第4話・進む道行き思考は回り~誤解と確信~
第2章 皇孫皇女の珍道中
第4話・進む道行き思考は回り~誤解と確信~
まさか、ステールが提案してきた「お嬢。」という呼び方が裏家業の頭目の娘に対する呼称だったとは……!
インスに真実を暴露され、とんでもない扱いをしていたと知って怒り心頭したファンは、冷静になってくると、では、どう呼ぶべきかに迷ってしまう。
というか、ジャンヌ自身はソレが裏家業の頭目の娘を表すと知っているのだろうか?
(……いや。姫様がご存じのはずはないな……私ですら知らなかったのだ。姫様が知る機会など……)
本当に、なかったか?
街道を馬車に並走して馬を走らせながら、つらつらと考え込むファンはふと、疑問を覚える。
(……辺境伯家のご令嬢をそう呼んでいたというから、てっきりそういったものかと思っていたが……良家の子女を使用人が『お嬢様』と呼ぶのとは違うのか……?)
敬称が付くか付かないかで、それほどまでに意味が変わるというのか……
(それに、姫様はよく皇都にお出かけになられていた……その散策先で、そういった者らに会うことがなかったと、言い切れるか……?)
そういった、下町や危険な者らが出入りする場所にまで、リオンが連れて行くことがあったと知っているファンからすると、ジャンヌが「意味を知らない。」とは少し、考えにくい。
(……いや。もしかすると、仮に『お嬢』呼びを聞いたことがあったとしても、私がそう思ったように、良家の子女を呼ぶようなもの、として受け止めておいでである可能性もあるか……)
だが、少なくとも……
(……リオンは知っていて黙っていたな……!)
ぎりっと奥歯を噛みしめ、眉間の皺を深くする。
そう、間違いなく、リオンはその呼称がそういった者らが使う言葉であると知っていただろう。
なのに、何も言わなかったせいで二日も不敬を晒してしまった!
(……あとで厳重に注意しなければな……)
などと考えるが、リオンが口を閉ざした理由は「言っても聞かないだろう。」と判断したからだ。
リオンが「いや、それはやめておけ……。」と言ったところで、ファンが受け入れるはずもなく。
そもそも理由すら聞かないだろう。
では他に代案があるのか? と聞かれれば「ジャンヌで良くね? てか、何でこだわってるんだよ?」と返すだけだ。
そう、ファンが無駄にこだわらず、素直に「ジャンヌ。」と呼べばすべては丸く収まった話。
なのに、無駄なこだわりを見せたからステールが提案し……ステール自身も愛称呼びへの抵抗があったからだが……ジャンヌが許したからそうなっただけ。
宿の前でステールを追い回すという醜態をさらしたことなど早くも棚に上げ、リオンに八つ当たりのように注意しようと考えているのだから……
口火を切った瞬間に、リオンに反論されて終わる未来が見えた。
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(……ファン卿は、どうしていきなり怒り出したんだ……?)
一方、朝っぱらから剣を片手に追い回されたステールも、危なげなく馬車を走らせながら内心でしきりに首を傾げる。
(大体、インスの奴も、どうして辺境伯家が裏家業を営んでいるのか? なんて意味の分からないことを言い出したんだ! 絶対にそのせいだろう!!)
ステールが辺境伯家に仕える寄子家の出身であると知っている筈なのに、その主家である辺境伯家が裏家業などという非合法な行いをしている筈もないというのに……
どこからそんな話が出てきたのかは分からないが、あとでガツンと言ってやらなければいけない。
(主家を侮辱されて黙っていた……なんてことがバレたら、親父や兄貴にどやされる……)
まさか、その主家のお嬢様を裏家業の頭目の娘と同じように呼んでいる、なんて思ってもいないステールも不機嫌そうに唇を歪めてそんなことを考える。
そしてインスから、真実を冷たい笑顔で懇切丁寧に説明されて、頭を抱える未来が見えるのは気のせいか……
幸か不幸か、ファンもステールも、自分が一切間違っていないと信じ切っているが故の思い込み。
そして……
「……ステール。馬車を止めろ……小休止する……」
街道を走ること数時間。
ファンの一声でゆっくりと街道脇に馬車が寄せられ、停車した。
「休憩? 温かいお茶とかないかしら?」
「少し時間がかかっても良ければ、準備させますが……」
踏み台が設置され、扉が開くと、ファンが手を差し出し、ジャンヌをエスコートして下車させる。
その手を取って降りながらジャンヌが言えば、いつも通り、眉間に皺を寄せた生真面目な表情でファンは答えた。
「………………」
続いて、馬車を降りたリオンはどこか青い顔。
外に出て思いっきり深呼吸をし、身体を伸ばす。
「……アイン君。気分はどうですか……?」
「僕は大丈夫です……インス様こそ……」
続いて、アインを抱いたままのインスが、声をかけながら降りると、答えるアインは不安そうにインスを見た。
「……私も大丈夫ですよ……心配してくれてありがとう……」
「……なら、よかったです……」
ふわりと微笑むインスに、ちょっと遠慮がちな笑みを浮かべて、ギュッとアインが抱き着く。
「……ステール。お茶の準備を頼む……」
「分かりました……インス! アイン! 見てくれ!」
その様子に眉間の皺を深めつつもファンが声をかけ、輪留めを設置して馬車を固定したステールが二人を呼ぶ。
「わかりました」
「……ぁ、はい……」
スッと顔を上げた二人が頷き、馬の世話をクロードに任せたステールがお茶の準備を始めた。
第4話をお読みいただきありがとうございます。
今回はファンとステール、それぞれが独自の解釈で現状を振り返っています。
しかし、ファンはリオンへ、ステールはインスへと、それぞれ全く違う方向に責任や疑問を向けてしまっています。
一切噛み合っていない彼らの思い込みが、この先の休憩時間でどう転がるのか?
馬車を降りて一息つくジャンヌたちの様子と合わせて、楽しんでいただければ幸いです。
次回もお楽しみに!
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ノリト&ミコト




