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余白税  作者: 未確定ログ
第一章 異常の発生
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第6話 消えた日常

“余白税”。


 その言葉が出てから、世界は急に静かになった気がした。


 正確には、静かになったのではない。


 何かが少しずつ削られて、密度が薄くなっている。


 そんな感覚だった。


 朝。


 湊はいつも通り学校へ向かう。


 だが途中で違和感に気づく。


 コンビニがあったはずの場所に、ただの空き地がある。


「……は?」


 昨日まで確実にあった。


 看板も、レジも、店員も覚えている。


 なのに今は、何もない。


 湊は足を止める。


「おい……ふざけんなよ」


 スマホを取り出す。


 地図アプリには“コンビニ”の表示すら消えている。


 まるで最初から存在していなかったように。


 教室。


 湊は机を叩く。


「近所のコンビニ消えてんだけど!!」


 友人たちは顔を見合わせる。


「え、そんなのあったっけ?」


「そっちの方が記憶違いじゃね?」


 湊は固まる。


(またこれかよ……)


 記録も残らない。

 人の記憶もズレる。

 そして“存在そのもの”が消える。


 そのとき、九条が言う。


「それが進行形だ」


 湊は振り返る。


「何がだよ」


 九条は窓の外を見たまま続ける。


「余白税の影響だ」


 レイが不安そうに言う。


「じゃあさ……このままだとどうなるの?」


 九条はすぐには答えない。


 しばらく沈黙のあと、静かに言った。


「“日常が成立しなくなる”」


 湊は眉をひそめる。


「意味わかんねぇ」


 九条は続ける。


「店が消える」


「道が消える」


「昨日の出来事が消える」


「そして、それを覚えている人間も減っていく」


 湊は息を呑む。


「じゃあ俺らの生活って……」


 九条は静かに答える。


「少しずつ“なかったこと”になっていく」


 その瞬間。


 教室の時計が一瞬だけ“数字を忘れる”。


 表示が乱れ、次の瞬間には元に戻る。


「……今の見たか?」


 湊の問いに、レイは青ざめながら頷く。


「見た……」


 九条は小さく言う。


「それが日常の消失だ」


 放課後。


 湊は駅前に向かう。


 昨日あったはずのベンチがない。


 その場所だけ、妙に“軽い”。


「おい……」


 湊は周囲を見回す。


 人々は普通に歩いている。


 誰も違和感を持っていない。


 そのとき、後ろから九条が来る。


「確認できたか」


 湊は振り返る。


「これ、マジで消えてんだよな?」


 九条は頷く。


「“確定されなかったもの”から順に消えている」


 湊は顔をしかめる。


「なんでそんなこと起きんだよ」


 九条は少しだけ間を置く。


「世界は安定を優先する」


「曖昧なものは負荷になる」


 レイが震える声で言う。


「じゃあ……私たちも?」


 九条は否定しない。


「観測され続けなければ、消える可能性はある」


 沈黙。


 湊は空を見上げる。


「それもう……世界って言えんのか?」


 九条は静かに答える。


「今はまだ“途中”だ」


 その言葉が、逆に一番怖かった。


 夜。


 湊は帰り道で立ち止まる。


 街灯が一瞬だけ“数を間違える”。


 一本増え、次の瞬間には戻る。


 湊は小さく呟く。


「ほんとに全部消えるのかよ……」


 そのとき、スマホが震える。


『余白税:進行率上昇』


 湊は画面を見つめる。


「進行率ってなんだよ……」


 レイが震えながら言う。


「ねえ……これ止められないの?」


 九条は空を見上げたまま答える。


「止める方法はまだ分からない」


「だが一つだけ確かなことがある」


 湊は問う。


「なんだよ」


 九条は静かに言う。


「このままだと、“世界の前提”が崩れる」


 その瞬間。


 風が一瞬だけ止まった。

読んでいただきありがとうございます。

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