魔法?
数時間かけて解読した手記の内容はまさに救いの糸だった。誰が何のために書いたのか分からないのが怖いが。
まず、周辺環境のことが細かく記載してあった。食べられる植物、食べられない植物、安全な水場。
これだけでも今の私達にとって値千金の情報だ。
そして────魔法について。
「魔法よっ、魔法! 信じられない、最悪だと思ってたけど、最高っ! 魔法少女になれる!」
紗夜は随分と上機嫌だった。
私だって女児の頃はそういうものに憧れたこともあったが……そう書いてあったというだけでここまで舞い上がることはできない。
そして、高校生は少女なのだろうか?
「魔法少女になりたかったのか?」
「え、普通そうじゃないの?」
「個人差はあるだろうな……」
「ふーん。まあ芽愛にその気がないなら、魔法は私に任せて! 全部解決してあげるから!」
全部って、どれだろう。
だが、実際に……火を熾すとか、水を出すとかの魔法を使えるなら、この状況ではありがたいことこの上ない。
手記に記された安全な水場とやらも、今現在どこまでリスクが無いのかはわからない。
「期待してる」
手記に記された『魔法を使うプロセス』自体は単純なものだった。
体に流れる魔力を感じ取り、呪文によって収束させ、発現させる。
だが、私が試した限りでは、すぐには実現できなかった。
まず魔力を感じ取るとかいう部分からして意味不明だ。少なくとも私達の世界ではそんなもの無いというのが常識で、あるはずのないものを感じ取れるわけがない。
呪文もいくつか記されていたが……どの呪文で何が起きるのかも書いていない。
そして、リスクに関する記載もなかった。
魔法がノーリスクノーコストで発動するとは、私には考えられない。仮に魔法を使えたとして、何かしらの制約、代償……失われるものがあると思ったほうがいい。
故に、紗夜にもあまり手を出して欲しくはないのだが……ここまで本人が乗り気だと、止めてしまうのは良くない。紗夜の精神状態や私たちの関係性を鑑みて。
「紗夜はここでしばらく魔法を試すか?」
「そう言ってるじゃない」
服、洗わなくていいんだろうか……。
「わかった。私は採集に行ってくる。……水は持ってこられないから、喉が渇いたら自分で飲みに行けよ」
「わかったわ!」
本当にわかってるのか不安になる類の元気な返事だ。
……まあ大丈夫だろう。
小屋を出て、手記に記されていた水場へ向かう。
幸い小屋周辺の見通しは悪くなく、遠くへ行かない限りは帰り道に迷うこともないだろう。
「水だ……」
特徴的な岩などを目印に水場に辿り着いた。
数日ぶりに見る綺麗な水に思わず感嘆の声が漏れる。
湧き水だ。透き通っており、見た目には問題なさそうだった。
リスクも、池から単に上流へ向かって得られる水源よりは少ないだろう。
我を忘れて水を啜る。
一気に口内に、喉に、体内全てに潤いがもたらされる。
衛生状態も信頼しきれないようなただの湧き水が、今まで口にしたどんな飲み物より甘美だった。
まさに生き返る心地だ。
「……このくらいにしておくか。後は、食料……植物の採集だな」
手記に記されていた特徴を頼りに、食べられる植物を探す。
葡萄のようなベリー、棘の無いアロエのような多肉植物。
それぞれ水分を含んでいて、先にこちらを確認していれば水場でリスクを冒す必要もなさそうだった。
素手で問題なく採集できるのもありがたい。
葡萄もどきの皮を剥いて口にしてみる。
……皮の裏には寄生虫の卵が植えつけられているらしいので、果肉ごと念入りに剥いて。
「…………美味しい……」
甘く、瑞々しい。宝石を口にしたような心地だった。
これを紗夜のところに持って帰ることで頭がいっぱいになった。
紗夜が子供みたいに喜ぶ顔が目に浮かぶ。
ふと、目の端に何か、違和感のある光景が映った。
足跡。
水場に近く、少しぬかるんだ土に足跡がついている。
だが、私や紗夜のものではなく、そして恐らく……人間のものでもない。
もし、この世界が剣と魔法のファンタジーなら、剣と魔法で対抗しなければならない『敵』がいたっておかしくない。
足跡は幸い、小屋の方に伸びてはいなかった。
「……少し、怖いな……」
口でだけ適当に返事をして、紗夜の魔法には期待なんてしていなかったが……頼ることになるかもしれない。




