↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
デリリウム・ブラックリリー 〜ギャルと優等生の異世界サバイバル〜  作者: 霧色瑪瑙


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/48

ゆらぎ

 私はそのまま路地を後にし、帰宅した。

 

 路地と外とではまるで別世界だった。……いや、本当に何か、空気の組成だったりが異なっているのかもしれない。この世界であればあり得る話だ。


「あら芽愛、おかえりなさい」


 既に家にいた紗夜から不意にかけられたその一言に……私はどうしようもなくときめいた。

 心拍のゆらぎを感じていた。

 

 紗夜は私よりも早く帰っていたらしい。クロエの酒場では長時間の労働を強いられるようなことはないようだ。

 

 服装は、酒場の制服からエプロンを取り外したもの。白いブラウス、黒い、少しタイトなスカート。ボディラインを強調するようないやらしさはなくなっていて、むしろ紗夜本来の容姿のイメージに近い清楚で貞淑な雰囲気のある服装になっていた。


「ああ……ただいま」


 まるで夫婦だった。少なくとも私はそんな考えが頭をよぎってしまった。

 紗夜の貞淑な格好が却って情欲を唆る代物にさえ見えてくる。


 邪な考えを霧散させるべく、紗夜との会話に意識を向ける。


「どうだった? 仕事は……」


 …………この言葉も、あまりに夫婦のそれだった。全然意識を切り替えられていない……。


「大変だったわよ、接客業なんて初めてだし……。注文、何回間違えたか覚えてないの」


 それは、容易にイメージできた。

 この女は、何でも卒なくこなしそうなその見た目に反し、ものすごく……抜けている。

 そして、不器用だ。


 ウエイトレスとしてどの範囲の業務を担当したのか知らないが、ある程度はマルチタスクになる仕事だろうし……私は紗夜の場合、容姿以外にウエイトレスへの適性は無いと考えていた。

 やらせるなら……客引きがベストなのではないだろうか。クロエの酒場、『桃源夜亭』はどうもいかがわしい店みたいだし…………。名前からしてピンクな雰囲気があるしな。


「まあ、でも……どうってことないわ。クロエさんもずっと見ててくれたし、変な客はなんか倒れていったし……続けられそう」


「……それはよかった」


 変な客が倒れていったって……クロエの仕業だろうな。

 やりすぎじゃない?

 いや、確か酒場でも言っていたな。ずっとそんな感じらしい。

 

 クロエは仕事の間ずっと紗夜を守っていたらしい。

 正直、そこまで誠実に動いてくれるとは思っていなかった。信じるしかなかったが、信用していなかった。

 『魔女』の価値こそがクロエにそうさせるのだろうか。


「そっちはどうだったの? 何かやってたんでしょ? フィールドワーク? だっけ?」


 私がやらされていた仕事は紗夜には随分平和に伝えられているらしい。

 広義では間違っていない、のか? ……いや、やっぱり違う気がする。


「まあ、こっちもなんとかなったよ。そんなに続けたくはないけど……状況次第だろうな」


 殺しのお仕事は……精神的にも肉体的にも、純粋に負担だった。

 特に精神面について、クレースがあのような性格でなかったらどうなっていたかわからない。あの状況でさえ、関係ないトラウマのフラッシュバックが起きたのに……。


「まあ、別の仕事でもいいんじゃない? 私は続けるつもりだけど、合わないならきっと無理して続ける必要ないわよ」


 あまりに優しいその言葉に、私は少し感動さえ覚えた。


「……そうだな」


 紗夜の場合、仕事は最悪変えられる。クロエの庇護を受けにくくはなるが……マストの条件じゃない。

 クロエに言えば恐らくは融通してくれるし、新しい仕事でもある程度守ってくれるだろう。最悪場所はそのままにキッチンに回すとかでもいいわけだし……。


 だが、私の仕事は違う。

 私の仕事は、紗夜への庇護の代償として……紗夜の庇護を報酬として行っているものだ。

 一人で全てから紗夜を守り切れるだけの力を手に入れるまでは、辞めることはできない。


 だが、それはそれとして……紗夜の気遣いは純粋に嬉しかった。

 

「ねえ、この後ちょっと出かけない? 給料が日払いでさ、もう自由に使えるお金があるんだよね」


「マジかよ。私はまだ何も貰ってないぞ」


 金は別途貰えるはずだが、まだ受け取ってはいない。クレースと別れてすぐ帰ってきたし……。

 早急にクロエをせっついてさっさと報酬を確保しないとプレゼントの一つも買えない。


「まー今日は奢ってあげるわよ。感謝しなさい」


「ありがとう紗夜様……」


「おーほっほっほっ!」


 やたらテンション高いな。初めての労働でハイになっていて、それが疲れに勝ってる感じだろうか。

 というかこいつ……こんなふざけた受け答えできたんだな。

 ……やはり、紗夜は真面目一辺倒という感じではない。慈愛や博愛精神のようなものこそ持ち合わせていて、きっとそれが根幹の部分ではあるものの、しかしただ清廉なだけの人間ではない。しばしば出る軽口に見られるような、人間的な深みが、魅力がある。日本にいる時には見た事の無かった一面。

 

 ドラマツルギーだ。

 きっと日本では、柵のある環境が紗夜をそう振る舞わせていた。

 

 この世界に来て、紗夜と一緒に過ごして……新たに知ることばかりだ。

 知るたびに、ますます……。


「じゃあ出るわよ。芽愛は服それでいいの?」


「まあ……いいかな」


 返り血なんかは付いていないし、替えの服も制服くらいしかない。

 制服は……この世界では、痴女の着るような露出度らしいからな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。