プラン
「あーーー! もう、ふざけやがって! あの内外ピンク女!!」
クロエとのいざこざがあった後、さらに眠って……また目が覚めた。
体は完全に回復していた。
クロエのおかげなどとは、あまり考えたくない。
やり場のない怒りを叫ぶことで発散するのにも飽きて、もう一度ベッドに倒れ伏す。
……これ以上寝るわけにはいかない。
既に再三寝た後だった。
サムライ野郎を逃がしてからクロエと相対するまでも寝ていたし……今も体感結構寝た感じがする。これ以上無為に過ごすのは自分が許せなかった。
とりあえずは寝ぼけ眼のまま布団をどけて、ネグリジェ姿のまま部屋を出ることにする。
家の中でなら、会うとして紗夜かクロエだ。
このような薄手の格好でも別に問題無いだろう。
……いや……クロエ相手だとダメだな……。もう……。
だが、今は着替えるのも億劫だった。諸々重たい気持ちを振り払い、結局ネグリジェのまま部屋を出る。
まずは時間を確認したかった。この家において、掛け時計はリビング(でいいのだろうか……)にしか存在しない。
時計の読み方は私達の世界と完全に一緒だった。浪漫は無いが、楽でいい。そこに文句は付けない。
今はまだくだらない文句より生存を優先するべき、予断を許さない状況だとわかっていた。
生活が安定してきているとはいえ……殺しが生活に組み込まれている上で、真の意味での安定、あるいは安寧など決して訪れない。
いつこの稼業が原因で恨みを買い寝首を掻かれるか、わかったものではない。
そして、リビングで時計を目にして……私の顔は、驚愕に歪んだ。
「11時……?」
クロエを追い返した時、奴は確か昼頃だと言っていたはずだ。実際日の高さもそのくらいだったと記憶してる。
そして、その後、私は間違いなく寝た。少なくとも6時間は寝た感覚があった。
「まさか……二十四時間近く寝たのか……?」
下手したらそれ以上寝ている。日付がわからない以上、2日以上寝た可能性もある。
……いや、それならばデートの約束がある紗夜が私を起こしにくるはずだ。全く起きなかった、とかでない限り……。
人を殺し、灝素を吸収したことの疲労が余程のものだったのだろうか。
……あるいは、殺人自体が未だ私を著しく疲労させるものであったか。
「…………」
家に人の気配は無い。
紗夜は仕事で、クロエもその護衛だろう。
どちらかというと無防備に信じられない爆睡をキメている私の方が危機的状況にあった気がするが、まあ紗夜を守ってくれる分には文句は無い。
今は……自由時間だ。
何をするべきか……あまり選択肢が思い浮かばない。
案内役に適したクロエもいない状態なので、できる事の幅はかなり限られてくる。
思えば紗夜と行ったレストランと紗夜の働き先の他は、殺人現場くらいしか存じ上げない。
女子高生としておしまいだった。この世界で私はタピオカ屋のひとつも知らない!(私はタピオカの流行り始めにそれを一過性のくだらない代物だと冷笑していたが、予想に反して未だに根強い人気があり放課後『タピってる』奴らは一定数存在したし付き合わされることもままあった……)
「うーん……」
探索がてら散歩をする、というのがまず真っ先に浮かんだ。さっきも考えた通りだが、私はこのコロニーのことを知らなすぎる。
とは言え、闇雲に歩いても得られるものは少ないような気がしている。
あくまで印象でしかないが……このコロニーの住人は非常に排他的に思えた。余所者に物を売ってやるような雰囲気が感じられない。
何の成果も得られず、紗夜に土産の一つも買ってこられない可能性があり……この案は一旦無しだ。
次に出てくるのは、人の繋がりだ。
このコロニーに来てから様々な人間と出会った。
襤褸を纏って奇声を上げる男(死んでる)、神父風の男(殺してる)、カスの娼館(あの施設を言い表す語彙が私に無いのでこう呼んでいる)のカス客共とカス経営者(まとめて殺してる)。
…………改めて考えてみると散々なラインナップだった。
生きている連中は……紗夜とクロエ以外で、ケレス、クレース、サムライ野郎(多分肝臓を潰した)くらいか?
ケレスとサムライ野郎は候補から外す。ケレスはあれで亡国とはいえ一国の長だ。流石に来ちゃったとか言って会いに行ける間柄ではない。
サムライ野郎は……きっとまだ満身創痍だし、そもそもどこにいるのか知らない。
そこまで考え、私の中で、自然と今日のコースは決まっていた。
それは……紗夜の職場に顔を出し、談笑をしつつクロエから土産をせしめ、クレースの所に持っていくというもの。
自分が恐ろしい。一切の無駄が無い完璧なプラン。
クレースには借りがある。私の心を救ってくれた多大なる借り。
以前美味しい物でも持ってきてくれと言っていたし、今日で多少なり返せるだろう。クロエからせしめたものであれば懐も良心も痛まない。
紗夜との会話も担保でき、まさしく一分の隙も無いと言えた。
今日の私の知性は完璧に冴え渡っていた。
そうと決まれば、動き出しは早い方がいい。
クローゼットからクロエが洗ってくれたらしい制服を取り出し、そのままだと痴女と取られるらしいので上からコートを羽織った。
「くくく…………ははははははは!!」
何故か愉快な気分になって自然と笑えてきて、誰もいない部屋に私のわけのわからない高笑いが反響した。
反響した声を聞くと自分がとんでもない馬鹿に思えて、少し冷静さを取り戻しつつも、冷め切る前に家を出た。




