第53話 残存率
削除が進んだ世界では、「存在すること」よりも「残存できること」が問題になる。
湊はもう、現実を“あるかないか”ではなく、“どれだけ残っているか”で見ていた。
朝の教室。
机は一つだけ残っている。
だがその机すら、輪郭が少しずつ欠けている。
存在が“摩耗”している。
「ねえ湊」
レイの声。
今はもう一つの声だけだ。
だがその声には、削除前の残響が混ざっている。
「私、もう70%くらいしか残ってない気がする」
湊は眉をひそめる。
「数字で言うなよ……」
レイは少しだけ笑う。
「でも、それくらい分かりやすいじゃん」
そのとき九条が入ってくる。
九条はもう“ほとんど揺れない”。
固定されていく存在そのものだ。
湊はすぐに聞く。
「なあ九条」
「残るやつって、どう決まるんだよ」
九条は止まる。
「残存率だ」
レイが不安そうに言う。
「それって何で決まるの?」
九条は静かに答える。
「矛盾の保持量」
沈黙。
湊は顔をしかめる。
「矛盾できるやつが残るってことか?」
九条は頷く。
その瞬間。
黒板に“残存率の一覧”のようなものが一瞬だけ表示される。
湊:高
九条:極高
レイ:低下中
そしてすぐに消える。
「……今の、見たくねぇやつだったな」
レイは青ざける。
「私、下がってる」
湊は呟く。
「数字にされるの、最悪だな」
九条は静かに言う。
「評価ではない」
昼休み。
廊下。
湊は歩く。
残っている廊下はすでに一本だけだが、その一本も“薄くなり続けている”。
レイが隣にいる。
しかしその存在は半透明だ。
「なあ」
湊は言う。
「まだ残れると思うか?」
レイは少しだけ間を置く。
「分からないけど……もう長くはない気がする」
湊は顔をしかめる。
「諦めんなよ」
レイは静かに笑う。
「諦めてるんじゃなくて、計算してるだけ」
九条が言う。
「残存は意志ではない」
沈黙。
その瞬間。
廊下の奥に“残存率100%の世界”が一瞬だけ見える。
すべてが明確で、消える気配のない現実。
そして消える。
レイが呟く。
「さっきの、すごく安定してた」
湊は静かに言う。
「でも今はもう、そこに戻れない」
九条は言う。
「残存率は不可逆に変動している」
世界はまだ続いている。
だが確実に――
“現実は存在の濃度によって選別される段階に入っている”。
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