禁断の果実
やたら豪華な装飾の施された天井が見える。どこかに寝かされているようだ。
周囲を確かめようとしたが、体が重く、起き上がれない。
状況が理解できず、記憶の糸を辿ろうとするが……サムライ野郎を逃して以降の記憶が無い。
「おや、目が覚めましたか」
声をかけられたので、上体を起こしてそちらに顔を向ける。
声の主は……クロエ。
ここは、クロエ(ケレス?)にあてがわれて紗夜と住んでいる家だった。
天井なんてしっかり見たこと無いからすぐにわからなかったな……。
クロエはリンゴのような果実をナイフで剥いていた。
まるで甲斐甲斐しく看病でもしてくれているみたいだ。
そんなことあるか? この女が?
性根はともかく……片眼鏡の女がロングスカートの下で足を組んで皮剥きをしている様子は、清楚で格式高い外見とカジュアルなその仕草がミスマッチながら艶やかで、まるで絵画のようだった。
「お前が私を回収したのか?」
「ええ。状況も把握していますよ、大金星じゃないですか。スコアは9、施設の核となる人物を殺害、敵の重要戦力を負傷させた。この上ない活躍です、少々驚いています。レベル2の能力が覚醒したのかと思ったら、そうでもないようですし……」
クロエの吐く長台詞には、確認したくなる点がいくつもあった。
「どうやってそこまでわかった? 殺した敵の数は死体からわかるとしても……重要戦力……サムライ野郎か? その負傷だとか、私が覚醒したかどうかなんてことはわからないだろ」
「建物の外に見張りを置いていました。出入り口がいくつもあるような構造ではありませんから、一箇所確認させていれば出入りする人間の状態は確認できます。覚醒したかどうかは……見ればわかるんです。私も魔女ですから」
「なるほどな……」
筋は通っているな、と納得する私に、クロエの剥いた果物が差し出された。
それはウサギ型に切られたリンゴそのものに見えた。この世界にも飾り切りの文化があるのかとか、そういった細かい疑問は置いておいて、とりあえず口に運ぶ。味までリンゴなら嬉しいが……。
瑞々しくも歯応えのある独特な食感。主張しすぎない甘味。
これは──リンゴだ。
「お気に召したようで何よりです」
「…………表情に出てたか?」
「結構わかりやすいですよ、メア様」
思わず口の周りを手で覆った。
口元を緩めたつもりはなかったが……。
「今何時だ? 紗夜は仕事か?」
「今はお昼頃で、おっしゃった通りサヤ様は仕事です。大層心配されておられましたよ。あ、サヤ様の今日の護衛は私ではないですけど……問題無いですよね? どちらかというと、メア様のそばにいるべきだと思って……」
前々から思っていたが、クロエの敬語は厳格な部分とカジュアルな部分が入り混じっており、独特の印象がある。本人の性質に起因するものだろうか。
「…………まあ、いい。護衛として戦力的に十分な人間をつけてはいるんだろ?」
「勿論でございます」
そう言いながら、どこから取り出したのかタオルと洗面器を持ってこちらに近付いてきた。
「お体、お拭きいたします」
「いい、やめろ。そこまで弱ってない」
「まあ、そうおっしゃらず」
クロエはそう言って半ば強引に迫ってきて……私はそれを拒みきれなかった。
クロエに促されるままにネグリジェを脱ぐ。
服が腕に引っかかるとき、自分の皮膚なのに感覚が狂っているような、少し変な感じがした。
「…………そもそも、いつの間にか寝巻きなんだが……お前が着替えさせたのか?」
「ええ、汚れておりましたので」
つまり、既にクロエに裸を見られていたということだ。
咎めるつもりはないが、気恥ずかしさと一抹の申し訳なさを感じた。
「……あまり、返り血を浴びた記憶は無いが」
「どういう戦闘したのか知りませんけど、天井や床にぶつかったような汚れ方でしたよ」
それは……心当たりがあるな。
酩酊状態で思い切り足を踏み外し、そのままあちこちにぶつかっていたはずだ。
タオル越しに、クロエの手指が私の体に触れる。
タオル越しでも指の細さや込められた力は伝わってきた。
優しく華奢で、しかし強さを感じさせる不思議な指。それがタオル越しに私の体をなぞる度、背徳とも快楽とも言えない、こそばゆい感覚に襲われた。
少し自分の息が荒くなっているのを感じる。
「メア様、あなた…………女性がお好きなのですか?」
「…………はあ?」




