普通いるでしょ
「あら芽愛、おかえりなさい。それが収穫?」
「アロエもどきと葡萄もどきだ。水分も補えるだろ。……魔法の調子はどうだ?」
「今の所全然できる気しないわね。まあこれからよ。……なんか、元気無い?」
こいつ……よく気付くな。
私の振る舞いの変化は恐らく元気が無いというより、新たな不安の種が原因だが……。
「……魔物って、いると思うか?」
「? いるでしょ、普通」
「普通じゃない……」
普通魔物はいないし、魔法も使えない。
まあまだどちらも実際に見ていないから、私たちはギリギリ普通の中にいるとも言えるが……。
「……外に、見たことのない足跡があった。魔物か……そうでないにしても、この世界特有の生物である可能性が高い」
「え! じゃあ早く魔法覚えないと……」
「そうなんだよなあ……」
紗夜のアホみたいな発言は、実際この状況において解決策の一つだった。
そんなものに縋るしかない現状にはかなり問題がある。
「ナイフの一つでもあれば心持ちも違うんだがな」
あればサバイバルの面でもかなり楽になるだろう。
「作ったら? 芽愛ならできそうじゃない?」
「…………」
「? どうしたの?」
思い付かなかった。
選択肢から外していたが、確かに……材料を見つけられれば、できなくはない、と思う。
「……やってみるか。刃物があればかなり変わってくる」
「おー、頑張れ! 私も魔法の練習しとくから!」
紗夜はやはり楽観的だ。
魔法の練習とは、果たして効果があるものなのだろうか。
今できなければ一生できなくてもおかしくないような気もするが……。
口には出さず、ナイフの材料になるようなものを探しに外へ出た。
◇◇◇
「嘘だろ……」
ありえない。およそありえないことだが、現実に、目の前で起こっている。
ナイフが……できてしまった。いとも容易く。
石と石をぶつけただけ。石器時代のような代物だが、確かにナイフが完成した。
なんで?
いや、まあ、石器時代にだって技術はなかったはずだ。黒曜石なり、石の選定は必要だろうが、この程度なら簡単に作れたっておかしくはない、気もする。
運良く適切な石を見つけていたということだろう。
切れ味は……悪くない。試し斬りをしてみたが、そこらの蔦のような植物を、大した力も入れずに切断できた。
だが……採集用には良いが、護身用には──心許ない。
柄が無いのが問題だった。力を込めて握ることができず、獣相手に力強く突き立てることは難しいだろう。
「まあ、無いよりマシだな……」
少しガラス質のようにも見えるナイフ。
そこに映る自分の顔……化粧の崩れた情けない顔に、ふと学校での生活を思い出した。
友人達に、クラスメイト。言い寄ってきた男達。
私は……気質にしては上手くやっていた方だと思う。
武装として纏っていた、所謂ギャルっぽい格好は、なかなか都合良く作用していた。
だが、今この場において……そこに戻りたいとは思わなかった。
この環境に来て初めてわかった。きっと私は……疲れていたんだ。
人間嫌いだなんて思ったことは無いが、多分、上手くやろうとしすぎていた。
紗夜は良い。見る限り、彼女には打算が無い。
不器用なんだろう。見かける度に、一生懸命に何かしていた。人を上手く頼れず、自分だけ大変そうにしていた。
……この場での印象は少し異なるが……。
とにかく、私はできる限り紗夜を助けてやるつもりでいる。そのためには、石のナイフだけではなく、何かもう一つ────武器が欲しい。
魔物に対抗するための武器が。
手記には……食べてはいけない植物も記されていた。




