150・203号室の人外さん
2月の中旬。
食後にまったりとバラエティ番組を観ながらくつろいでいると、鬼さんが仕事用のカバンから数枚の紙が入ったクリアファイルを取り出して簡易テーブルの上に置く。
その紙に書かれてあったのはこの前、居酒屋でいぬがみさんが言っていた戸籍についての内容だった。
「あっ、もう出来たんだね」
「いや、これはサンプルだって」
「サンプルなんだ」
だから、名前を書くところに田中太郎って鬼さんの名前じゃない名前が書かれてあったのか。その他にも色々書かれてあるけど私にはどれも難しい内容で頭がこんがらかる。でも、事は良い方向に向かっていることだけは分かった。
「いぬがみさん、忙しいのに」
「そうだな、あいつ黒鬼との面会もあるし新しい企画の会議もあるからな」
「面会?」
黒鬼、もとい西園寺先輩?もう、この際だから黒鬼で良いか。黒鬼は妖怪界で服役中ってことは知っている。鬼さんが言うに、いぬがみさんは服役中の黒鬼に月一くらいの頻度で面会に行っているらしい。そこで、まぁ世間話とか色々話すそうです。
「いぬがみさんって器が大きいよね」
だから、いぬがみコーポレーションって言う会社立ち上げることが出来たんだ。私だっていぬがみさんみたいな人が上司だったらその会社に入社したいと思う。あっ、いぬがみさんは人じゃなくて子ダヌキだった。
ついでにどうしていぬがみさんはいぬがみコーポレーションを立ち上げたのかと鬼さんに聞いてみると、どうやら、鬼さんと同じく人好きのいぬがみさんはどんどん進化して行く人と文化を見ていたらいつの間にか体が動いて気が付いたら大きないぬがみコーポレーションを立ち上げていたとの事。
「で、その話は置いといて。本題はこれ」
クリアファイルの中からもう一枚のパンフレットを取り出した鬼さん。その紙を私の方に見やすく置いてくれる。えーと、なになにパンフレットに書かれているのは。
「萌香の春休みに行こうかって考えてて」
「旅行!」
パンフレットに書かれてあったのはイチゴ狩りのバス旅行や温泉旅行やテーマパーク旅行などなど。一枚のパンフレットにたくさんの旅行プランが載ってあって見ているだけで楽しい。
「オレ、人間に化けるからさ」
「そうすれば人に見られるもんね」
話しながらパンフレットを見ると、とても面白そうな旅行を発見、それは日帰りで行ける温泉旅行でした。火ノ江町には銭湯はあっても大きな温泉はなくて一回でも良いから行ってみたかったんだよね。しかも、日帰りって言うことろがポイント。
「温泉旅行に行きたい」
「それはオレも思う」
「じゃぁ、この日帰り温泉旅行が良いな」
「えー温泉街で泊りが良い」
「ん?」
バチバチバチ、只今、私と鬼さんは視線で戦っております。日帰り派VS泊り派、さて勝つのは一体どちらでしょうか!
「オレ、萌香と一緒に温泉街で色んなものを見て回りたいんだ。あとは観光名所とかでたくさん写真撮りたいし、それだと日帰りじゃ時間が足りないからオレは泊りが良い」
いつになく真剣な表情でそんな事を言われたらドキッとしますよ。それに、日帰りよりも宿泊の方がたくさん思い出が作れる。私的には日帰りが好きだけどやっぱりここは宿泊にしますか。
「あと、温泉街のここには混浴があるからっ!」
地図のとある温泉旅館に指を当てて邪な発言をした鬼さんに私はテレビのリモコンで制裁しました。前言撤回、日帰りにしよう。なんて、それは冗談でして。本音はさっきと変わらず宿泊の方向に傾いています。
「まぁ、バカ正直に言うのが鬼さんらしいよね」
ペンたてから赤ペンを出して、鬼さんが言う温泉街で温泉巡りの旅行プランに赤丸を付けました。それから、ついでにもう一つの旅行プランにも丸を付けます。それは日帰りで行ける海外旅行。場所は近くのソウル、実は前々から飛頭蛮さんとメールのやり取りをしていて少しづつ興味が湧いて実際に行ってみたかったんだよね。
「海外は初めてだし日帰りの方が安心するかも」
「そうなんだ。ねぇ、他にも海外で行きたい場所ってある?」
突然の質問だったけど、私は少し悩んでから一生で一度は行ってみたい場所を鬼さんに言いました。
「イタリアとハワイには行きたいかな」
「よし、じゃぁその2つを新婚旅行にしよう
!あっしまった」
あわあわと慌てふためく鬼さん。なんだ、ちゃんと考えてくれたんだ、新婚旅行かぁ、前までは自分の命が短くていつ終わっちゃうのかと不安だったから新婚旅行とか考えられなかったけど今は違う。
「えーと…」
「ふふっ」
まだ私は結婚できる歳じゃないから今すぐは無理だけどいつの日にかその夢は絶対に叶えないとね。なんだかこれからの未来が楽しみになってきた。
「ソウキ、ありがとう」
いや、未来が楽しみになってきたのはソウキだけのおかげじゃない。今まで出会ったみんなのおかげだよ。私はソウキに微笑みながら一人一人の顔を思い出していた。
転校してきた私と友達になってくれたゆいちゃん達、彼女達とは色んな思い出を作ったよね、沖縄旅行とか夏祭りとか普段の学校生活でもよく相談に乗ってくれたり、友達になれて良かったよ。これからも仲良くしていきたいな。
我楽多屋の蓮さんとククリちゃんはもし、道に迷っていた蓮さんに出会えてお店まで案内していなかったら今みたいに我楽多屋でバイトをしていることはなかった。それに、蓮さんたちには妖怪関係で困った時にすっごく助けてもらったよね。感謝しても感謝しきれないよ。
あとはカッパさん、いぬがみさんたちは鬼さんの友達でこれからも深くお付き合いがあるかな。メリーさん、飛頭蛮さん、キィさん、もうメリーさんには旦那さんといつまでも仲睦まじくしてほしいし、飛頭蛮さんとキィさんにも出会えて良かった。
火ノ江先輩と土地神様は通常運転のカップリングだ。うーん、土地神様とは色々あったな。寿命を盗られそうになったり、まぁその件についてはもう和解して終わったからいいや。でも、蓮さんと同じで土地神様と出会っていなかったら、火ノ江先輩とも仲良くなれなかったよね。
最後に委員長。彼との思い出は色褪せない素敵なものばかりだった。告白してくれたことは昨日の出来事のように思い出せる。あー…思い出したらまた涙が出てきそう。
「萌香?」
「ううん、今までみんなに出会えた事に感謝しないといけないなって考えてた」
知り合いのお坊さんやお寺の妖怪達、あとは今まで出会ってきた商店街の人たち、泥田坊や油赤子のあーちゃん、悪魔のベリト、妖怪界のお店の妖怪たち。もう数えたらきりがないよ。
「そうだな」
笑顔で返してくれるソウキに私は最高の笑みで言う。
「これからもよろしく」
「もちろん」
そう言った後、ソウキは私の唇に自分の唇を重ねて優しいキスをした。
今、私は幸せ者です。今までのどれよりも何よりも、だから、この幸せをみんなに分けたいな。
そして、この幸せがいつまでも続きますように。
これにて203号室の人外さん、完結です。
昨年の6月から今まで150話と長くお話を投稿出来たのも読んで下さったみなさまや感想と活動報告とメッセージで応援してくださったたくさんの方々のおかげです。
ここまでお付き合いありがとうございました。
大袈裟な表現かもしれませんが今、感謝の気持ちでいっぱいです。
それでは、みなさまにこれからも素敵な作品や作者さまとのご縁がありますように!
心の底から願っております
今までありがとうございましたっ!
それと、203号室の人外さんのモブキャラが活躍するお話『203号室の皆さん』では萌香と鬼さんの10年後のお話で完結しています。
萌香と鬼さんの間に生まれた子供とか
萌香の将来、就いた職業とか
10年後のみんなはどうなっているのか
委員長や火ノ江先輩などなど
気になる方はぜひどうぞ!