コロニー
一通りの問答を終えると、防護服の男はジェスチャーを交えて私達に歩くよう促した。
「事情はわかった。ついてこい、コロニーに案内してやる」
コロニー。どう捉えるべきだろうか。『村』程度の認識でも問題無いか?
少なくとも、どうやら……こいつ以外にも、人間はいるらしい。
「私歩けないし、芽愛はこれなんだけど」
『これ』とか言うな! こら!
「……荷車がある。そこまでは俺が運んでやる」
そう言うと、男は私達の元へと歩いてきて……さっと私達を抱き抱え────いや、担ぎ上げた。
米俵のように。
「おわあ!?」
紗夜が変な悲鳴を上げる。
「大人しくしてろ。落ちて怪我したくなかったらな」
こいつ、随分と……力がある。いくら男とはいえ、女性2人難なく担ぎ上げるのは並大抵の事ではない。適当に(甘めに……)見積もっても一人あたり40kg、二人で80kgだぞ?
何か仕掛けがあるのだろうか。あるいは、この世界の人間の基本的な強度なのか、実は防護服の中身は筋肉モリモリマッチョマンの変態なのか……。
「変な所に触ったら殺す」
一応忠告しておく。
私は別に気にはしないが……紗夜には触るなよ。
「お前……もう回復してきたようだな。ゼノサイトを殺したのはいつだ?」
確かに、声が出るようになった。体の痛みも引いてきた気はする。歩けるかは怪しいが……。
「20分くらい前だな」
「…………だとすると、随分……」
言いかけて、口を紡ぐ。
私にとって不都合なのか、こいつにとって不都合なのか知らないが……言い切るべきでないと判断したらしい。
荷車にまで辿り着くと、雑に放り出される。
紗夜がめくれそうになるスカートを手で押さえている……私のも押さえておいてくれ。
「縛るものとか無いから、お前達で落ちないようにしておけ」
縄があったら縛り付けるつもりだったのだろうか?
そんなことになれば現代日本なら賠償金貰い放題、人生詰ませ放題の状況だ。
荷車に乗せられ、わけのわからない、知らない大地を進んでいく。
荒野、湿地、熱帯雨林……大した距離を進んでいないのに、植生が目まぐるしく変化する。寒暖差も普通ではない。
仮に特殊な細菌や風土病が無いとしても、人間が生存するには厳しい環境に思えた。
荷車に乗せられている間は手持ち無沙汰だ。
男にいくつか質問を投げてみる。
「お前は何者だ?」
「後で話す」
「素顔、見せてもらってもいいかしら?」
「後で見せてやる」
紗夜も要求を投げかけるが、適当にいなされている。
私は大きく息を吸い込んだ。
一度に質問を投げかけることにする。
「コロニーにお前以外の人間はどのくらいいる? お前の立場は? 食料確保はどうしている? お前のコロニーより大規模な集団はこの世界に存在するか? この世界に人類の天敵は存在するか? いや、ゼノサイトが天敵か? ゼノサイトの種類とおよその近辺の生息数は? ゼノサイトとは何だ? 男女比は? 周辺コロニーとの関係は? そもそも他のコロニーは存在するのか? お前達は何か特別な力を使えるのか? 何のメリットがあって私達を助ける?」
特に聞きたいのは一番最後だ。
基本的に、大抵の集団にとって……無駄飯喰らいを拾う理由は無い。
「お、お前……状況をどう認識してるんだ。……後で答えてやるから黙ってろ」
どうやらこの男は一切の質問に答える気が無いらしかった。
紗夜もなにやら引き攣った顔でこちらを見ている。
ふともう一度、目眩と眠気に襲われる。完全に治ったわけではないらしい。
限界が来て、私は張っていた意識を手放した。
◇◇◇
「……目を覚ましたようだな」
男の声。
私の目を覚まさせたのは……体に対する圧迫感。
下を見ると、私の全身にぐるぐると巻かれた縄。
どうやらこの男は本当に────私達を縛り上げたらしい。
隣を見ると同じように縛られた紗夜がいた。
意識は無いようだ。
背景には殺風景な部屋。石造りの壁だろうか、無骨で飾り気は無く、窓も無い。
「あまり……驚いていないようだな」
「お前が友好的なフリでもしてたら驚いてやれたかもな」
こいつは最初から喧嘩腰だったし、この状況だってある程度予想できたことだ。
あそこで急にコロニーに誘う方がおかしい。
人間は……基本的に余所者を受け入れないし……足手纏いを増やそうとはしない。
屋外で弱っていた女2人だ、労働力として見るにも頼りない。
あるとすれば……女として使おうとするのが最も友好的な対応だろうな。
最悪、臓器ストックや食肉にされる。
人肉は旨みも栄養もなくリスクばかりがあるとのことで、他の選択肢があるなら普通食わないとは思うが……こいつらの置かれた状況や技術力がわからない以上、それもないとは言えない。
────やるか?
レベル2。
詳しい条件は分かっていないが……無傷でこの場を切り抜ける手段はそれしか無いだろう。
祈るだけならタダだ、試してみたっていい。
考えろ……こいつを制圧する能力。
効率が良くて、汎用性があるもの。
「……お前は勘違いをしている」
ふと、男の言葉によりそんな思考に横槍が入る。
「……何を?」
「俺はお前達と敵対するつもりはない。縛ったのは俺の身を守るためで、お前らを害する意思は無い」
嘘にしか聞こえないが……縛った相手にそんな嘘を吐く意味も無いか。
得体の知れない超能力に縋るのを止め、意識を会話に向ける。
「先程の質問に答えてもらえるか? ……お前の目的は何だ」
私がそう問うと、男は無造作に立ち上がり……防護服の頭部を外し、それから分離するように体部分も脱ぎだした。
そこに現れたのは────肩より少し長く伸びた金髪を白い肌に湛えた……まさに王子様とでも言うべき、碧眼の優男だった。
服装は……豪華な礼服と言うべきだろうか。白を基調として所々に金の意匠が施されており、たなびく2つの尾のようなパーツが印象的だった。
「わああァーッ!?」
唐突に隣から聞こえてきた黄色い奇声に思わずびくりと身が震える。
いつの間にか紗夜も起きていたらしく……そして、唐突に現れたイケメン風の男に興奮しているようだった。
「王子様っ! 『王子様』じゃんッ!!」
「いかにも。俺はケレス。亡国の王子だ」
亡国の……?
「国が無ければもう王子ではないのでは……?」
というか、王子自ら防護服で外を出回っていたのか。
「そして、答えよう」
私の指摘をまるで意にも介さず、自称王子は演説をするように語る。
とんでもないスルースキルだ。
「戦争だ」
やたらと通る声で呟かれたその物騒な言葉に、さすがの紗夜にも緊張が走ったようだった。
「当然、人間相手の戦争。俺は、戦わなければならない。祖国を取り戻すための戦いに手を貸して欲しい────────魔女達よ」




