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「う、埃っぽい……」
紗夜の見つけた小屋。
狭く、埃だらけだったが、雨風を凌ぐ事はできそうだった。
ある程度掃除できればしばらくの拠点になり得る。
昨日は野宿をしたが、色々とリスクもある。雨が降っていなかったからマシだったが、それでも虫や動物などが怖い。
小屋の中を見回す。が、大したものは無さそうだった。
ぱっと見で机と椅子くらいしかない。
「ねえ見て。手帳がある。交換日記?」
紗夜は何かを見つけたようだった。
手に持っているのは、やや大きめの手帳だった。革の装丁が気品を感じさせる。
「そんなわけない……とは思うが、だとすると朗報だな。この極地でそんなことをするくらい、余裕が生まれる何かがあることになる」
だが、より良いのは……具体的な生存のための知識が記されていることだ。
媒体の性質上、根本的な懸念はあるが……。
紗夜が手帳を手に取り、ぱらぱらと捲る。
かと思うと、愕然とした表情でこちらを向く。
「ねえ……読めない」
「やっぱりか……」
そうじゃないかとは思っていた。
ここはそもそも植生からして日本でない可能性が高く……だとすると、手帳の中身も日本語以外である可能性が高い。
「こういうのだと、読めるのが相場なのに……」
「どういうの?」
「転移モノ。ライトノベルとか読まない?」
こいつ、意外とそういう趣味はあるのか。
まあ、門限がどうとかも言っていたし、手を出せるのがインドアなものに限定されるんだろうな。
「読まないな……。本自体あまり読む方じゃない」
「うそ、ずっと頭良さそうな喋り方してるのに。格好つけてるだけ? あなたも成績悪いんじゃない」
こいつ、結構言うな……。
紗夜は鬼の首を取ったように嬉しそうだ。口元に手を当て、小馬鹿にしたような笑みでこちらを見てくる。
「本を読まないって言っただけだ。成績が悪いとは一言も言ってない」
「じゃあどのくらいなの?」
「…………真ん中ちょい上くらい」
紗夜が再びこの世の終わりみたいな表情でこちらを見てくる。
「……なんだよ」
「…………なんでもないわ。手記、あなたも読む?」
「ああ、うん……」
大方……思ったより高くて……というか、自分より高くてこうなっているんだろう。
紗夜は多分、結構……アホだ。優等生っぽい雰囲気で、実際真面目だろうが……それは能力の裏付けになっていない。
まあそこは不真面目なバカよりマシと思って付き合っていくべきか……。
紗夜に渡された手帳。というか、手記と言うべきか。
表側と思しきところからぱらぱらとめくっていく。
紗夜の言った通り、全てが読めない字……見たこともない字で記されていた。
ロシア語だって韓国語だってアラビア語だって、読めないまでも見覚えくらいはあるし、ある程度、何語かくらいは判断できる。
だが、この文字に関しては……記憶の中に一切の手掛かりが無かった。
「別の世界……」
不意に浮かんだ馬鹿げた言葉。
だが、植生とこの文字、そして……目を逸らしていたが……何故か二つある太陽と合わせると、非常に蓋然性の高い仮説となる。
「芽愛もそう思う?」
「……紗夜もか」
「こんな状況、それ以外無いでしょ」
言い切れはしないが、実際……そうとしか思えない。
一応全てのページを見ようと、最後まで手記のページをめくる。
9割程飛ばしたところで……手が止まった。
驚きと焦燥、期待。
そして……夏休み明け直前に溜まった宿題を前にしたような重苦しい気持ち。
「…………おい、読めるぞ」
「え!? 嘘、芽愛にだけ読めるの!? ずるい!」
「ずるいとかじゃなくて……紗夜お前、最後まで読んでなかっただろ」
後ろの方のページに、まるでおまけみたいについていた、明らかに書き手の違う文字。
それは、日本語で────辞書だった。
「見ろ。冒頭の謎の文字と日本語との対応が書いてある」
「ほ、ほんとだ! じゃあ全部読めるじゃない!」
「ああ……」
本来こんな数ページの辞書で異言語の全てが解読できるはずもなく、紗夜のこんな言葉など一笑に付すところだが……実際それができそうな内容だった。
このページには、謎文字と平仮名が一対一で対応すると記されている。
つまり、前半の謎文字で記された文章さえ本当は、異言語ではなく日本語で────きっと、ただの暗号だった。




