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デリリウム・ブラックリリー 〜ギャルと優等生の異世界サバイバル〜  作者: 霧色瑪瑙


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新しいページ

 私達は魔法を使えるようになった。

 手を繋ぐ必要があったのも最初だけで、今はそれすら必要無く、自分の中の魔力を感じて魔法を行使できる。


 手記に載っていた魔法は4種類。

 ファイア、ウォータ、ウインド、ライト。

 効果は名前の通りだった。それぞれ指先から発動し、ガスバーナーのような炎、ペットボトルから溢れるような水、ドライヤーのような風、豆電球のような光が出る。


 非現実的、超常の能力。

 だが。


「威力が足りない……」


 革命的ではある。水だって、無尽蔵に出せるなら今後確保に奔走する必要も無くなるし、行動の制限も緩くなる。……まだ飲んでいないので、飲用に足るかわからないが。

 だが、少なくとも武器にはなり得ない。魔物には、恐らく届き得ない。


 魔物。

 姿が想像もつかない以上、確実に通じないとも言えないが……丈夫な動物くらいの脅威としては見ておいた方がいいだろう。

 そして、私の魔法でグリズリーを倒せるイメージは全く湧かない。


「だから鍛えるんでしょ? こうやって!」


 紗夜は魔法を使えるようになってからずっと出しっぱなしにしている。水は小屋の中で出して欲しくないし、火も同様なので風魔法だ。反復使用により威力が増すと考えているらしい。


「やめた方がいいと思うけどな……」


 魔法が何をリソースにしているのか、わかったものではない。

 体内のエネルギーを使うならダイエットにはいいかもしれないが、こんな極限状況下でダイエットなど正気の沙汰ではない。なんなら強制ダイエット中と言えるのに、余計なカロリーを消費するのは得策ではない。

 目下有用な消費先は……探索だ。


「じゃあどうしろっていうの? あなたもペラペラ手記を読み返しているだけで、何かしようとしてないじゃない」


「もうじき日が落ちる。明日探索するために今日は体力を温存しておくべきだ。太陽は二つあったけど、二つとも同じように傾いていたから、ちゃんと……昨日と同じように、夜が来る」


 昨日は野宿をした。他に選択肢がなかったから成り行き上当然だったが……今日は小屋がある。風も虫も夜の恐怖も、昨日よりは凌げるはずだ。ささやかな菜食だが食事も摂った。明日は回復した体力で探索を行いたい。


「まあ確かに、何もできないか」


「しない方がいいんだ」


「何か違う? それ……」


 全然違う。こういった感覚の差異があるとこの先が不安になる。

 現時点で、私たちは運命共同体なのだ。


 ……ふと、捲っている手記に違和感を覚える。


「……は?」


「? どうしたの?」

 

 慌てて最初からパラパラと捲り直す。

 超常現象。魔法が使えて、他のものに起こらないとも今更言えなかったが、それは衝撃的で……希望だった。


「────手記のページが増えてる……」


「えっ、嘘!? どういうこと!? 新しい魔法載ってる!?」


「待て……増えたページを読むから」


 増えたページを探し当てる。暗号で書かれたページと対応表の間に追加されていた。

 中身は、暗号。だが、最早解読に時間はかからない。

 何度か読み返して、私は一々表を参照せずとも暗号を解読できるようになっていた。


「『これは窓である』」


「? どういうこと?」


「知るか、そう書いてあるんだよ。……『この窓のような埒外の道具をアーティファクトと呼ぶ。小屋の近辺にもう一つ配置されており、恒温石という代物だ。常に人肌程度の熱を発し、温度の基準となる』」


 アーティファクト。確か人工物、という意味だが……この感じだと、ここではオーパーツみたいな意味も持っていそうだ。

 

「恒温石? その石……だからなんなの? って感じなんだけど」


「……私も同じ感想だけど……取っておこう。この手記と同じカテゴリのものなら、何かの役に立つかも知れない」


 高く売れるとかな。

 まあ、売ろうと思ったらまず人間のコミュニティを発見した上で、そこから排斥されず馴染む必要があるわけで……いや、行商人みたいなのを見つけて直接交渉できればそのプロセスは省けるか。


 

 散漫な思考を払い、小屋を少し出て、手記に記された目印に従い歩く。


 そこで、素手で土を掘った。衛生面が気になるし、爪に土が入ってくるのが嫌だったが、この際受け入れる。たまたまショートのネイルチップのために短くしていてよかった……。

 ……あとで紗夜の魔法で洗ってもらおう……。


「……あった。確かに、暖かい」


 恒温石。

 名前通り、暖かい……だけの石。

 だが、その暖かさが妙に心に染み込んできた。

 アーティファクトなんて大層な名前がついているからには、もしかしたら心に作用するような機能も持ち合わせているのかも知れない。

 


 小屋に帰り、紗夜と少し軽口を交わして、爪の間まで手を洗って……そしてそのまま、鞄を枕に、硬い小屋の床で眠りに就いた。

 明日には家のベッドで目が覚めていますようにと、望み薄な願いと共に。

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