第3話・その真っ直ぐさが厭わしい~現実を知る者~
第2章 皇孫皇女の珍道中
第3話・その真っ直ぐさが厭わしい~現実を知る者~
いつ、どうして、皇孫皇女を「お嬢。」などと呼ぶことになったのか?
動き出した馬車の中で思考に耽るインスを、アインが心配そうに見上げ、リオンが外に顔を向けて視線を逸らす。
「昨日の宿もまあまあだったわね! インスたちも、昨夜は少しマシに休めた?」
艶ピカのジャンヌが笑顔で問いかければ、リオンは「おいおい! まじかよ……。」と密かに冷や汗を浮かべ、思考に耽っていたインスは極上の笑顔を向けた。
「……おかげさまで? 初日よりは多少マシでしたかね……?」
「なら良かったわ! インスもアインも、大変でしょうけど、頑張りましょうね!」
「「「…………………」」」
完全に嫌味でしかない返答に、とてつもなく前向きな笑顔を向けるジャンヌを無言で見つめる。
「……えっ? どうかした??」
「……どうかした? じゃないと思うぞ……」
「……ぇ……と……」
まじまじと見つめられて困惑するジャンヌに、リオンが疲れた声を出せば、自分も何か言わないといけないだろうか? とアインもしどろもどろと口を開く。
そんなアインの頭を撫でて、何も言わなくて良いと言いうかのように笑顔を貼りつけたインスが。
「大変だと分かっていらっしゃるなら、今すぐ皇都に帰らせてください」
「だめよ! 絶対に取り戻すんだから!!」
至極もっともなことを告げれば即座にジャンヌは却下する。
しかし、本当に「大変であること」を理解しているのなら、こんな死にかけたばかりの病人と死にかけたばかりの幼児を連れ出すべきではない。
「「「……………」」」
当然、ジャンヌがそう返してくるだろう、ということは言ったインス自身も、リオンやアインにも分かり切っていた。
分かり切ってはいたが……
(……すげぇな、インス……真っ向から帰れって言いやがった……!)
ジャンヌ以外の全員が思っていることを突き付けたインスにリオンは感心し。
(……皇女殿下の我儘に、どこまで付き合わせる気でしょうかね……?)
何も分かろうとしない皇女に冷めた目を向けてインスは沈黙し。
(……やっぱり、皇子さまは、僕と違って、両方見えないから……かな……?)
ジャンヌがどうしてそこまでこだわるのかを、アインは考える。
「というか! アインの宝石だって、取り戻さないと治らないのよ!」
「……それは……」
「……ぇ……っと……」
むうっと頬を膨らませてジャンヌが言えば、流石にインスの眼差しが揺れ、オロオロとアインが声を漏らす。
インスだって、できることなら今すぐにでも奪われた瞳の宝石を取り戻し、アインの損なわれた目を元に戻してあげたい。
けれど、そのためにアイン自身を危険に巻き込みたくもない。
なにより……
(……盲目の皇子殿下は安全な皇都に残し、隻眼になってしまったアイン君は当事者だから同行しろ……?)
その扱いの差に関しても納得がいかない。
いや、分かるのだ。
国として考えれば、皇太子である皇孫皇子を、危険と分かっている極秘討伐に同行させられるはずもない、と。
そもそも、皇孫皇女であるジャンヌ自身だって、国としては行かせたくないのだから。
つまり……
(……いえ。やはり、皇女殿下の我儘がすべての元凶ですね……)
結局はここに帰結する。
確かに、アインの瞳の宝石はインスとしても取り戻したい。
けれど、それと危険に晒すことは同じではないし、それを皇女の我儘で押し切られて納得できるはずもない。
だから……
「……少なくとも、今の状況で強行することではないでしょうね……」
「……っ!?」
ぽつりと呟くように言ったインスに、ジャンヌは息を飲む。
「……そして、皇女殿下が同行するべきことでもないでしょう……」
ふわりと、笑っていない笑顔を向けたインスに絶句する。
「なん……っ!」
「なぜ、などとは仰らないで下さい。私はきちんとご説明申し上げました」
一拍置いて、声を上げかけたジャンヌを遮る。
すでに、説明は終えている。
それでも強行したのだから、こちらが歩み寄る必要性は皆無だ。
ガラガラと、街道を走る馬車の車輪の音だけが重苦しい車内に響く。
不安そうなアインに微笑んで、そっと抱きしめるインスはそれ以上口を開こうとしない。
何を言っていいか分からなくなって、ジャンヌも口を開きかけては閉ざすを繰り返すだけ。
ふいっと、視線を逸らすように、リオンもまた外へと顔を向ける。
沈黙は、次の休憩地点まで続くことになった。
第3話をお読みいただきありがとうございます。
今回はジャンヌとインスの衝突(?)エピソードでした。
とにかく進みたいジャンヌと、今すぐ帰れと真っ直ぐに突きつけるインス。
これまでのツッコミとは違う、インスの本気の冷たい眼差しに、ジャンヌもついに言葉を失ってしまいます。
一切の妥協がないインスの態度は、ある意味でこの旅の過酷さを誰よりも見据えているからこそ。
逃げ場のない空間で繰り広げられた重い沈黙の果てに、一行の旅路はどうなるのか?
次回もお楽しみに!
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ノリト&ミコト




