表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
余白税  作者: 未確定ログ
第一章 異常の発生
4/39

第4話 記録の消失

人は「記録」があるから、現実を信じられる。


 写真。

 動画。

 メッセージ履歴。

 誰かの証言。


 それらが積み重なって、世界は“確かだ”とされる。


 だからこそ――


 記録が消えるということは、想像以上に危険だった。


 湊はスマホを見ていた。


 昨日の駅前の出来事。


 確かに撮っていたはずの動画がある。


 “消えた一秒”の証拠として。


 だが。


「……ない」


 フォルダを開いても、その動画だけが消えていた。


 ゴミ箱にもない。


 クラウド同期の履歴にも残っていない。


 最初から存在しなかったように。


「いや、そんなわけないだろ」


 湊は何度も画面をスクロールする。


 他の写真はある。


 友達との写真も、授業中のメモも残っている。


 だが――それだけがない。


 その日の昼休み。


 湊は友人に聞いてみた。


「なあ、昨日の駅前さ」


「動画撮ったの見てたよな?」


 友人は不思議そうな顔をする。


「何の話?」


「いや、お前そんなとこで動画なんか撮ってたっけ?」


 湊は固まる。


「……は?」


 ふざけているわけではない。


 本気で覚えていない顔だった。


 そのとき、背後から声がする。


「消えたな」


 九条だった。


 湊は振り向く。


「おい、なんでみんな忘れてんだよ」


 九条は淡々と答える。


「記録が消えた」


「記録?」


 湊の声が少し強くなる。


「スマホのデータだぞ?消えるわけねぇだろ」


 九条は否定しない。


「普通はな」


 放課後。


 レイが不安そうに言う。


「ねえ……私も見たよ」


「昨日の動画」


 湊は息を呑む。


「じゃあなんで消えてんだよ」


 レイは首を振る。


「分からない。でも確かに見た」


 九条は静かに言う。


「“見た”と“残る”は別だ」


 湊は机に手を置く。


「じゃあさ」


「今起きてること全部、証拠残らないってことか?」


 九条は少しだけ間を置く。


「そうなる可能性が高い」


 その瞬間、湊の中で嫌な線が繋がる。


 昨日の一秒。


 今日の黒板の揺れ。


 そして、消えた動画。


「おい……」


 湊は九条を見る。


「これってさ」


「誰も信じなくなるやつじゃねぇの?」


 九条は否定しない。


 その夜。


 湊は試すように、もう一度動画を撮った。


 信号。


 車。


 人の流れ。


 普通の風景。


 何も起きていないように見えるその瞬間を記録する。


 だが――


 録画ボタンを止めた瞬間。


 画面には“ファイルが存在しません”と表示された。


「……は?」


 保存すらされていない。


 最初から撮っていなかったように。


 湊はスマホを握りしめる。


「ふざけんなよ……」


 そのとき、九条からメッセージが届く。


『この現象は“余白税”の中核に近い』


 湊は画面を見つめる。


「中核……?」


 九条の返信は続く。


『記録が残らない世界では、“現実の証明”ができない』


 湊は息を呑む。


 それはつまり――


 起きていることを、誰にも証明できないということだ。


 レイが小さく言う。


「じゃあさ……これ、全部なかったことになるの?」


 九条は静かに答える。


「そうなる可能性がある」


 湊はスマホを見下ろす。


 何も残らない世界。


 誰も覚えていない現象。


 証明できない異常。


「……最悪じゃねぇか」


 その言葉の通りだった。


 この世界はすでに――


 “なかったことにできる世界”へと変わり始めている。

読んでいただきありがとうございます。

感想・評価励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ