シリアルキリング
ドアを一つ一つ開け、全ての部屋を虱潰しに探索する。
六割くらいの部屋には客が入っていた。
女の子の年齢や状態にはバラつきがあったが、どの子も良い扱いを受けている様子はなかった。
そういうルールでもあるのか、ノックしてやるとどいつもこいつも鍵を開けてのこのこと出てきてくれたが……途中から面倒になり、ドアを蹴破って、混乱しているところをそのまま殺すようになった。
「八人目……」
作業のように殺し続けた。
同情の余地が無い相手だと気が楽だった。
アイドクレース……教育を受けていた孤児のような存在が出てこないし……出てきたとしても、ターゲットの人間を殺してやるべきだったとわかるから。
「……ナイフが足りないな……」
どいつもこいつもブローチは反応するが……本来なら、クロエはこいつらを全て殺す想定ではなかったのかもしれない。宿側……経営側の人間だけでよく、客は対象外だった可能性がある。
悩んだが、先程までは捨てていた血塗れのナイフを持ち歩くことにする。
こんなもの服の中にはしまえないし、あの男どもの血肉が付いていると想像すると気持ち悪いのでさっさと捨ててしまいたいが……背に腹は変えられない。
きっちり全員始末することの方が大事だ。
そもそも返り血も多少浴びてしまったし、気にしても今更だ。
死体をそのままにして、足早に次のドアを探す。
ただ、建物の構造的に今ので最後だろうとあたりをつけてはいた。廊下は一本で分岐は無く、ぱっと見奥にこれ以上道は無い。
だが、引っかかるものがあり……行き止まりの壁まで歩いていく。
そして────ブローチが熱を帯びるのを感じた。
……まあ、やましいことをするための建物だ。不思議な構造しててもおかしくはない。
こん、と木製の壁を叩くと、空洞があるような軽い音がした。
外面は石造りだったが、内装が基本的に木製であることが幸いしている。今の私なら……簡単に破壊できる。
「ふぅー…………」
大きく息を吐き、……思い切り左足を踏み込んで、右足を壁に向けて振り抜いた。
クロエから渡されたこのブーツには鉄板か、或いはそれに準ずる硬い物質が仕込んである。薄い木製の板を破る事は、私の力と合わせて本当に容易だった。
障子でも破るみたいに穴が空く。
だが、その先は私の予想を裏切っていた。
きらりと、暗い穴の中に何か煌めくものが見える。
嫌な予感がした私は咄嗟に体を捻り、可能な限り素早く左に動く。
後方から破壊音がした。
何か……強力な飛び道具が放たれていたらしい。
────速い。速すぎる。
これまでに見た飛び道具とは一線を画していた。私はクロエの銃弾さえ目で追える状態になっているが……まるで弾道が見えなかった。
ここまで来ると……弾速が無い可能性がある。予備動作のような光が見えるのが救いか。
危なかった。クロエから戦力を保有している可能性を示唆されていなければ……恐らくそのまま踏み込んでいた。
続けて穴の中から光が見える。
私は咄嗟の判断で、それを……右に避けた。先程と逆側。
また、後方から、爆発するような音が聞こえた。
向こうの扱う兵器の詳細はわからない。
発射時のフラッシュだけが手掛かりだ。
右に動いたのは……視線を切ってはいけないと気付いたから。
穴の中を凝視していなくてはいけない。
壁を挟んではいけない。
攻撃が発生する瞬間を視認できずそのまま殺される可能性がある。
二度左に避ければ、視線を穴の奥から切ることになっていた。
攻撃時のフラッシュを隠していない理由はわからないが……何か理由があるか、あるいは……普通は反応できないのだろう。
今の私はきっと────目が良かった。
大体は理解したが、そろそろ攻勢に転じる必要がある。
今避けられているのは、敵が私を狙っているからだ。避ける方向を予測されたり、ランダムな方向を撃たれれば被弾する可能性がある。
一手でも早く近付く必要がある。先程の攻撃間隔は二秒程だった。その時間が来る前に、思い切り踏み込んで距離を詰める。
フラッシュの位置は遠くなかった。
敵の顔は見えなかったが、その光で部屋の構造は確認できている。
床を思い切り踏み抜く。床の破砕音と共に大きく前進し……そのまま、攻撃時に光っていたあたりを蹴り抜く。
金属同士が擦れる音と、鈍い打撃音がして……私を攻撃していた謎の兵器は吹き飛んでいった。
部屋の奥を見据える。
目が慣れてきて……そこに誰かが立っていることがわかった。
「九人目……」
「まっ、待て!」
男の声。
奥に立っている男の命乞いだった。
「お前、何が目的だっ」
「……」
すぐには答えられなかった。
紗夜の安全と、今回に限っては休日遊びに行くことではあるが……それをこいつに言っても仕方がない。
「金ならあるっ、くれてやる。こんなとこ、わざわざ襲うなんて……目的は、金だ。そうだろ?」
「……お前は……金が欲しくてここにいるのか? ここの……経営者か?」
「そうだ、俺が運営してる。金回りも俺が管理して、俺が人を動かしてる。だから、横流ししたって誰にも咎められやしない」
「…………金以外の、目的は?」
「それは……」
男が言い淀む。
金だけが目的でやってる施設ではないだろう。
このコロニーへのダメージと……あとは──個人的な快楽の追求もあるのかもしれない。
どのみち生かす価値の無いカスだ。
横流し、と言うあたり、まだ上はいるんだろうが……こいつから組織構造を搾り出すのは望み薄に思える。
無理をする必要は無い。
男の『待て』という言葉を聞いてしまったのは……気の迷いか。
良くない。
この行動は場面によっては致命傷になり得る。
今回だって……他の敵が合流する可能性がある。
「もういい」
私はそれだけ言って男の首を落とした。
ブローチから熱が抜けるのを確認する。
決着を付けた後、私は他所の部屋から蝋燭を持ってきて部屋の物色を始めた。
別に金品を目的としているわけではない。この施設の実態やルーツに繋がるものを探していた。
そして、帳簿らしきものを見つけることができた。先ほど殺した男が付けていたのだろう。
金があるというのはその場凌ぎの嘘ではなかったらしく、目が眩むような金銭の移動が記載されている。客一人から取っている金が……紗夜の賃金何日分だろうか……。
帳簿を見る限り、女と薬はここが直接どうにかしているわけではなく……他所から仕入れているらしい。
仕入れ先の記載は無く、私独力で解決することは難しそうだった。
あとは……クロエに任せるか。
帳簿を閉じてその場に置き、穴から部屋を出ようとした。
「お前……何をしている」
穴の外から声をかけられた。
また、野太い男の声。だが、今まで殺してきた相手とは雰囲気が違う。
男を観察する。
筋骨隆々、着物のようなものを身に纏っていて、腰には刀。身のこなしが普通ではない。余計な動きが見えず、隙が無い……ように見える。
紗夜ならキャーキャー言いそうなルックスだ。
────ブローチが、また熱を帯びていた。
「十人目……丁度いい、か」
「なんだか知らんが……敵……の、ようだな……」
そう言い放つと、男が放つ威圧感が一層膨らんだ。
多分……他の標的とは比べ物にならないくらいに、強い。




