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デリリウム・ブラックリリー 〜ギャルと優等生の異世界サバイバル〜  作者: 霧色瑪瑙


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8/16

ヘンゼルとグレーテル

 朝。

 小屋の窓から差し込む日差しと、硬く冷たい床の感触で目が覚める。

 抱えた恒温石のあたたかな温もりが救いだった。

 ……私だけ使っているのはずるいだろうか。今度紗夜にも持たせてやるか。


 体をさすると、少しべたつく嫌な感じがした。

 

「……流石に体を拭くくらいはしたいな……」


「んん……? おはよう……」


 独り言で起こしてしまったのか、紗夜ももぞもぞと動き出す。


「ちょっと水出してもらえるか?」


「はい……『ウォータ』」


 紗夜がそう唱えると、指先からちょろちょろと水が流れ出る。

 タオルでそれを受け止めると、服を半端に脱ぎつつ全身をさっと拭いた。


「……なんか、器用ね」


「そうか?」


「っていうか、タオルも持ってたんだ」


「まあ流石にコスメしか入ってなかったわけじゃないよ……洗って紗夜も使う?」


「んー……じゃあそうしようかな……」


 あまりその辺り忌避感とかも無いらしい。

 朝の紗夜は随分気怠げだ。低血圧なのだろうか。


 一通り清潔にした後、昨日摘んでおいた葡萄もどきを口にする。採取後も3日ほどは問題無いらしい。


 サバイバルみたいなことをしている状況で、随分贅沢な朝の時間だと思った。


「これおいしーわね……葡萄より良いんじゃない?」


「好みの範疇だと思うけど、遜色無いな」


「なんかあんまり困らないわね。水も食べ物も」


「そうだな……」


 当然だが、今の状況は小屋と手記によるところが大きい。

 素人2人のサバイバルにも拘らず、状況が安定しつつある。


 だが、不安要素もあった。


 魔物。


 実際目にしたわけではないし、手記にも記載は無いが、足跡からその存在はほぼ確実。

 小屋が魔物に目をつけられる前に、人里を見つけて潜り込むのが理想だろうか。……正直それも怖いが。魔物対策としては良いだろうが人里にもリスクはあるし、私たちが若い女2人である以上それは尚更だ。

 

 天秤にかけることになる。魔物と遭遇するリスクと、人間の悪意に晒されるリスク。


 人間が存在しないという線は、小屋の存在からして薄いだろう。手記については人が書いたものかも怪しい代物だが。

 とにかく、天秤に乗せる材料が無ければ始まらない。


 

「今日は、探索をする」


「探索?」


「昨日も言っただろ。死ぬまでここで暮らすわけにもいかない」


「まあ、そりゃそうね……」


「目的は人里を見つけること。あるいはそこまでいかなくとも、周辺の地形を追加で把握すること。更に言えば、魔物を一方的に発見すること」


「多くない? 絞ったら?」


「充分絞ってる。細かい目的を挙げたらキリが無い」


「全然絞れてないけどな……やっぱり頭いいふうに喋ってるだけなんじゃない? 本当に頭が良ければみんなに分かりやすいようにできるよね」


「いい加減泣かすぞバカ」


 紗夜、この女……この状況で、なかなかいい性格をしている。学校に居た時は、一切そんな印象は受けなかったが……。

  学業においては少なくとも紗夜よりマシだというところを、どこかで一度しっかり教えておいた方がいいかもしれない。


「まあいい……今回の探索だが、目印を付けながら進んでいく。小屋が見えなくなる距離まで進むつもりだからな。目印は何でもいいが、これを使う」


 私が取り出したのは……セロハンテープだ。


「よくそんなもの持ってたわね」


「小学生の弟が使うとかで、買っておいたんだ。こんなところで役に立つと思わなかったが」


「仲良いの?」


「……まあ、良い方かもな」


「……ふうん」


 何か含みのある相槌だった。

 今の受け答えにどう思うところがあったのか全くわからないが……。


「とにかく、これを一定間隔で木に巻きながら進んでいく。ヘンゼルとグレーテルだな」


「じゃあダメじゃない」


「セロハンテープは鳥に食べられないからいいんだ」


 だが実際……これだけでは不安だ。テープは見にくいし劣化しやすい。私は方向感覚に自信があるから、それを補強する形での目印になる。


「そして、魔物が出たら……相手にもよるとは思うが……一直線に小屋まで逃げる。撒くのが理想だが、余計な動きをして追い付かれ殺されてたら本末転倒だ。とにかく逃げる。いいな」


「わかったわ」


 対抗手段は用意してあるが……通じるかもわからないそれに頼るより、逃げられるなら逃げた方がいい。

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