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余白税  作者: 未確定ログ
第一章 異常の発生
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第5話 余白税という言葉

“記録が消える”。


 その事実が意味するものを、湊はまだ完全には理解できていなかった。


 ただ一つだけ分かる。


 これはもう「気のせい」では済まない領域に入っている。


 翌朝。


 湊はスマホを開くたびに、妙な確認をしていた。


 昨日撮ったはずの動画はやはりない。


 それどころか、「撮った」という記憶すら曖昧になっていく気がする。


「……なんだこれ」


 自分の記憶まで薄くなる感覚。


 それが一番気持ち悪かった。


 教室。


 九条はいつも通り窓の外を見ている。


 レイは不安そうにノートを握っている。


 湊は席につくなり言った。


「なあ、もう一回整理しろ」


「何が起きてんだよこれ」


 九条は少しだけ間を置いてから答える。


「現象は三つだ」


「“抜ける”“揺れる”“残らない”」


 湊は眉をひそめる。


「ざっくりしすぎだろ」


 九条は続ける。


「一秒が抜けるのが“初期”


 意味が揺れるのが“中期”


 そして記録が残らないのが“後期”だ」


 レイが顔を青くする。


「じゃあ今って……後期なの?」


 九条は否定しない。


「移行している途中だ」


 湊は机に手をつく。


「で、それ全部まとめて何なんだよ」


 九条は一度だけ湊を見る。


 そして、静かに言った。


「余白だ」


 その言葉に、湊は眉をひそめる。


「またそれかよ」


「便利な言葉だなそれ」


 九条は首を振る。


「便利ではない」


「まだ定義されていないだけだ」


 レイが小さく呟く。


「じゃあ……余白って何?」


 九条は少しだけ間を置く。


「“決まらなかった部分”だ」


 沈黙。


 湊はため息をつく。


「決まらなかったって何だよ」


 九条は淡々と続ける。


「この世界には“確定しきれない領域”がある」


「そこが残ると、世界は不安定になる」


「だから削る」


 湊は顔をしかめる。


「削るって誰がだよ」


 九条は静かに言う。


「世界自身だ」


 その瞬間、教室の空気が一瞬だけ軽くなる。


 誰も気づかない。


 だが湊だけが気づく。


 今この瞬間、“何かが減った”。


「……今の」


 湊がつぶやくと、九条は小さく頷く。


「それが余白だ」


 放課後。


 レイは不安そうに言う。


「ねえ、それってさ」


「このままいくとどうなるの?」


 九条はすぐには答えなかった。


 窓の外を見たまま、少しだけ間を置く。


「世界は“説明できなくなる”」


 湊は眉をひそめる。


「それもう十分おかしいだろ」


 九条は否定しない。


 そのとき、湊のスマホが震える。


 また知らない通知。


『余白税が増加しています』


 湊は画面を見つめる。


「またそれかよ……」


 レイが小さく言う。


「税って何なの……お金でも払ってんの?」


 九条は静かに答える。


「違う」


「“確定しなかったことの代償”だ」


 湊は顔を上げる。


「じゃあさ」


「俺らは何か失ってるってことか?」


 九条は一瞬だけ間を置く。


「そうだ」


 その瞬間。


 教室の窓の外で、一羽の鳥が“飛び方を忘れたように”一瞬だけ止まる。


 そして、何事もなかったように飛び去る。


 レイが息を呑む。


「……今の見た?」


 湊は小さく頷く。


「見えた」


 九条は静かに言う。


「世界は少しずつ、“決まらない部分”を削っている」


 湊は呟く。


「それが余白税……か」


 その言葉を最後に。


 教室はいつも通りの時間へ戻る。


 だがもう誰も、それを“普通”とは呼べなくなっていた。

読んでいただきありがとうございます。

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