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デリリウム・ブラックリリー 〜ギャルと優等生の異世界サバイバル〜  作者: 霧色瑪瑙


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進行度

「……また、手記にページが増えてる」


 岩に腰掛けながらぱらぱらと捲っていた手記に、また新たなページが追加されていた。


「今度は何?」


「……魔物について」


 曰く。

 魔物とは自然に発生した生物が、様々な外的要因により変異したものだと。

 新たな種として繁栄するものもあれば、突然変異種としてその個体限りで終わるものもあると。

 

「やっぱり、ちゃんと『魔物』なんだ。しっかりファンタジーね」


「そうだな……。さっき倒したやつについても書いてある。『単眼幽鬼』。……寄生された生物? 定期的に被害が出ている、性質(たち)の悪い魔物らしい」


 性質の良い魔物というのが存在するのか知らないが、そう書かれてはいる。

 まあ、ステルスになった上、失血死狙いみたいな蛭飛ばしで攻撃してくるようなのは、色々いる中でも性質が悪い方なのだろう。


 魔物に関する記載はこの程度で、割とあっさりだ。

 状況を変える様な内容だったり、素材の採取を推奨するような記載も無い。

 

 増えたページはもう一枚あった。

 状況を変え得るのは……こちらだ。


「レベル2……」


「え? レベルアップ?」


 紗夜が期待に満ちた目でこちらを見てくる。

 電子ゲーム等も嗜んでいたんだろうか。以前聞いた家庭環境からするとあまりそのあたり許してもらえそうな感じも無いが……。

 まあラノベだとかも読んでいたらしいし、そこまで不自然でもないか。


「ああ。ただ……魔法のレベルアップらしい」


「最高じゃない」


 実際、これからも魔物と相対する事を考えるのなら最高の情報だった。

 現状の魔法に殺傷力は無く、より強力な魔物に対してフィジカルだけで対抗することも難しいだろう。

 魔物でなくとも……虎や熊のような動物にさえ、私達が対抗できるイメージは浮かばない。

 

「レベル2は……『基本的に一人一つだけ得られる能力』で、『条件によっては理を超えた現象を起こせる』らしい」


「基本的に? 条件?」


「そう書いてある。例外があるってことだろうな……」

 

 手記を読み進める。


「『荒唐無稽な能力は実現できない』、『能力は制約と代償を伴う』、『起こせる現象は個人の資質と諸条件に依存する』、『条件を満たし強く願う事で発現する』────『初回発現時に問合せが行われ、許可されたものだけが能力として齎される』」


 現実が揺らぐ。

 今回増えた記載にはありえない内容がいくつも含まれていた。

 ……いや、今更か。太陽が二つある世界で、ありえない形状の生物を、魔法を使って倒した後で……現実味がどうとか言ってたって仕方がない。


「難しい」


「そうだな……」


 紗夜の感想ももっともだが、そもそもあまり、具体的なルールとは言えない内容が多い。

 気になる部分はいくつもあるが────特に、許可という単語。

 許可だと?

 誰が、何を以て許可するというんだ?


 この手記は、いや、この世界は────なんだ?


 観測者がいる?

 神格とでも言うべき上位存在なのか、あるいは……。


 いや、いい。そこについては検討するべきだが今じゃない。

 即物的な利益になるものをまず考えるべきだ。


「開示されていない条件が多いな……」


「魔法いっぱい使ってたら使えるんじゃない?」


「そうかもな」


 実際ありえそうな仮説だ。

 補強する材料は少ないが自然ではあるし、発現の条件でなくとも、起こせる現象の範囲に影響がある可能性もある。


 他に肝要な点……。


「荒唐無稽な能力は実現できない」


「どこから荒唐無稽なんだろ? 言っちゃえば今使えてる魔法だってそうよね」


「誰の匙加減なんだろうな……まあ、『世界を破壊する能力』とか、『元の世界に帰る能力』とかは無理な気がする」


 なんとなく、でしかないが。

 もしかしかたら……それらも条件次第で実現できる程度の匙加減なのかもしれない。


「確かに無理そうね。規模が大きすぎるからそう思うのかしら? テレポートってだけならちょっと使えそうだけど、どのくらい飛べるようになるんだろ」


「……サンプルが要るな…………」


 できるのかできないのか、どの規模になるのか、制約とはどのようなものか。

 わからないことが多すぎる。

 能力の例か、一部でも条件を知りたい。


「それと、代償……」


「MPじゃない?」


「MPってなんだよ、って話だろ……」


 ゲームは私も兄貴のやつをやったことがあるから多少はわかる。

 だが、ゲームのリソースみたいに……能力の代償が生命維持と切り離されていると安易に考えるのは危険だ。

 今魔法行使の時に使っている『魔力』……『ある』感覚があるから言えるが、これは魔法行使のタイミングで減っていない。こちらは回路とでも捉えるべきだろうか……。


「どんな能力にしようかしら……変身?」


 紗夜はかなり魔法少女へのこだわりが強いらしい。


 ……ふと、眩暈に襲われた。


「……すまん、ちょっと横になる」


「え? いいけど……」


 魔物を倒した時から感じていた違和感。

 全身に、熱に浮かされたような感覚がある。

 

 それが強まってきた。

 

 原因がわからない。最悪の想像をすれば、感染症。次点で毒。致死毒なら毒の方が悪いが……。


 関節が痛む。視界がぼやけ、全ての感覚から得られる輪郭が曖昧だった。この状態で次の魔物でも来ればまともに戦えず殺されるだろう。

 

 腕に受けた傷が原因だろうか。出血を促すだけでなく、そもそも私を苦しめるような毒も分泌していたか。


 思考が散漫になり……紗夜の膝に倒れ込んだ。


「うわっと」


「ちょっと、膝貸して……」


 紗夜が、痛いと言ってさすっていたのは、ふくらはぎだったから……多分太ももに寄りかかっても大丈夫だ。


「あなた、私の彼氏?」


「いたことないんだろ? お前……」


「いや、ないけど────っていうか芽愛、めちゃくちゃ熱いんだけど! ……大丈夫?」


「あまり、大丈夫じゃない……」


 紗夜が私の額に手を当て、その熱に驚いている。

 

 良くない。良くないが、どうしようもない。

 こんな状態では何か考えたって好転しない。


 不意に気配がした。

 がさり、という、枯葉を踏みつける足音。


 足音の方に意識だけを向ける。

 ……別の魔物、か?

 

 最悪だった。臨戦態勢は取れない。紗夜に何かしてもらうのも……無理だろう。足が回復しているとは思えない。

 

「おい、お前達……そこを動くな」


 唐突な警告。

 聞こえたのは────男の声だった。

 ここに来てから初めて遭遇した人間。外見から判別できず、暫定人間といった状態だが……。

 

「え!? 何!?」


 紗夜も咄嗟に叫ぶ。あまり刺激しないでほしいが……それを伝える声も出ない。

 私は最低限気絶しないよう必死に緊張の糸を張っていた。


 その男は────宇宙服のような、防護服に身を包んでいた。

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