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デリリウム・ブラックリリー 〜ギャルと優等生の異世界サバイバル〜  作者: 霧色瑪瑙


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18/20

のぼせてる?

「上がったわよ」


「ああ……」


 紗夜が『上がった』と言ったが、一体何のことか。


 そう。

 風呂だ。

 風呂なのだ。

 かなり……恋焦がれていたと言っていい。


 この家には、風呂があるのだ。

 

 ありえない? ディンプルキーで入るような家で今更そんなことを言う気はない。

 そもそも街の異様な衛生状態からして少なくとも上下水道が高いレベルで整備されていることは想定できていた。


 それも……理屈は知らないが……温かいお湯が、出るらしい。


 紗夜は湯上がりで少し火照っていた。

 白い肌に僅かに差す頬の赤。

 そしてそれを覆う文字通り濡羽色の長髪が、私の視線を惹きつけた。


「……なに?」


 怪訝な顔でこちらを伺う。

 細められた目も漆黒で、長い睫毛の中に浮かぶそれに引き寄せられそうになった。

 コントラストだ。陶器のような肌に差す赤、そこにかかる暗い髪と瞳がどうしても魅力的だった。


 そしてその肢体は今、この家にあった……薄い桃色のネグリジェに包まれていた。

 その扇状的な服はしっとりとした湯上がりの肌に少し吸い付き、そのボディーラインを露わにしている。


「いや、本当に何? ……疲れてる?」


「…………なんでもない。次は私が入る」


「? うん」


 この世界の人間の美的感覚がどんなものかわからないが……あまりこれを晒したくはないと思わされた。

 何か、考えておかなければならない。


 

 何を言っているのかと思われるかもしれないが、風呂は本当に風呂だった。

 紗夜がやったのだろうが浴槽には湯気の立つ湯が張ってあり、シャワーらしきものの存在も確認できる。

 この辺りに関しては現代水準を期待していいのかもしれない。


 石鹸とシャンプーらしきものまで備え付けてある。それだけで、十分だった。容器は……ガラスだろうか。

 ありがたく使わせてもらう。

 

 頭から全身を洗い、湯で洗い流して足先から湯船に浸かる。


 生き返るようだった。この世界に来てからずっと纏わりついていた皮脂も洗い流され、温かい湯が体を芯から解してくれる。


「ふぅー…………」


 息を大きく吐き、思索に耽る。

 昔から、頭を使うときは湯船の中だった。

 外界から切り離され、普段よりも深く、思考の中に潜ることができる。

 もっともそれは、現代ではコミュニケーションのための電子機器に囲まれていたからだろうが……。


「……質問、あまり答えてもらっていないな……」


 運ばれているとき、ケレスに投げかけた質問。

 会話中あまり頭も働いておらず、その全てを追求することはできなかった。


 だが、口ぶりや要求から推察できる部分もある。


 例えば……ゼノサイトはきっと、ケレス達にとって直接的で強大な脅威ではない。


 ケレスは、魔女という戦力を使う先として、『戦争』を見ていた。

 それはつまり、害獣駆除よりも人間との争いの方に重きを置いているということだ。


 結局ここでも、ヒトの天敵はヒトか……。


 そうであるならば、『レベル2』……覚醒時に得る能力も、害獣駆除より対人間に向けたものであるほうが都合がいいだろう。

 戦争の道具になるにしろ、ケレスと対立するにしろ……戦う相手は人間だ。


 ただ、今あまりそこを考えても仕方がない気はしている。

 手記の記述によれば、あまり自由に選べるものでもなさそうだった。精々方向性を決めておくくらいが良さそうか。


 最も重視するべき要素は────


「芽愛ぁ? 大丈夫? お風呂長くない?」


 風呂の外から声がかかる。

 私としてはあまり長く入っていたつもりもないのだが、思ったより時間が経っていたらしい。

 

「…………すぐ上がる」


「あ、生きてる! いや、疲れてたから、溺れちゃうんじゃないかと思ってー」


「私はジジイでもガキでもない……」


 風呂で溺れるとか意識を失うとかいうのは、子供か老人のイメージだが……若者でも起こり得るのだろうか。


 湯船から出て、改めてシャワーを浴びて更衣室に戻る。

 だが、その更衣室には……私の想定していない異常があった。

 すぐに近くにいるらしい紗夜に、扉越しに尋ねる。


「……おい、私の服は?」


「え? 汚れてたからクロエさんに洗濯お願いしちゃった。いいよね?」


「…………」


 私は暫く制服を着るつもりだった。

 多少汚れているにしろ……替えの服が無いから。


「……つまり…………私も、着るのか。あのネグリジェを……」


「? 別に良くない? 家の中、私とクロエさんしかいないし。あ、そうそう、外出用の服もクロエさんが後で用意してくれるって」


 紗夜はいいかもしれないが……恥ずかしいやら何やらも含めて、私は胸の変な鼓動を感じ続けていた。

 この扇状的なネグリジェを着て誰かの視線を受けるのは、制服のスカートを短く履くのとはわけがちがった。

 髪を金色に染めたり、爪を伸ばしたり付けてみたり、そんなのとは────意味が違う。


「あ、出てきた……のぼせてる?」


 自分が赤面してるのがわかる。

 私はまともに紗夜の顔を見られなかった。


「……そうかも」


 適当に誤魔化して、紗夜を視界に入れないよう横に並んだ。

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