは、実は出発二日目からずっと続いていた。
疲れたように溜め息を吐くインス自身が関節を極めて追い払ったことも数度。
言って聞かずに手を出してこようとするのだから、正当防衛だろう。
ただ、だからと言って毎回のように絡まれるのも面倒で、いい加減、理由くらいは知りたいところだ。
ちなみに、クロードとステールが戻ってきたことで男たちが退散することの方が多いので、インスが自分で追い払ったのは数える程度。
なぜかその度に居合わせた他の客たちから生ぬるい視線も向けられるので疑問が尽きない。
「……本当に……一体全体、何だというのでしょう……?」
「よく分からないけど、大変そうね」
溜め息を漏らすインスに、あっけらかんとした口調で告げるジャンヌは、常にファンかリオンが傍にいるせいか、それとも他に理由があるのか、現地の住民が声をかけてくることなどない。
「……本当ですね……皇女殿下が皇都に帰らせて下されば、無用な苦労なんですけれどね?」
「大丈夫よ! クロードもステールも居るし、インス自身が追い払えるから、問題ないでしょう?」
他人事口調のジャンヌに笑っていない笑顔でインスが言えば、ジャンヌも満面の笑顔であっさりと返す。
その直後に馬車の中の気温が極寒まで下がったのはリオンの気のせいではないだろう。
何だかんだありつつも、予定より数日遅れてのブルン到着。
ちなみに、遅れた理由は主に雪とインスとアインの体調不良。
これが雪の季節でなければ半分の日程でたどり着いただろう。
もちろん、二人の体調は勘案しない場合だが……
それだって、雪の積もった街道を走るよりはずっとマシだったはず。
むやみやたらと出発を急いだ結果の行程の遅れ。
そのことに、ジャンヌ自身は気づいていない。
(……少し考えれば、わかりそうなものなのですけれどね……)
と、冷めた目をインスが向けるのももはや日常だ。
ついでに言えば、行程の遅れには途中、野生動物との遭遇などもあり、駆除しないと進めないことがあったから。
冬場はそもそも旅人など少なく、野盗の類もあまり活発には活動しない。
だから、冬眠し損ねた野生動物や、むしろ冬場に活発になる野生動物などが、街道や付近の村や町の周辺まで押し寄せることがある。
幸いと言っていいのか……街道沿いに魔物が出る事は少ないので、ファンとクロードが少し騎馬で先行して殲滅し、道を開けて馬車を通す、といった感じで進んでいた。
ブルンは、直轄領になってからは復興に力を入れていたので、サルビス家の領都だったころと比べると活気は若干落ち着き、少し古い時代の空気感と、安定的な空気感が入り混じっている。
街の整備も順次進められているため、別の意味では騒がしい。
今は雪に閉ざされているため休工しているが、春になれば至る所で工事が再開されるだろう。
そのため、今の季節ではよく言えば落ち着いた。
悪く言えば少し古びた印象を受ける街だった。
第7話をお読みいただきありがとうございます。
一行はようやく皇都最寄りの大きな都市ブルンに到着しました。
ここに至るまでの道中は、野生動物の襲撃や謎の絡まれ被害など、相変わらず前途多難な出来事の連続!
マイペースを貫くジャンヌと、それに振り回されて密かに疲労を溜めていく男たちの温度差(笑)。
新しい街に到着したことで少しは一息つけるのか、それともまた一波乱あるのか?
次回もお楽しみに!
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ノリト&ミコト




